【ヘンリー視点】作戦決行1
いよいよ、この時がやって来た。
「皆、よく聞け! 本日より作戦を決行する! しばらくは街中の移動になるが、一歩国の結界から出ればすぐに魔の森が広がる! 各自の持ち場をしっかり守り、気を引き締めて行くように!」
ザザッ!! とメンバー達が一斉に敬礼を取る。
(さて、私も気を引き締めて行くぞ……ん?)
何だ? チラッと女の姿が見えたような……気のせいか?
(私の人選にもエスタ卿の人選にも女はいなかったはずだし、作戦会議中にメンバーの顔は全て頭に叩き込んでいる。やはり、見間違いか)
しかし、こちらに向かって小さく手を振る奴がいることに気付いた私は、一瞬頭がフリーズした。
(待て、待て、待て!)
「ちょっ! お前ら、ここで何している!?」
「あ、あの、ヘンリー殿下?」
(はっ! いかん、メンバー達の前で取り乱すなど指揮官としてあってはならない)
「失礼」
(これは幻だ。まずは落ち着け)
私は一旦目を瞑り、深呼吸をして精神を落ち着かせてから再び目を開けた。
しかし、そこに居たのは、やはり見覚えのある顔触れだった。
(何で奴等がここにいるんだ!? ……もしかして、エスタ卿か!?)
人選にはエスタ卿も携わっている。
私はエスタ卿をギロリと睨み付けると、エスタ卿は罰の悪そうな顔をしながらペロリと舌を出した。
(そういう事か)
あの調子では、きっと奴等に上手いこと丸め込まれたのだろう。
(メンバー達の前で下手に揉め事を起こせば士気が下がる可能性がある。仕方ない、魔の森に入る前に隙を見て奴等を排除するか)
「はぁ……」
「あの、ヘンリー殿下、お加減でも悪いのですか?」
無意識に漏れた深いため息に、側にいたメンバーの一人が声を掛けてきた。
「いや、問題ない。行くぞ」
私は招かざる客から目を背けて前進する事にした。
* * *
しばらく街中を進み、休憩地点までやって来た。
各々が休憩を始めたのを確認すると、私はふつふつと湧き上がる怒りを抑えながら奴等の側まで行き、声を掛けた。
「お前達、私について来い」
人気のない場所まで歩くと、私は奴等……
アルフ、クロエ嬢、マリア嬢を睨み付けた。
「お前達は一体何をしに来た!?」
「何って、勿論ベルを助け出すために決まっているだろう」
「そうですわ! お姉様の一大事をヘタレなお兄様とヘンリー殿下だけに任せるだなんてあまりに心許ないです! ですから、私達も同行することにしましたの」
「そうです! イザベル様が大変な事件に巻き込まれたのに、ただ黙って見ているだけなんて出来ません!」
(何なんだこいつ等は……)
怒りを鎮めるために深いため息を吐き、怒鳴り付けたい衝動を抑え込んだ。
「お前達は馬鹿なのか? イザベル嬢の奪還には危険が伴う。これはお遊びではないのだ、さっさと帰れ」
私の言葉にアルフはムッとした様子で答えた。
「悪いがそれはこちらの台詞だ。お前が側にいながらベルは魔王に連れ去られたのだろう? お前こそ、この場で指揮を取る立場ではないのではないか? ヘンリー」
(アルフの奴、密偵を使って情報を仕入れたな)
アルフに限っては、今回のメンバーに入れるか悩んだ。
しかし、アルフは学園の生徒会長であり、次期宰相でもある有能な人材だ。
万が一があった場合は国としても痛手であり、候補からは外していたのだ。
「ふん、情報回りは流石時期宰相と言ったところか。お前は優秀な奴だが、今回のメンバーには加えていない。大人しくクロエ嬢やマリア嬢を連れて帰れ」
私の言葉を聞いたアルフはくくっと喉を鳴らし、ニヤリといやらしい笑みを浮かべた。
「残念だが、僕は父上と国王陛下から許可を頂いている。よって、今回のメンバーに加わることになった」
「何!?」
「僕を侮るな、ヘンリー。お前の考えていることなど検討が付いている。僕は、有事に備えて鍛錬を積んでいるし、そう簡単には死なん。お前こそ、魔王相手に尻尾を巻いて逃げるなよ?」
(……ふっ、アルフはこういう奴だったな)
「戯けが」
アルフについては急遽メンバー入りを余儀なくされたが、クロエ嬢とマリア嬢についてはメンバーに加えるなど言語道断だ。
「え~、クロエ嬢、マリア嬢。悪いが二人についてはメンバーに加えることは出来ん。このまま学園に帰って貰おうか」
クロエ嬢とマリア嬢は顔を見合わせニヤリと笑った。
(ま、まさかこの二人まで……!?)
背筋に嫌な汗がじわっと滲み出る。
「ヘンリー殿下、実は私達も許可を頂いておりますわ」
「私もヘンリー殿下との婚約話が立ち消えた途端、お父様から許可が下りたのです。それに、クロエ様同様にリュカ先生にも話をしています! ほら、ここに書状もありますよ!」
(クソッ、エスタ卿は何やってんだ!)
本日何度目かの深いため息を吐き、頭を抱えながら投げやりに答えた。
「ああ、もう……分かった、分かった! ただし、ここでの指揮官は私だ。少しでも命に逆らったり危険な真似をしたら即刻帰って貰うぞ。いいな?」
「「はーい!」」
(はぁ、先が思いやられる……)
私は思わず空を仰いだ。
空は、貴女の髪色のように澄んだ美しい青色だった。




