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獣人(けものびと)  作者: 桜良
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第一話

その子らを拾ったのは本当に間違いだった。

退屈な高速道路を走ると北海道の田舎など目に入る景色は退屈を極める。

一人で運転していたからその時の大きな間違いは私の間違いで、残念ながら怒りの矛先を向ける先は自分以外の他にない。

そもそも自分て…と振り返れば、反省することは勿論多々あっても一つの失敗をくよくよと何度も嘆いて後悔するタイプではないのに、この事だけは何であの時…ああもう本当に…と何度も何度も同じくだりで嘆き後悔してたまに泣いたりもする。

そして今後の参考になる様な注意点も、物事を間違わない為の自分の中の気をつけるべき目安も見付けられない事にがっかりするいつもの流れへと流れて一区切りつく。

きっと私の中で一番のヘボカードを切った瞬間がこれだったんだろうと思う。

きっと大厄災カードとゆうのは切る前に見ても何て事ない感じに見えて、切ったが最後でなす術なくそのまんま暗闇に転落していくのではないだろうか。

そう思わないと可哀想すぎる。


高速道路を走ってるとガードレールの向こう側を歩いてる人が二人すごく遠くにいる。まさか歩行者がいた事は今までに一度もないが

作業員さんだろうか…いやいや登山スタイルのカップルだ。あっとゆう間に近くまで車が近づいて、その若いカップルに後ろからクラクションを鳴らす。

バックミラーを見てから車を寄せて止めた。

助手席の窓を降ろして「どうしたの?」と声をかけた。

ここまでの道に故障車は見なかった気がすると思いながら聞いてみる。怪我人じゃなさそうだし、見た目は普通の勤め人といった風で真面目そうだ。

服装は少し違和感があって二人とも登山でもするような格好に大きなバックパックを背負っていた。

女の子はベージュの麻の生地をがっちり編んだような厚い生地で丈夫そうな襟付きシャツを着ていて、焦げ茶のポケットが沢山ついたチノパンを履き裾はハイカットの登山靴にしまっている。

小柄で化粧っけはない目鼻立ちのはっきりした整ったお顔立ち。

北海道の高速道路は田舎に行くと道路の両側が登り坂のような原っぱになってる事はよくあって、原っぱの上は柵があり木が生い茂って森や林になっていたりする。

登山や山菜採りの人が通るような道の近くではなく、もし通りかかる事があったとしたら、ずいぶん遠くから迷い出た人くらい。

その登山スタイルのカップルはこちらを見てた。

20代半ばくらいだろうか。女の子が小さく

「ドライブインまで行こうと思って歩いてました」

「そこで家族が迎えにくるのを待つんです」

言葉少なに説明してくれた。

女の子もいるからと特に不安に思う事もなく軽い気持ちで乗せてあげようと思って「送ってあげる。乗っていいよ。そちらも徒歩は不安でしょう?」

ここに長々と止まってるのも危ないし、早く乗りなと手を振って促す。

「乗せてもらおうよ」と女の子は彼に言い「すみません。有難うございます」と私に頭を下げて後ろに乗り込んだ。私は眠くてイラついていた気分がスッと引っ込み、あり難くせっかく拾った話し合い手を活用させてもらう。

「どこから歩いてきたの?パトカーとか来なくて良かったね。きっと怒られたよ」

なかなか徒歩で高速道路を移動してる人いないよね

お友達と喧嘩でもしたんだろーか。良くない若者が高速道路の途中で仲間を降ろして行ってしまったんだろーか。

「あのっ。ドライブインの少し手前で下ろしてもらえたら…そこからは歩きたいので…」遠慮がちな態度で降りる時の話をはじめる女の子。30歳くらいか同じ様な登山スタイルの連れの彼はただただ黙って外を見てる。

危ないからドライブインまで送ってあげると彼女に返すと「大丈夫です。危ないからお姉さんは来ないほうがいいと思うので私達だけで」ふっと彼女は遠慮してるんじゃない。そんな気がした。


