俺様魔王は魔獣育てに忙しい4
ポチは、私達の話に飽きてきたのか、ぴょんとラウルの膝から飛び降りると私の方に寄ってきた。
「僕、お腹空いた」
(そういえば、つまみ食いをしたのもお腹が空いたからって言っていたもんね)
「そうねぇ。そろそろご飯が出来るといいのだけど」
すると、ちょうどいいタイミングで扉をノックする音が聞こえ「食事の準備が整いました」との侍女の声が聞こえてきた。
「あら、丁度良かったわね。ポチ、ご飯が出来たみたいよ」
「ポチ?」
「そう、今日から君の名前は『ポチ』って言うのよ。ラウルおじ……」
『おじちゃん』と言おうとしたところ、ラウルの顔が見る見るうちに険しくなったので、違う呼び方に変更することにした。
「……じゃなかった、ラウルパパが名前を付けてくれたのよ」
「我が、パパ!?」
「ポチからしたら、ラウルは親代わりのような存在ですから、パパで良いのではないでしょうか?」
「う、うむ……」
ラウルは気難しい顔をしながらもパパ呼びを受け入れたようだ。
そして、私の側にいるポチは首を傾げながら、言われた言葉を理解しようとしているようだ。
「僕、ポチ? ラウル、パパ?」
「そうよ。君はポチって名前で、ラウルはポチのパパよ」
ポチは返事をするようにウォン!!と力強く吠えると、ぶんぶんと尻尾を振った。
(こうやってみると完全に子犬だよね。かわいいなぁ)
「さて、そろそろ食堂に向かうか。お前達、我に着いてこい」
私たちはラウルの後に続いて食堂に向かった。
食堂では立派なシャンデリアが煌めき、立派なテーブルには美しい花が生けられていた。
(わぁ、素敵なお花。アルノー家よりも装飾が豪華ね)
「我は堅苦しいマナーが苦手でな。ここで食事を取るのは我とお前達しかおらぬし、好きな席で食べるといい」
そう言われても、あまり遠い席では会話しにくいため、私は無難に対面の席に座った。
ポチはラウルの側に座ると、ラウルは運ばれてきた料理を適当に切り分け、余分に用意された皿によそってあげている。
ポチは、バクバクと美味しそうに皿の料理を平らげていく。
「魔獣も人間と同じ食事でいいのですね」
「いや、魔獣は魔の森に自生している木の実や虫、死にかけの魔獣などが主食だ。本来は人間用の食事など食わぬが、ポチはなぜか我と同じものを食べたがってな」
「もしかしたら、ポチはラウルと同じ人間だと思っているのかもしれませんね」
『人間』という聞きなれないフレーズに、ポチが首を傾げて訪ねてきた。
「にんげん? それ、美味しい?」
(うーん、魔獣からしたら人間は餌に近い存在かもしれないけど、ラウルや私と一緒に暮らすなら食べ物ではないことを教えた方がいいかしら?)
私が回答に困っていると、ラウルがポチに向かって話しかけた。
「ポチ、人間は本来餌ではない。しかし、お前が成長し、その内に抱えた苦しみに耐えられなくなった時は、必要になる存在かも知れんな」
「……ラウル」
「我は魔獣全体の統率はするが、人間の肩を持つことはせん。此奴の苦しみを考えたら、人間を襲うなと言うのはあまりに酷な話だ」
「……」
ラウルの話も分かるが、人間側の私からすると複雑な心境だ。
(人間と魔獣が共存する方法はないのかしら……)
「さ、食事が済んだら、食後の運動がてらポチの遊びに付き合うぞ。お前も付き合え」
ラウルはさっさと食事を切り上げるとガタッと席を立った。
私は慌てて残りの食事を食べ終えると、ラウルの後へ続いて食堂を後にした。




