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第3話 ハーフタイム② 想い

 俺はスターティングメンバーから外した一枝いちえだ果林かりんに、前半の最中で声をかけて、前もって後半の戦い方を伝えていた。

 役割を確認して意気込む果林に、自信の程を確認する。


「果林、後半で何点ぐらい取れそうだ?」

「十点ぐらい」


 こいつは……。全く、一年生なのに頼もしすぎるだろ。

 前半だけでフォワードの三人は疲弊している。この中で走行距離が多いのはセンターフォワードに固定した由奈ゆなを除くウイングの二人だけど、由奈も一年間サッカーから遠ざかっていて、短距離走に取り組んでいた。

 たった一ヶ月ではサッカーに適したスタミナを取り戻すことができていない。

 

「果林は由奈と交代する。そのままセンターフォワードに入ってくれ。――三点でいい。三十分で、三点だ。いけるだろ?」


 果林は一年生だ。

 男子チーム相手に一点でも取れれば十分と言える。

 ――本心ではそういう気持ちだけど、ここで彼女の闘志を萎えさせないためにもあえて、俺は高い要求をした。

 これから相手は前線に背の高い選手を入れて、試合の流れを変えにくる。『パワープレー』とも呼ばれる、サッカーにおいて最もシンプルでいつの時代も廃れることのない、強力な戦術だ。

 そうなると打ち合いになる。

 荒く雑な展開が増える。

 パワープレーを跳ね返す力がない限り、否が応にもそういう戦いに巻き込まれてしまう。

 ――打ち合いになると、リードした二点の価値が、薄まる。

 だからこそ、果林という最大の得点源を後半に温存した。

 打ち合いになって、なお、勝てるように――。


「後半は4―4―2で行くぞ!」


 守備から一人を抜き、前線に果林ともう一人を残して、打ち合いに備える。

 もちろんそのもう一人は、結衣かチサのどちらか一人(・・・・・・)だ。

 4-4-2に固定するならば、どちらかを守備的中盤(ボランチ)に下げる必要がある。二人とも攻撃的な選手だが……。


「私が下がるわ。チサは前にいなさい」


 俺の迷いを感じ取ったのか、結衣が自らポジションを下げると言い出した。

 相手がチサとはいえ、前線を譲るとは意外だ。

 驚きと共に表情を見ると、少し、苦しそうに見える。

 ――こいつ、息が荒れてないか?


「いいんですか?」


 チサは遠慮がちに言う。


「仕方ないでしょ。ボランチが奏とチサじゃ、小さすぎるわよ」


 ボランチを二人で組む場合には、お互いの短所を補い合える関係のほうが良い。同じ欠点を持つ組み合わせというのは避けたいところだ。

 それに、この間までハーフコートに八人制の試合で戦い続けていたチサより、中学でフルコートの十一人制を練習した経験のある結衣のほうが慣れもあるだろう。攻撃ではセンスを活かしたアドリブを駆使してどうにかできたわけだが、守備ではまず第一に規律が求められる。戦術に慣れているほうを守備に回したほうが堅実だ。

 だが――。

 俺は結衣だけを呼び寄せて、チサに聞こえないように耳打ちする。


「おい、お前、もしかしてスタミナが――」


 体力なんて、その日の調子で簡単に左右される。

 結衣が毎日走り込んでいるのは知っているし、彼女の性格を考えれば、鍛え方が足りないなんてことは無いはずだ。

 しかし少なくとも今この場においては、横並びで同じ役割を担ったチサと比べても、何段か増して疲れているように見える。

 汗に濡れた『濡烏(ぬれがらす)』の髪は日光を浴びて、紺碧(こんぺき)に輝いていた。


「問題ないわ」

「本当か?」

「仮にあったとして、あなたはどちらを前線に残すの?」


 …………奏との相性や守備の慣れを考えると、やはり結衣を守備に回してチサを前線に残すほうが適切だ。

 でも、相手は攻撃的に圧力を強めてくる。そうすればこちらの守備の負担は、必ず増えてしまう。


「そりゃ、そうだが……」

「交代する選手もいないし、他に選択肢はないでしょう?」


 正しすぎる主張に反論の術もなく、半ば強引に納得させられる。

 続いて結衣は、チサと果林のほうへ歩み寄った。


「――私が下がる。その代わり、果林と二人で…………っ。――――――二人に、前は任せるわ」


 やはりと言うか、結衣は口惜しそうな表情をした。

 これだけ攻撃的な選手で、技術もあって、プライドも高い。それなのにチームのことを考えて自分が引く判断をしたのだから、見上げたものだ。

 言われたチサと果林は無言で――、しかしハッキリ、首を縦に頷いた。二人も結衣の想いを受け止めたのだろう。この想いは必ず力に換わる――。



 ハーフタイムが終わると、再び選手がピッチ上のポジションへ散っていく。俺は後半の戦術をできる限り細かく伝えて、彼女達を送り出した。

 そして相手チームを見る。


「…………柳は、そのままゴールキーパーか?」


 親父のことだから、柳をフォワードにして強引なパワープレーを仕掛けてくると思っていた。

 しかし柳はキーパーグローブを手にめて、自陣のゴールへ向かって走って行く。

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