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32.すべてお気に召すまま?

「これがお前のスキルの内訳だ」

 そう言ったエリックさんは羊皮紙を私に見せてくれた。

 小さいころから文字の読み書きをきちんと覚えさせてくれたから、こういったことが苦にならなくてありがたいと思う。


 で、えっと、私が持っているスキルというのは……――


 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


『洗浄』

タイプ:詠唱

ランク: B+ (職業:C、希少度:C+、能力:A 、熟練度:SSS)

長所:物理的塵、どんな汚れも一瞬でとれる

短所:なし


『方向探知』

タイプ:パッシブ

ランク:SSS(職業:C、希少度:SSS、能力:SSS、熟練度:SSS)

長所:自分たちが向かうべき方向を見つける

短所:なし


『良縁成就』

タイプ:パッシブ

ランク:SSS(職業:S、希少度:SSS、能力:SSS、熟練度:SSS)

長所:術者とかかわる人

短所:なし


『厄除け』

タイプ:思念

ランク:SSS(職業:SSS、希少度:SSS、能力:SSS、熟練度:SSS)

長所:術者の周囲程度に《祝福》を授け、悪人による攻撃、魔物の襲撃、戦争の回避を施す。魔物・魔王などの悪いものを封じこめる

短所:なし


国守(くにもり)

タイプ:思念

ランク:SSS(職業:SSS、希少度:SSS、能力:SSS、熟練度:SSS)

長所: 病気・ケガ・毒素などを取り除き、癒しの効果を与える

短所:なし


※特記事項:○○○〇○○、および魔王ガープ両名の祝福による強化あり


 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


 …………はい?

 自分のことだけれど、どういうことですかね。

 周りにいる人たちも目が点になっているような気が……――――


「おいおいおいおい。『国守』『良縁成就』『方向探知』『厄除け』って、どれも“創造主の祝福”でしか得られないっていう代物だぞ」

 宰相さんが目を点にしながらそうおっしゃる。

 うん、わかるわぁ。

 ギルドのスキル・ランク早見表(詳細版)で流し見しただけれど、『厄除け』は魔王さえも封じるもの、『方向探知』はいわゆるダウジングのスキル版、『良縁成就』も人と人の縁、人とモノの縁を結ぶもの、『国守』は国家全体から悪いものを排除するというものだから、どれか一つでも持っていれば、国家に重宝されるどころか、監禁コースですよね。

 というか、“創造主の祝福”ってなんですかね、私、そんな人と会ったことありませんが。

SSS(ちょうきしょう)スキルを四つも持っているとはな……五つ持っているのもとんでもないことだけれど、その時点で伝説級だぞ」

 ニコラスさんの言葉に魔王の言葉を思いだした。


五つ(・・)のスキル所持者(ホルダー)なんて何十年、いや何百年ぶりだろうね。一応、スキルの保持に貴賤関係ないっていうけれど、正直、平民上がりでそれって、よっぽど前の生で善行をなしてきたのだろうかねぇ』


 いや、ちょっと待てよ。

 私はそもそもの部分に気づいてしまった。

「あのぉ、ギルドでは一つしかわからなかったはずなんですが。しかも、『洗浄』のランクが微妙に上がってません?」

 スキルが発現していなかったわけではなく、スキルがわからなかったというのはいったいどういうことだろうか。

 魔力測定機器の不調だったとかかな。

「だから言っただろう。アンクレットによって魔力を封じられていたと」

 エリックさんの言葉に唸ってしまう。

 うーんと、“魔力が封じられる”イコール“スキルが発動しない”っていうことでいいのかな。

 自分のことながら思考を放棄したい。

「もしかしてさ、ミコちゃん」

 思いっきり白目むきたい私にレオンさんが声をかけてきた。

 なんですかねぇ。

「たしかアンクレットの存在に気づいたのってさ、君が最初にギルドへ行ったときだったよね」

「そうですが……って……――?」

 尋ねられた意味がわからなかったから、首を傾げたけれど、それでエリックさんは理解できたらしい。


「そのあとに使おうとしても、発動してなかっただろうな」


 え、マジですか。

 きょとんとした私にエリックさんは原理を話してくれた……のだけれど、さっぱりわからない。とりあえず話をまとめると、『厄除け』使ったと思っていたのは思いこみ(プラセボ)だったようだ。

 (うっそぉ)

 ミミィを拾ったときや、その他もろもろで使ったのは意味がなかったっていうこと!?


 しかも、ジェイドさんや魔王が『厄除け』を使ったと感じていたものは、スキルの行使しようとした魔力とアンクレットで相殺するときの魔法痕(まほうこん)だったようだ。

 魔法痕とは煙や火花みたいなものだそうで、感知できるものにとってみればだれが・どこで・どれぐらいの魔力を行使したのかというのがわかるらしい。

 ちなみにそれがはっきりとわかるのは魔王クラスの魔力の持ち主、『探索』に魔力が多く配分されている(すなわちランクが高い)人で、通常の『探索』程度だったらぼんやりとしかわからないらしい。

 ふむ、そうなんだ。


「そういえば、七年前にビリウの村周辺で洪水が起こったとき、ビリウの村だけ一切の被害を免れた記憶があるが――――」

 おやぁ、勘のいいひとは嫌われますよと思ったけれど、宰相相手にそれは通じるはずもない。

 うん、記憶にございます。大雨が降ったときに“この村を襲わないで”って祈ったことがあるんだよ。

「そんなこともありましたっすね。八年前に西部の山岳地帯で魔物が大量発生したときに一部の冒険者たちは無傷で帰ってきた記憶があるけれど――――」

 レオンさんの言葉にかなり遠い目をしてしまった私。

 はーい、先生、それも私のせいです。

 大型の魔物が出たっていう情報をもとにハンターさんたちが狩りにいったんだけれど、そのときに使う武器を鍛錬する横で“ハンターさん、無事に帰ってきてください”って祈った記憶があるんですよねぇ。


 というか、その後も調べられたら怖いねぇ。


“村の人が全員、少しでも長生きできますように”

“前の年よりも多くの農産物が収穫できますように”

“もっと多くの人にビリウの製品を知ってもらえますように”


 アハハハハ。

 とくに後半ふたつは実際に効果があった。

 だからギルドに行く前から、私がなにか特殊なスキルを持っていて、それを自分にかけることができないことを知っていたのだ。


「ミコ・ダルミアン」

 それまで私たちの会話に首を突っこまなかった国王の目がすっと細められる。私は覚悟をした。


SSS(ちょうきしょう)スキル所有者(ホルダー)として、そなたを王国で管理することにする」


 デスヨネー☆(棒)

 想像はしていたけれど、ツライヨ。

お読みいただきありがとうございます。

このあと21時半ごろにも更新いたします。


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