俺様魔王は魔獣育てに忙しい2
「よし。イザベル、我の自室へ来い。それと坊主。お前も一緒に来るんだ」
その子は一瞬ビクッとしたが、もう叱られないと判断したようで、ベッドからピョンッと降りるとラウルの側まで駆け寄った。
(あちゃー、余計なことに首を突っ込んでしまった様ね……)
はぁ、と深いため息を吐きながらもベッドから立ち上がり、ラウルの後に続いた。
歩きながらラウルはこの子の事について教えてくれた。
「此奴は我が保護した魔獣だ。通常なら保護などしないがまだ幼獣だったこともあり、城に連れて帰り怪我の治療をしたのだ」
(この子はやっぱり魔獣なのね)
「魔獣の子ども、ですか。初めて見ました」
「ああ……通常人里に現れるのは成獣だからな」
「どうして幼獣は人里には現れないのですか?」
「……そうか、お前は知らぬのか。ま、立ち話も何だ。一先ず我の部屋へ入れ」
ラウルはそう言うと、ギイッと立派な扉を開け、私と幼獣を中に招き入れた。
中はニ部屋続きになっており、通されたのは大きなデスクと豪華な絨毯、そして大きなソファがある方の部屋だ。
全体的にシックな色合いだが、城の雰囲気と相まってどしっとした落ち着きのある雰囲気だ。
「とりあえずそこのソファに座れ」
ラウルの言葉に甘えてソファに腰を下ろすと、自重でゆっくりと沈み込む。
まるで包み込まれるような感覚に、前世の時に家具屋で冷やかしで座った高級ソファを連想させた。
(わぁ、フカフカで気持ち良い!)
試しに隣にあったクッションをそっと触ってみると、もっちりしていてとても手触りが良い。
(ああ、これ人をダメにするソファだわ)
私は、気持ち良い感覚にふっと気が緩み、顔が綻んでいた様だ。
「お前は何をそんなにニヤけているのだ。そんなにこのソファが気に入ったか?」
(げっ! 顔に出ていた!?)
「え、ええ。手触りが良いな、と思って」
「我は殆ど使わんから、そんなに気に入っているならやるぞ。お前の部屋に運んでおく」
「え!? で、でも……」
「これから坊主の面倒を見てもらうんだ。駄賃だと思って受け取れ」
「はぁ」
ラウルは反対側のソファに座ると、ラウルの膝の上に幼獣がちょこんと座って来た。
(なんだかんだ言っても、あの子はしっかりラウルに懐いているのね。ちょっと安心したわ)
「さて、幼獣が人里には現れぬ理由だったな。魔の森から産まれたばかりの幼獣は、身体が小さい分体内の魔素も成獣より少なく、中毒症状も成獣より軽い。しかし、魔素は身体が成長するにつれ、体内でも増殖する。そして、中毒症状に耐えきれなくなった成獣は、増殖した魔素を薄めるために、人里に現れ、人間や動物を襲うようになる」
「なるほど、そう言った理由があったのですね」
「坊主の苦しみを考えると、あのまま助けぬ方が良かったのだろう。……しかし、我は坊主の縋るような瞳を見た時、どうしても見捨てる事が出来なかった」
「ラウル……」
ラウルは目を伏せ、幼獣をそっと撫でた。
幼獣はクゥンと喉を鳴らし、ラウルの手に擦り寄った。
「我が出来ることは坊主の傷を癒す事くらいだ。傷が癒えたらそのまま森に返すつもりだったのだが、なぜかそのまま懐かれてしまってな。一旦引き取った以上は無碍にも出来ず、そのまま城に住み着いてしまったのだ」
(ラウルって俺様キャラなのに、お人好しなところがあるのね。……あ、これが巷で言う、ギャップ萌えというやつなのかしら?)
「しかし、我は幼獣など育てた事がない。坊主も最初は大人しかったのだが、最近イタズラを繰り返すようになり、ほとほと困り果てていてな」
「そうだったのですね」
(私も魔獣に関する知識なんて全くないけど、この子の様子を見る限り、言葉は通じるし、人間の子ども程手のかかる感じでもなさそう。犬猫とはまた違うけど、なんとかなりそうな気がするわ)
「ラウル、私が知る育児の知識で宜しければ、この子に試してみても構いませんか?」
「あ? ああ、それは構わんぞ」
(ラウルのお許しも出た事だし、ここはラウルにも頑張って貰いましょうか)
私は前世の育児知識を思い出しながら、話を続けた。