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第1話 中等部

 登校するわけでもなく、川舞(かわまい)学園のグラウンドを訪れた。

 横にいるのは例によって例の如く、ソフィだ。

 お互いにFCレポロのロゴ入りウインドブレイカーを羽織り、コーチをしている時とほとんど同じ格好をしている。

 五月の昼間にはちょっと暑いかな……。そろそろ半袖の季節かも。

 だが目の前にいるのはレポロの選手ではなく、川舞学園中等部の一年生。

 ズラッと綺麗に整列している。

 川舞学園は元々女子校で、高等部だけがここ数年の内に共学化された。そういうことで、初等部と中等部はまだ女子校である。

 つまりここにいるのは全て女の子! 紛れもないJC! 壮観というか、これはもうロリコンパラダイスだとさえ表現できる。


「はい注目! 二人が、今日の授業を指導して頂く先生方です!」


 先生なんて呼ばれたことがないから、一瞬ドキリとしてしまった。

 本物の先生――二十代中盤ぐらいの女性体育教師――に紹介された俺は、軽く胸をはって、内心怖ず怖ずとゆっくり前へ出た。

 ちなみにロリコンパラダイスにいる大人の女性は、魅力的すぎてヤバい。

 つぼみだらけの花畑に一輪咲く満開の花があれば、その一輪に心を奪われるのも仕方がないことだろう。…………もし、つぼみが良い、いやむしろつぼみこそ至高であり咲いた花など興味がない! という人は、ここへ来てはいけない。腕に手錠がかかってGo to TOGOKU(投獄)されてしまうから。


「えーっ、高等部一年の等々とどろき啓太けいたです。この近くにあるサッカークラブ『FCレポロ』でコーチをしています」


 U15ガールズに在籍する十二人の目を集めることには慣れてきている。しかし今、目の前にいるのは、総勢三十人。

 元々こういうことが得意なわけじゃないから、どうしても気後れしてしまいそうになる。

 それでも声の大きさや明瞭さは、十分だっただろう。少しは成長したということだ。

 ――次いで横のソフィが僅かに小首を斜めへ傾け、にこりと、ナチュラルな笑顔を見せた。


「ソフィ・チェルシーです! 今日は皆さんのコーチをする機会を頂けて、とっても嬉しいですっ♪」


 金髪碧眼(きんぱつへきがん)の彼女に緊張する様子は一つも見られず、抑揚に富んだ調子で、まるで全員を相手にしているのではなく一人一人に語りかけるかのように、自己紹介をした。

 むしろ生徒のほうが緊張しているようにさえ、見える。

 …………どうよ、この挨拶力の差。

 これが人の上に立つべく育った人間と、そうでない人間の違いだ。

 でも金髪碧眼はなんかチートくさい。

 黙っていても年上に見えるし、なんなら俺だって金髪碧眼の顔面イケメンで精神もイケメンならもっと余裕を持てたはずだ。日本ではこれを無い物ねだりと呼びます。


「ケイタ、スマイルスマイル!」

「お、おぅ……」


 そうは言われても、ソフィほど上手く笑顔を作れない。

 というか『笑顔を作る』の意味がわからない。笑ってないのに笑った顔を作れるなんて、俺にとっては特殊スキルのようなものだ。

 もっとも、こいつの場合はいわゆる営業スマイルなどではなく、本気で楽しくてニコニコしているだけ――という気もするけれど。


「ボスが与えてくれたチャンスね!」

「お前、ほんとポジティブだな」


 あの日の晩、俺は帰ってきた親父――。いや監督に、翌日からの地域活動を言い渡された。

 レポロがこの地域一帯で最大規模となったのは、なにも実績や先進性だけが理由ではない。例えばこういった『学校の授業へ指導者を派遣する』というような地域に根ざす活動へ積極的に取り組んできたことでも、評価と認知を買っている。

 営業活動の一環も担っているから、純粋なボランティアとは言えないかもしれない。

 けれど、無償であり、呼ばれればどうにか日程を調整して、できる限り参加している。

 俺は幼い頃から親父に引きつられて色々なところへ行った経験があるから、その意義を自分なりに理解しているつもりだ。

 瀬崎結衣とも、その活動を通して出会っていた。

 彼女が今の彼女であることに、レポロの活動は深く関わっていたわけだ。

 あと俺は、結衣から結婚も申し込まれていた。――――モテ期だ! 父さん、モテ期は本当にあったんだ!(六歳頃)

 だから地域活動を言い渡されても、懲罰(ちょうばつ)的に捉えることはなかった。

 むしろ、レポロを築き上げてきた大切な活動の一端を学生の俺とソフィに任せて、本当に大丈夫なのか? という感覚だ。ここには多湖コーチをはじめ他の指導者は派遣されていない。まあ、代わりに教師がいるわけだけど。


「勉強してこい――って、ボスが言ってたよ。チャンスだよね?」


 実際のところ二人とも、U15ガールズから離れるようには言われていない。

 これまでと何も変わらず、俺たちは二人で、彼女たちを指導していく。

 ただ、今の俺たちでは力不足だという指摘があったということも、同時に知らされた。経験が無いのだから言い返す当てもない。

 つまりこの活動は、指導者として少しでも経験を積むための、機会を与えてくれたということだ。


「……そうだな。これは機会チャンスだ」


 ソフィほど明るくポジティブにはなれないかもしれないけれど、ネガティブすぎるのも好きじゃない。日本に帰ってくる前後の鬱々とした時期に、それはもう十分味わった。

 成長しろと言われたのなら、期待通り――いや、期待を超えてやろうと思う。


「えー、じゃあまず、先生にお手本を見せてもらいましょう!」


 ちなみにこの美人な女性体育教師とは、今日が初対面である。

 こんな人が先生だったら頑張っちゃうだろうなぁ……。

 女性体育教師って表現にも、妙な含みを感じる。そこに『乱れた』とでも付け加えれば、官能小説のタイトルができあがるわけだよ。……いや、『乱れた』をつけたらなんでもそれっぽくなるか。『乱れたコーチ』『乱れたJC』『乱れた女性体育教師』――乱れた最強説。全部官能小説だわ。むしろ俺の心が乱れてるわ。

 いかんいかん。心を整えよう。

 とにかく、レポロにとってサッカーの授業へ指導者を派遣することは毎年のことらしいのだが、俺たちがその役割を担うことになったのは急な話だった。

 女性体育教師とも特に事前の打ち合わせもなく「今日はよろしくお願いします」と言われて、軽く会釈し、少しの会話を交わした程度。

 だからまあ、『お手本を見せてもらいましょう』なんて、全力全開でアドリブを振られた状況なわけだが……。

 ありがたいことに、サッカーには

『誰の目にもわかりやすく』

『それなりに簡単で』

『とりあえず関心を示してくれる』

 最強の実技がある。


 ――リフティングだ。

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