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ハードモードに疲れた天才落第生、のんびりコーチで成り上がる。【連載版】U15ガールズ!  作者: 本山葵
地方大会編4 『オーバーアンドオーバー』
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第7話 たった一日

 ようやく木曜。

 ほんっ――と、ようやく練習日を迎えた。長かった。

 次の練習日である土曜には準決勝があるから、実践までに使える練習日は今日のたった一日だけしかない。

 なのに――。


「親父――じゃない。監督、ソフィは?」


 事務所の中にソフィの姿がない。さっき通ってきたグラウンドにも見当たらなかった。


「外回りに行ったぞ。ガールズチームの練習は啓太に任せる――と。聞いていなかったのか?」

「マジ……? 次の試合までに、今日しか練習日がないんだけどな……。何考えてんだ、あいつ」

「本人の志願だ。――もちろんチームの事情は理解しているが、管理者としてはソフィの意志を尊重したいところでもある。何より、意欲的な理由だと感じた。今日のことは、啓太に一任する」


 U15ガールズに向ける熱量では誰にも負けないように思えるソフィが、練習日にわざわざ外回りを志願……? どうにも()に落ちない。


「理由ってのは?」

「いずれわかる。今は彼女たちの練習に集中するんだ」

「はぁ……」


 教えてくれないっていうのも、よくわからない。知れば集中を欠くような理由なのであれば悪い方向のように思えてしまうけれど……。あいつ、本当に一度いなくなってるからな。

 しかしまあ親父の言うことも(もっと)もで、俺はソフィの不在に振り回されず、やれるべきことをやるしかない。


「そう不安そうな顔をするな。ガールズチームにとっては吉報(きっぽう)もある」


 親父は表情を(うかが)うようにこちらを一瞥(いちべつ)してから言うと、デスクの上に置かれていた一枚の紙を手に取って渡してきた。


    ◇◆◇◆◇


 練習に集まってきた選手がウォーミングアップを始めた頃。

 俺は一人の女の子を連れてグラウンドへ出て、ピィッ――と集合の笛を鳴らした。

 集まってきた選手の前で俺はまず、この間の失態(しったい)を謝罪する。


「みんなに謝らないといけない。前回の敗戦で感情的になって、押し付けがましいことを言ってしまった。本当にすまなかった」


 丁寧(ていねい)に頭を上げて誠心誠意謝り、続けて倉並姉妹へ向かって「特に七海と美波には、悪いことを言った。本当に反省している」と伝える。

 すると双子の姉である七海が「だ……大丈夫ですよ! コーチの言っていることが正しかったと思いますからっ」と、物凄く申し訳なさそうな顔で返してくれた。

 更に妹の美波が続ける。


「――私も言い方とか、そのっ――。…………あの時はちょっと卑屈(ひくつ)になってました。……ごめんなさい」


 はじめて美波の本音が聞けたような気がして、内心ホッとした。他の選手も、俺が頭を下げた瞬間は少し驚いたような(どよ)めきがあったけれど、顔を上げた今は動揺の色もなく落ち着いているように見える。

 ――これで、終わりなら良かったのだが。

 どうもそう簡単にはいかないようだ。


「仲直りの握手ぐらいしないのかなぁー?」なんて物凄く聞き慣れた、多分十年以上耳にしてきた声で言われる。

 心乃美のヤロウ……。さてはこの状況を楽しんでやがるな。


「今ならハグぐらい許されますよ!」


 今度は体育会系のノリが濃い、快活(かいかつ)な音調。キャプテンの守内真奈だ。


「許されるか!」


 とりあえずツッコんでおくと、みんな笑って許してくれた。

 七海がスッと手を出してきて、自然と握手。次いで美波もこちらの顔を見はしないものの照れくさそうに手を出してくれて、完全に(わだかま)りが解消したと感ることができた。

 男同士ならここまでしない気がするけれど、これが女子チームのノリってやつだろうか?

