【ヘンリー視点】奪還作戦
私はエスタ卿と共に王宮までやって来た。
そして、今いるこの場は、国王陛下の執務室だ。
「何っ! イザベル嬢が攫われただと!?」
「はい」
「全く……お前は、イザベル嬢の近くにいながら一体何をしていたんだ!」
「申し訳ありません、父上」
父上はイライラしながら私の失態を責め立てた。
……貴重な闇の魔力を失った上に、奪われた相手が魔王。
国の脅威になる存在に手駒を奪われたのだ、責められても仕方ない。
側にいたエスタ卿は、私に助け船を出した。
「陛下、僕も油断していました。まさか結界の緩む学園の境目をピンポイントで狙ってくるとは……」
「二人もいながら、全く、情けない! 魔王は魔獣を統率する人物だ。下手に力を付けて魔獣ごと国に攻め込まれてはひとたまりも無い。何としてもイザベル嬢を奪還し、魔王を力を削げ! 奴の自由にさせてなるものか!」
「畏まりました。……父上、イザベル嬢の救出に当たっては魔の森を通らねばなりません。道中は魔獣を斬滅しながら進まねばならず、兵力が必要になるでしょう。つきましては、幾らか兵をいただきたいのですが宜しいでしょうか」
「うむ……やむを得んな。宰相や騎士団長とも相談した上で調整しよう」
「ありがとうございます」
よし、これで兵力を確保出来る。
後は、魔王城までの最短ルートの確認と、魔王に関する詳しい情報だ。
「待て、ヘンリー。お前が行くつもりなのか?」
「はい、私の油断が引き金になった事件です。ぜひ挽回のチャンスをいただきたく存じます」
「……そうか。お前に死なれては困るからな。それなら、魔法省からも人を出そう」
「ありがとうございます」
「エスタ卿、悪いが息子と共にイザベル嬢の奪還に当たってくれ」
「畏まりましたぁ☆ 僕、やられっぱなしは嫌いだから、ちゃちゃっと奪い返してきますよ」
「うむ、頼んだぞ」
私は父上に深くお辞儀をすると、その場を後にした。
回廊に出てすぐ、私はエスタ卿に話しかけた。
「エスタ卿、魔王城はどの辺にあるのか、詳しく話を聞かせてくれ。それと、魔王に関する知識を知っている限り全て話してほしい」
「りょーかいでっす☆ あ、僕の執務室に魔王に関する書籍が多数あるんですけど、良かったら来ますか?」
「うっ……あそこか……」
エスタ卿の執務室は雑然としており、落ち着かないがそんな事を言っている時間も惜しい。
「分かった。すぐに向かおう」
「ヘンリー殿下、今凄い嫌そうな顔していませんでした? 僕、あれでも来客用のソファ周りは多少綺麗にしている方なんですけどねぇ」
「あれでか……」
「あ、そう言えば、この前生徒から差し入れ貰ったんですよ。話も長くなりそうですし、お茶と一緒に用意しますね☆」
あの場で飲食する気にはなれない私は、丁重に断ることにした。
「エスタ卿、気持ちは有難いが、私に気遣いは不要だ。茶はまたの機会にする」
「そうですかぁ。じゃ、部下達にお裾分けしてあーげよっと☆」
「ああ、そうしてあげてくれ。……では、行くか」
私は身を翻し、エスタ卿と共に魔法省へと歩き出した。