俺様魔王は魔獣育てに忙しい3
「ラウル、この子がいたずらを繰り返す理由なんですが、恐らく試し行動の一種だと思うのです」
「ためしこうどう? それは何だ」
「人間の子どもが主に親や養育者に対して行う行為なんですが、自分をどの程度まで受け止めてくれるか探るためわざと相手を困らせる行動を取ることがあるのです」
「ほう」
「説は様々ですが、自分のことを受け止めてくれるのか、自分にどれくらい愛情があるのを試すために、悪いこととわかっていながらネガティブな行動を取って大人の様子を見る、子どもの愛情確認行動と言われています」
ラウルは私の話に興味があるようで、前のめりになり真剣に話を聞いている。
「ラウルの話を聞く限り、この子はラウルの事を親代わりとして認識し始めていると思われます。つまり、いたずらは心を開いてきているサインということです」
「なるほど。……しかし、我は坊主のいたずらを止めさせたいのだ」
「それは分かります。しかし、今この子は愛情確認を行っている最中ですので、あまり強い力で止めさせるのは得策とは言えません。もちろん、いけない事はきちんと叱る必要はありますが、感情的に怒るのと叱るのは違います」
「う、うむ……」
「それと、ラウルは叱った後、愛情表現をしていますか?」
「愛情表現? それが何か関係するのか?」
「ええ。先程、試し行動は愛情確認行動とお伝えいたしましたが、基本的に子どもは親や養育者から愛情をたくさん受けたいと思うものです。愛情とは、お世話の度合い、とも言い換えられます。大人にお世話をして貰えなければ死に直結する問題ですから、より多くの愛情を欲するのは子どもの生存本能と言えます。ですから、叱られ不安定になった子どもに対して『いけない事は叱るけど、どんな行動をとろうと、私はあなたのことを愛しているよ』と根気強く愛情を伝えてあげる必要があるのです。そして、子どもが『もう大丈夫だ』と納得すれば、自然と試し行動もなくなっていきます」
「なるほどな」
「試し行動をすぐに止めさせる劇的方法は私の知識にもありませんが、基本的には、冷静に叱り、その後愛情をしっかり伝える。この二点と、普段からたくさん愛情を注いであげることがいたずらを止めさせる事に繋がると思います」
ラウルは腕を組むと、ふむと考え込み、しばらくすると口を開いた。
「分かった。まずはお前の言うことを試してみよう」
(良かった。聞き入れてくれたみたい)
「ありがとうございます。この子のお世話や叱り方のフォローなどは私も担当いたしますので、まずは積極的に愛情を注いで様子を見るのがいいと思います」
「うむ、そうだな。……それにしても、お前は随分と育児に関する知識があるのだな。我が人間界にいた時にはそのような育児知識など聞いたことがないぞ」
(それは、前世の育児本と二児の子育て中に得たものだから、この世界にはない知識です……とは絶対に言えない)
「ど、どこかの書物で見かけたものですから……お、おほほほ」
この世界に来てから何度も使った言い訳を、苦し紛れにラウルに向かって伝えると、ラウルは「ふぅん」と興味なさげに答えた。
(ほっ深く突っ込まれなくて良かったわ。あ、そういえば、この子の名前をまだ聞いていなかったわね)
「あの、ラウル。まだこの子の名前を聞いていなかったので教えて貰えますか?」
「ん? 坊主には名前など付けておらんぞ」
「ええ!? 育てるなら、せめて名前くらい付けてあげましょうよ」
「ん~……そうだな……」
ラウルはしばらく考え込むと、ポンと手を叩いた。
「坊主はポチッとした丸みたいに小さいからな。よし、『ポチ』にするか!」
「…………」
(それ、思いっきり犬の名前……)
「何だ? 何か文句でもあるのか?」
「……いえ。何でもありませんわ」
こうして、この幼獣の名前は『ポチ』に決まった。