危ないって?危ない事があるなら警察呼んだら?まず確実に徒歩のほーが危ないだろうと思い

「ドライブインまで送るよ。家族がくるんでしょう?売店の中で待ってたら?」

「いやっそうなんですけど…でも…」尻すぼみで消えちゃう会話。私の提案は自然な流れで受け入れられると思いそのまま外の景色を眺めていた。


「いいよ。お願いしたらいいじゃん。実際めちゃめちゃ有り難い…」彼が初めて口を開いた。

送られるのを拒んでた女の子の顔色がかわる。

無言で彼を睨みつけた顔を見て、この子が危ないから来ない方がいいって言う様な事って何だろうなと思った。

送ってほしくないのと、送ってほしいのは二対一だ。3人いるからには仕方ない。私はついて行くことにした。「よしっ!送ってあげるねっ。」

次のドライブインまで10キロ程度の道をのんびり進める。私がちらちらとバックミラーに目をやっているのは本人達も気付いているはず。

見れば見るほど気の弱い臆病な子には見えないし脳みその足りないタイプでもないと思う。


ドライブインはまだ先のはずだけど左に脇道がある

「そちらを左にお願いします…」指示に従い左へそれると左に左に大きく曲がり続ける。小学校のグラウンドがすっぽり入るくらいの大きな円を描く様に下っていく。「あれ…ここって高い所を走ってた?…ねぇねぇ?どうだったかなぁ」

いやいやおかしい一瞬で場所を認識しなおすが、やはりそんなはずはない。ここはとうぶん山の中を掘り下げて出来たような道を進むのだから

「ねぇ!この道何かおかしい!バックでもどるよっ?」

高速道路をバックで戻るなど本来なら絶対にしてはいけない愚かな行為だということは認識しているが、この道を降り続けてはいけないと、私の中のもう一人の私が必死でダメだとわめいている。何だかわからない恐怖が焦らせる。

この先には良くないものがいる。こちらの気配を伺っている。絶対に無事に戻って来れる気がしない。

もどれもどれっ!引き返せっ!

このままだと鉢合わせしてしまうっ!

その時ひとつの事実に気付いてしまった。とっさに叫び出したい衝動にかられ息を吸い込むが、ふと疑問が浮かんだ。叫んだところで誰かが助けてくれるのだろうか。どうしましたか?なんて助けはまず来ないだろうと思うと、その叫んだ私はどんなタイミングで終わればいいのかわからない。

