連れ去られた場所は
(ん……)
頬にヒヤリとする何かが触れた。
(あれ? 私は一体……)
重い瞼を開けると、白い天井と天蓋が視界に入った。
確か、アルノー家や学園寮の天井も白かったが、それらの場所とは違うようだ。
ふっと横を見ると、知らない男がベット脇に座っていた。
「……起きたか」
頬に触れていたのはその男の指先だった様だ。
(この方は、誰?)
長い銀髪に燃えるような赤い瞳、そして、血の気のない真っ白な肌。
美しい顔立ちだが、どこか生きた人間ではないような冷たさを感じる……そんな印象の男だった。
(ここは一体何処なの?)
私は上体を起こし、辺りを見回す。
小さいシャンデリアに重厚なカーテン。
どこかのお城のような空間には、この大きなベッドとサイドテーブル以外は何もなく、どこか殺風景な印象を与えた。
「あの、ここは……?」
私はさっきまでヘンリー殿下と共にいた筈だ。
しかし、校門を出たところで真っ暗な闇に包まれ、そこからの記憶がない。
「ここは魔王城。我が城だ」
(まおうじょう……? まおう……魔王!? ど、ど、どうしよう! 逃げなきゃ!!)
身に迫る危機から逃げようと、ガバッと掛けてある布団を剥ぎ、その男から離れようと身を捩った。
しかし、男に腕を掴まれ、強く引き寄せられた。
「あっ!」
「いきなり立ち上がろうとするな。危ないだろう」
「嫌っ!! 離して!」
掴んだ男の手を離そうと必死に腕に力を込めるも、ビクともしない。
「暴れるな、怪我をする」
「離して! だ、誰か!!」
「まずは落ち着け」
魔王が反対側の手でスッと私の顔の前に手を置くと、ガクンッと身体の力が抜けた。
(なっ!? か、身体に力が入らない……!)
「うっ! ……な、何をしたの!?」
「このままではまともに話が出来ないのでな。悪いが、少々身体の自由を奪うことにした。危害を加えるつもりはないから安心しろ」
「はぁ!? 安心なんて出来るわけないでしょ! 貴方、魔王なんでしょ!? いきなり私を連れ去るなんて、一体何が目的なの!?」
「そう興奮するな。手荒な真似はしたくなかったが、そうでもしないとお前を手元に置けないのでな。小娘……いや、イザベルと言ったか。お前には、私の側でその力を使って欲しいのだ」
「は!? ち、力って……?」
魔王は私の顎を掴み、グイッと顔を持ち上げた。
赤い瞳がじっと私を見据える。
「お前のその魔力のことだ。……我にその力を貸して欲しい」