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第2話 美味しそうな香りって。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 その日、アルベルト様が持って来てくれた小瓶には、キラキラと輝く宝石のような砂糖菓子が詰められていた。


 私は思わず、その小瓶を太陽の光にかざしてみた。私の頬に七色の光が映り込むのを見て、アルベルト様が、眩しいものでも見たように目を細めたことには気がつかずに。


 飽きるまで眺めると、出会って初めて、アルベルト様に向かって心から微笑んだ。

 そして、今日こそ言おうと思っていた言葉を伝えることにした。


「アルベルト様……。いつもありがとうございます」


「ライラ……」


 アルベルト様は、顔を出すたびに、いつも気を使ってくれる。

 その優しげな笑顔を見るだけで、私は満開の花畑にいるみたいに、幸せな気持ちになる。

 来ない日は、いつ来てくれるのかとつい期待してしまう。


 このまま、変な期待をして生きていくのはつらい。

 いつかは、来てくれなくなると分かっているのに。

 それなら、今のうちに感謝の言葉とお別れを伝えた方が良い。


 沈黙の時間が、二人の間を流れる。

 アルベルト様は、何も言わずに私が口を開くまで待っていてくれた。


 どれくらいの時間が過ぎただろうか。

 ほんの数十秒だったかもしれないし、もっと時間が経ったかもしれない。


 今、言わないと、きっともう言えなくなってしまう。


「――――アルベルト様、私はもう大丈夫です。今まで、気にかけて頂いてありがとうございました」


「ライラ?」


 上司の娘という重荷がなくなるはずなのに、アルベルト様は、どこかショックを受けたように、小さく肩を揺らした。


「――――もしかして、俺が来るのは迷惑だったかな」


 なぜ、傷ついたようにみえるのかしら?

 ホッとすると思っていたのに。


「え? 私は……来て下さるのを心待ちにしていましたよ?」


 しまった、これじゃ、さっきの言葉を伝えた意味がなくなってしまう。

 でも、仕方がないよ……。

 アルベルト様がここに来てくれるのを、いつだって心待ちにしていたのだから。


 その時、急に曇ったみたいに、私たち二人の上に影がさす。


「あ、竜が……」


 その時、空から一匹の竜が舞い降りた、

 それは、ほむらという名前の赤い竜。父の愛竜。

 

 隊長である父と一緒に、ほむらも行方不明になっていたとアルベルト様が言っていたのに。


「ほむら! あなた、無事だったのね」


 父がともにいないことで、悪夢みたいに思えていたことが、現実なのだと突きつけられる。

 それでも、大事な家族が帰ってきてくれて嬉しい。


(ごめん、僕だけ帰ってきて。合わせる顔がないけれど、べリアにライラのことを頼まれたから)


 竜騎士と竜は信頼と友情で結ばれている。

 特に、父ベリアは、ほむらのことを私と同じように、家族として大事にしていた。


 父が遺してくれた屋敷は、庭だけは広い。

 そこに、花壇や植木はなく、何もない殺風景な庭。

 でも、それはそこに、ほむらが降り立つことが出来るようにそうしているのだ。


 幼い頃から竜がいる生活が当たり前だった。

 不思議なことに、父と私は竜の言葉が理解できる。


 竜は知能が高く、人間の言葉を理解するけれど、竜の言葉を完全に理解できる人間は、竜人でもごくまれな存在だ。

 それは、生まれながらに持っている能力なのだと父が教えてくれた。

 

 そういえば、18歳になったら詳しく教えてくれるって言っていたのに。

 父が帰って来ないまま、私は18歳の誕生日を迎え、そして父は帰って来なかった。


(そこの竜騎士、べリアの部下だよね?)


 ほむらの瞳は、父や私と同じ金色をしている。

 魔法が使えないライラでも、家族として認めてくれている大切な存在だ。


「そうよ。時々、心配して様子を見に来てくれていたの」


 チラリとほむらが、アルベルトの方に視線を向ける。


(……黒い色を持った竜人。運命に導かれて、それともライラの香りに惹かれたのかな?)


 ――――香り?


 思わず自分の腕を鼻先に寄せてみる。

 うん、たぶん臭くはない。


(たぶん、ライラが思うような匂いとは違うんだけど。まあ、いろいろな意味で、ライラの香りは美味しそうだよね)


 竜にとって、人間は通常捕食対象ともいえる。

 草食の竜なんて、聞いたことがないし。

 ほむらだって、お肉をたくさん食べる。


「美味しそうって……。食べられたら困ってしまうわ」


(うん、たぶんそんな意味でもないんだけどね?)


 そう言いながら、ほむらが私に鼻先を擦り付けてくる。竜にとって、親愛を表す行動の一つだ。

 嬉しくなって、私も鼻先をほむらのざらざらとした頬に擦り寄せた。


 信じられないような顔をした、アルベルト様がこちらを凝視しているのにも気づかずに。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
本大好き(むしろ本しか興味なし)な男爵令嬢が、竜騎士様の番認定されて、巻き込まれていくファンタジーラブコメです。
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