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第3話 チビッコ

 市町村(がつ)(ぺい)で人口七万人程度を確保し、結果、市と名乗ってはいるが土地が余りに余っている人口密度スッカスカの(ちゆう)()(はん)()なこの田舎(いなか)には、少年少女が通うことのできるサッカークラブが少ない。


 そんな中、親父の経営する少年サッカークラブ『FCレポロ』は、まず小学生を対象に事業を開始した。

 (せん)(ざい)(じゆ)(よう)があったため経営は順調に進む。

 更に全国的な部活動(はい)()の流れに周辺の中学校も巻き込まれることを知った親父は、その受け皿として『中学生の部((アンダー)15)』を設立して、対象年齢の上限を拡大した。俺が小学校低学年頃の話だ。


 サッカー先進国の伝統やアイディアとJFA(公益財団法人 日本サッカー協会)の指導方針を上手くミックスしたトレーニングは(せん)(えい)(てき)だと評判を呼んだ。

 更にそれとは対照的に思える地道な地域密着活動も(おこた)らず、むしろ積極的に行う。

 結果、今では周辺地域一帯で最大規模の少年サッカークラブとなった。……周辺地域の人口も結構スッカスカなんだけど。


 サッカーの実力校への推薦や県のトレセン((せん)(ばつ)選手が参加するナショナルトレーニングセンター制度)へも人材を送り出していて、つまるところうちの親父は、経営(しゆ)(わん)や選手を育てることに関して確たる実績と評価を得ているわけだ。


「今やっているのは……チビッコか」


 俺は久しぶりにレポロの練習グラウンドへ足を運んで、参考までに今の選手達の練習風景を眺めることにした。

 なにせ俺が通っていたのは三年も前だ。三年もあれば変わったところがあって不思議じゃないし、才能を()めた(おも)(しろ)い選手だっているかもしれない。

 この時間は幼稚園児から小学校一、二、三年生の低学年、所謂(いわゆる)『チビッコ』達が(いつ)(しよ)()()練習をしている。

 もちろん学年と経験の()()によるレベル差は激しく、練習メニューもある程度分けられてはいるが。


 彼らは基礎練習が終わると広いグラウンドへ移動して、ワーワーと声を上げて元気よくミニゲーム(少人数チームの紅白戦)を始めた。

 そして空いた基礎練習用のグラウンドに今度は小学校高学年の選手がやってきて、基礎練習を開始する。

 学年毎に異なる学校の終業時間を有効活用した形だ。同じように()(かえ)して、最後は中学一、二、三年生の合同練習となる。

 どちらかというと基礎練習よりもミニゲームが見たいから、俺はチビッコ選手たちの親御さんに混ざって彼らの姿を追った。

 熱心な親であればできる限り多くの練習を……人によっては基礎からミニゲームまで毎回フルで見ていたりするものだ。

 中には熱心すぎて大声で指示まで飛ばす人もいる。

 そういう時はコーチが『(チームの指導と混ざって)お子様が混乱しますので……』みたいな感じでやんわり伝えなければならないわけだが、それでもたまにキレる親はいる。熱心だから。

 ……やっぱり、コーチやりたくないかも。今からでも断ろうかな。


「なんでパス出さねーんだよ!」

「シュート()しかっただろ!」


 ミニゲームを観察し始めるとすぐ、大声での言い争いが聞こえてきた。小学三年生のチビッコ選手達だ。

 チビッコと言えどこの頃になると個性が出始めて、こういった言い争いは(にち)(じよう)()(はん)()となる。

 ただ、(たい)(てい)は同じような組み合わせで言い争う。要するに主張が強い自信家同士で『俺の思うとおりにやればうまくいった』と言い争っているだけのこと。

 そして主張の強くない大人しい子は、少し後ろで(ひか)えて守備に回っているか、大人しくても認められるほど上手いか、言葉には出さなくてもプレーが主張しているか、大抵はどれかに収まる。

 彼らぐらいの頃の俺は大人しいほうだったから、彼らのような言い争いをいつも遠巻きに眺めているだけだった。典型的な日本人という感じだ。


 ……などと昔の自分を回想している間に、言い争っていた二人の(れん)(けい)が見事に(はま)り、ゴールが決まる。

 すると、さっきの(いが)()いが(うそ)のように笑ってハイタッチまでした。


 当時は考えたこともなかったけれど、今見てみると、この年代の人間関係には中々興味深いものがあるかもしれない。

 こういう視点で練習を見たことがないからか、やけにチビッコたちの姿が(しん)(せん)に映る。

 親父の言う『今までと違う視点を持つ意味』というのは、こういうことだろうか。

 これぐらいの頃はまだボールを蹴るのがただただ楽しくて、それだけでサッカーをしていたような気がする。周りのことを客観的に見る力なんて、無かった。


「次は高学年か」


 チビッコ選手の親御さんが子供を(むか)えるために移動する中、今度はそこに混ざらず、同じグラウンドで小学校高学年のミニゲームを眺める。

 この年代は低学年に比べて役割分担がハッキリしている。

 選手も主張の強弱だけではなく、足元の技術は高くても守備を好んだり、一番主張の激しい子が志願してゴールキーパーを務めていたりと、変化が現れ始める年代だ。

 チビッコと比べると全体のパス回しが生まれ、学年が上がった分しっかりとチームとしてサッカーの内容がそれらしくなっている。


 この中で特に見るべきは、四月から中学生になる小学六年生のチームだろう。

 特に()()()()がいるのなら、見ておいて損はない。

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