取り乱して叫び出した私は自分の声に煽られてますますパニックになるだけで、涙まで出てしまえばきっといつまでも止まらない。


自分がパニックを起こし叫び続けるなんて考えただけでも恐ろしい。冗談じゃない。

とうてい受け入れられない様な怖いものを見た事は今までなかったけれども、いざ目の当たりにしたら私って現実から目をそらすんだ。新たな発見だ。

とりあえず棚上げして恐ろしい現状をなんでなんでと追求せずにいる自分にマルをあげたい。考えられる一番良い選択肢を選べたみたい。

「車が動かない…さっきからアクセルを踏んでないのにこの道を降りてるんだよ。私はハンドルも握ってないのに…」

こんな事、意味がわからない。

だけど絶対にパニックを起こす訳にはいかない。助けは来ないのだから。

落ちついてよく見てよく考えて、なんとか今の状況を切り抜けなければならないのに…さっぱり考えはまとまらない。恐怖で涙が滲む。

救出の宛てのないところでの恐怖はこんなにも恐ろしい。自分で自分を宥めるしかない。少し外でも見なさいと倒れそうな心に促す。

ぼんやり窓の外を眺めてみた。この車は真っ暗な道を滑るようになめらかに降りて行く。

どれくらい前からアクセルを踏んでいなかったのかハンドルも動かないのに綺麗にクルクルと降りて行くもんだなぁとぼんやり考える。

ようやく一人じゃなかった事を思い出した。

後ろを振り返ると二人ともリュックを触ったり靴紐を結んだりと平常心じゃないか。

この状況に何の疑問も持っていない様な態度を見た瞬間、こいつらここに来るつもりで歩いてたのかとカッとなるが腹を立てるのは後だ。

「車が勝手に動いてるっ。どうやって戻ればいいの?…」

「ねぇムシしないでっ。車を止める方法は?戻り方は?」

絶対に私はこの下まで降りたくない。なのにどんどん進んで行く。どのくらいで下まで辿りつくのかはわからないけれども戻るなら早いにこしたことはない。

こいつらの目的地はここだったんだ。ならば頭を下げて教えてくれと頼めば戻る方法を教えてくれるのだろうか?

ねぇ戻るとゆう選択肢があるならそちらを選ぼうよ。

私はこの下に降りたくない

「簡単に説明しますから急いで準備して下さい。この道は下りだけですので戻れません。この後下まで着いたら、上り道は近くにはありません。とりあえず塀のある安全な村まで走って向かいます。足は何センチですか?」

「…?」この道が戻れないだって?

安全なところまで走って行くの?てことはそこは安全じゃない場所ってことだよね?

「時間がないの!着いたらすぐ降りて走らないと狼みたいのがうじゃうじゃ集まってきて、車から出られなくなります。そうなったら絶対にそいつらは離れないのでアウトです」

「村に着いてから質問には答えますからまずはその靴では走れないので、貸せる靴は23か24.5。どちらがいいですか?」言い聞かせるように重ねて聞かれる。

村があるなら村まで行って電話を借りればいいかと思い、二十三センチを借りることにする。

登山ブーツを借りて履き替えているとナップサックのようなエコバッグを渡して来たのでハンドバッグごと入れてもらう。車には戻れないとゆうので脱いだ靴やダッシュボードの中のティッシュにマスクに飴とかもろもろ手当たり次第につっこむ。

レッカー車の入れるような場所じゃなければ車は諦めるしかないのかもしれない。

「必ず守ってくれたら安全に村まで行けるって約束します。よく聞いて下さい」と言いながら助手席に移動してきた女の子は私の靴紐をギッチリと縛りなおしながら言う

「村の塀は長方形に近い形で真ん中に吊り橋がかかってるので絶対に真ん中に向かって走って下さい。私たちから離れない様に」

と指で塀の形をつくり走るルートを指す。

「追いかけてくる獣は2種類いて足の遅い大きな獣は肉食で力も強いんだけど、先に走ってくる中くらいの獣は威嚇してくるだけだから体当たりされて転ばない様にだけ気をつけて下さい」

「中くらいの方は頭が良くて塀の入り口から離そうとしてくるけどのせられないで!私たちから離れないで走ることを一番に考えて下さい」

「真っ暗な森に着いたら降ります。大きな獣がいるかもしれませんが私達が走るほうが早いので、囲まれる前に距離を稼げれば逃げ切れるはずです。少し走れば砂漠の様な開けた場所になって、少し先の左側の森から中くらいの獣がこちらに走ってきます。そいつらは噛まないので絶対に右に逃げないで真っ直ぐ走って下さい」

彼女の説明を聞き少しホッとした。

田舎育ちの私は小さい頃から山歩きには慣れたものだし、それこそ子供の頃は野生の小猿のようだったのだ。狼みたいなとかゆってたけどきっと山犬?の様な野良犬の大きいのに気をつけてって事だろうと解釈する。


あんなに怖がってた自分が滑稽に思えるほど簡単な注意事項に安堵した。

そういえば小さいころは夜中に野犬の遠吠えが聞こえた時にそれは恐ろしいものだったな、なんて懐かしい事を思い出した。夜の森は私にとって恐ろしかった。


「わかったけど着いたら電話かしてね。田舎は困るわさっきからずっと圏外なんだから」と携帯もナップサックにしまい降りる準備がおわる


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