 照れくささはあったけれど、その代わりに、後に引く感情は完全に無くなった。

 こういう雰囲気もチームの結束(けっそく)には良いのかもしれないな。……乱闘で(きずな)を強めるよりは()(とう)だろう。うん。


 全体の雰囲気が(なご)んだところで「あと、嬉しい報告がある」と告げる。

 続けて少し引いた位置で落ち着かなさそうにマゴマゴしている女の子の背中を押し、前へ出した。


「自己紹介、できる?」

「は、はいっ! えっと……、一ノ瀬(いちのせ)有紀(ゆき)、中学二年生です。えっと、その……サッカーは見るばかりで経験はないんですが、今日からお世話になります!」


 随分(ずいぶん)(かしこ)まっているが、初日だから緊張して当然だろう。

 瀬崎結衣や釘屋奏、倉並姉妹と同じ中学で、あの授業で思い切りの良いゴールを決めた『見る専』の女の子。

 あの日、ソフィは冗談のように生徒を勧誘(かんゆう)する言葉を口にしていたが、まさか本当に加入してくれる子が現れるとまでは想像していなかった。

『わぁ!』と嬉しそうな声が聞こえてきそうなぐらい大きな目を輝かせたチサが、真っ先にパチパチと拍手を鳴らす。次いで三年生達が。そして全体に拍手が広がって新人を暖かく迎え入れてくれた。

 同じ中学の同級生が四人もいることだし、上手くチームに溶け込んでくれたら嬉しい。


「よし――っ。じゃあ今日は、戦術練習に時間を()くぞ。土曜の準決勝と日曜の決勝に向けてポジションと戦術を少し変えていこうと思う」


 言うと今度は、選手達の顔がキュッと引き締まった。

 敗北を(きっ)した直後の試合は重要だ。連敗を避けたい気持ちでいるのは、俺も彼女たちも同じなのだろう。


「一日では付け焼き刃になるかもしれないが、できるだけ各自の役割を理解してほしい」


 口にしていて改めて思うけれど、たった一日でポジション変更やら戦術変更やらというのは、無茶ぶりもいいところだ。一緒に決めたソフィに(いた)ってはこの場にいないし。

 三年生はキャプテンであり中央の守護者(センターバック)となる守内もりうち真奈まな守護神ゴールキーパー手島てしま和花わかを中心にどっしりと構えている印象だが――。

 前回の試合で狙われた釘屋奏と倉並姉妹。特に倉並姉妹をサイドの守護者(サイドバック)()えたのは『スタミナと諦めない姿勢を評価した』という割と単純な理由だったわけだけれど、実のところ中学一年生の期間を駅伝に費やした彼女たちは、チサや一枝果林と同じで八人制サッカーから十一人制への、移行者である。


 戦術やポジションという以前の問題で、十一人で競技サッカーをすること自体に慣れがない。

 常にゴール前を守るセンターバックに比べれば絶対的な守備力は求められないものの、現代的なサッカーでサイドバックというのは時に『最重要』とされることもある『超高難易度』のポジションだ。

 これまでは倉並姉妹にほとんど守備だけを求めてきたが、ここで攻撃の役割を与えて進化を(うなが)す。彼女たちの中に結衣やチサのように戦いたいという願望があるということは、攻撃でも役割を果たせる選手になりたいという意味も含まれているだろう。


 他方、釘屋奏は守備専門で……。なんというかこいつは、本当に守備しかしない。攻撃偏重(へんちょう)スタイルの俺からすると、(にわか)には信じられないぐらいだ。

 但し、守備しかやりたくないからサッカーには不適格、なんてことはない。珍しいことではあるけど。

 むしろ不平不満もなく望んで守備をして、その上でしっかり守る力を持っている選手というのは、非常に貴重な存在と言えるだろう。

 彼女には無理に攻撃の役割を与えるよりも、しっかりと守ってもらう。そうすれば最強の盾になれる可能性がある。


 俺は事前に用意しておいた戦術指示用のホワイトボードへ、背番号を貼り付けた大きめの丸いマグネットをくっ付けた。

 そこに陣形(フォーメーション)を形作って、伝える。

 矢印を書き込んだりしながら役割の違いを伝え、マグネットを動かし、奏と倉並姉妹に与える課題の難しさを表現した。


「現代サッカーの中では段々と珍しくなくなってきた戦術――、つまり浸透(しんとう)しはじめているものではあるけれど、実行は簡単じゃない。特に七海と美波にとっては新しい挑戦になるだろう」


 ここまでは戦術の説明ということもあって、選手を過剰(かじょう)に動揺させないためにも淡々と冷静に伝えた。

 しかしここからは、自分の言葉に(よど)みのない熱を込める。


「――だが、これができるようになれば選手としてもチームとしても、一皮()けた成長ができる! 勝ち負けも大事だが、俺はみんなに挑戦をしてほしい。そして何より、みんなならできると、本気で信じている!」


 この感情が彼女たちに伝わることを、願う。

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