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第15話 マッソーマッソー

「地味だねえ」

「地味ねえ」

「地味ですね……」


 彼女達は好き放題言う。

 バランスディスクに乗ったりゴムチューブを使ったり、なにも使わずに自重トレーニングをしたり…………。地味かもしれないけど、これ結構キツいからな!?


「啓太くん、姿勢が崩れてる。――そう、このままキープだよ」


 トレーナーの伊藤さんは細かい間違いを全て修正する気概で言ってくるし。

 正しい姿勢というのは体を痛めないためでもあり、筋肉に最適な負荷をかけるためでもある。

 要するに正しい姿勢に矯正され続けた俺の体には正しく最大の負荷がかかり、すでに『そこに筋肉なんてあったの?』というようなところが勝手にビクビクと震えるぐらいに追い込まれている。


「オーケー。普段からしっかりトレーニングをしているようだね。成果が出てる。――一度休憩して、第二ラウンドと行こうか」


 地味にキツすぎて、ゲロ吐きそう……。この人は休憩の時間もきっちりストップウォッチで測るから恐ろしい。


「いつものドリンク、用意してあるからね。――あ、そうだ! 君たちは何がいい? バナナ、チョコレート、ヨーグルト、ストロベリー、色々あるよ!」


 伊藤さんは嬉しそうにソフィ、心乃美、チサの三人にもドリンクを勧めた。これはあれだ。○○オタクが一般人を誘い込んで同じ沼に引きずり込もうとするやつだ。

 何度か会っていて色々知っている心乃美は即座にぶんぶん手を振って拒否したが、


「チョコレートが良い!」

「え……、頂けるんですか? すみません。じゃあ――ストロベリーで」


 気をつけろ。それ全部、プロテインだから。

 種類って言ってもフレーバー(風味)が違うだけで、あくまで水に溶いたタンパク質だ。美味しいわけがない。

 その後、ソフィは不思議な顔で「変なココアね」などと言いながらちびちびとゆっくり飲み続け、チサは正体に気付いたのか一気にグビッと飲み干した。


    ●


 トレーニングルームで一礼して、家路につく。

 途中から来てくれた二人とは殆ど会話をした覚えがない。

 …………あの筋トレ優男野郎、根に持ってやがった。前回より一回りキツかったぞ。


「啓太さんが言ってた『筋肉を追い込む』って、大変なことなんですね……。私にできるか、ちょっと自信ないです」

「いやいや、あそこまで鬼になれる自信ないから。っていうか、年齢とか性別とか色々考えてるから」

「でもプロを目指す人って、あれぐらいできちゃうんですよね」

「……まあ、それはそうかもな」


 チサの言葉には、同意せざるを得なかった。きっと苦しいトレーニングに耐えることなくプロになれる人なんて、そういないだろう。たまにいる気がするのが納得いかないけど、そういう人もいずれ壁には当たる。


「――私、一緒にトレーニングしたいです!」


 突如、チサが妙なことを言いだした。

 さっき吐きそうになっている俺の姿を見たばかりなのに、一緒にやりたいなんて。物好きだな。


「そりゃ同じ家に住んでるんだし、できないことはないけど。でもどれぐらい効果があるかとか、保証はできないぞ?」

「いいんです! ちょっとでも成長出来るなら……っ!」


 ああ、そういえばチサは、中学生なのに親元を離れることのできる、サッカーバカの中でも殊更(ことさら)に特殊な種類だったな。

 加えて瀬崎が侮辱された件もあり『打倒男子チーム』のモチベーションも高い。

 貪欲で、真面目で、練習熱心で――。


「心乃美先輩も!」

「ええっ!? いやいや、私は見てるだけでいいよ。あんなバッキバキの体になりたくないし!」

「心乃美、ちょっと鍛えた程度でバッキバキにはならないぞ」


 ポンと妹の肩に手を置き、逆の手でグッと親指を立ててニカッと笑う。


「だから安心して、やれ」

「お兄ちゃんまで!? ――ちょ、本気……? 伊藤さんみたいな顔してたよ今!」


 珍しく顔を引き攣らせて本気の拒絶をする心乃美の影に、妙に元気のないソフィの姿がある。


「どうした。気分でも悪いのか?」

「…………日本のココア、ちっとも美味しくないよ……」

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