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ハードモードに疲れた天才落第生、のんびりコーチで成り上がる。【連載版】U15ガールズ!  作者: 本山葵
立ち上げ編2 『家に帰ると、妹とJCがいる』
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第11話 目指す場所

「お兄ちゃんの鬼!」


 結局俺は、あの後全部の勝負で勝った。

 最終的には十九回も三角コーンを倒し、倒されたのは、あの一回だけ。


啓太けいたさん、上手すぎます……」


 チサと二人で芝生に倒れ込み、仰向けになって夕暮れの空を見上げる。ミニゲームとは思えない激しい戦いだった。


「これでも昔は、天才扱いされてたからな」

「何者なんですか……」

「チサちゃん知らないの? 昔は天才少年って呼ばれてたんだよ。今でもヨーロッパの…………ヨーロッパの…………どこかの、なんだか強そうな偉そうな名前のチームのアカデミーに所属してる……多分」


 この妹、兄ちゃんの留学先を国名すら知らないのか。どんだけ興味ないんだ。あと多分ってなに。休養を言い渡されただけでちゃんと所属してるっつーの。……そりゃ、こんな状況じゃいつ辞めさせられるかわかったもんじゃないけどさ。


「えっと……確か……プレ、なんとかリーグ」

「プレミアリーグな」

「プレミアリーグ!?」


 ばっ、とチサが体を起こして、驚いた顔を見せた。

 ふふふ……。バレてしまったものは仕方がない。いや、隠した覚えもないけれど。知られるほど有名じゃなかっただけだけれど。

 しかしどうだ。知って驚くがいい。

 一度もトップチームの公式戦に出ていないのは当然のこと、年齢制限のあるU18プレミアリーグにもまだ出場してないけどな!


「確か、瀬崎せざきさんが憧れる選手がいるのもプレミアリーグです! 多分、そんな名前でした!」


 って、お前も知らないんかーい。

 息が切れる中でようやく上半身を起こしたというのに、もう一回寝転んでしまいたい気分になる。


「なあ、まさかチサもサッカーは、やるだけで見ない派なのか?」

「えっと、Jリーグとか日本代表の試合なら……。海外のサッカーって、夜遅い時間にやってますし……。ニュースでハイライト映像とかは、チラッと」

「――そりゃそうか」


 よく考えてみれば、この前まで小学生だったチサが海外サッカーをリアルタイムで見られるわけない。

 そもそもプレー技術と海外サッカーの知識なんて、多分、相関関係はないんだ。そんなもんだろう。今の年齢で自国のリーグと代表戦を見ているなら十分すぎる。

 俺だって留学に誘われたイベントには、『なんか外国の強そうな名前のチームが来てる!』ってぐらいでしか参加しなかったし。大差ない。


「……しかし、瀬崎の憧れるプレイヤーって誰だろう。上手い選手も強い選手も沢山いるからなあ」


 プレースタイル的には前線の選手か中盤の前のほうだろうけれど、思い当たる選手が多すぎて絞りきれない。


「それよりお兄ちゃん、暗くなってきたし、さすがに今日は休んだほうがいいよ」

「――そうだな。なんか、久しぶりに熱くなった」

「私の完敗でした……」


 チサは悔しそうに言う。

 折角だから、このタイミングでネタばらしをしておこう。

 俺はフットプロムのルール、『ナツメグ』についてチサに説明した。


「ええっ!? じゃあ私の勝ちだったんですか!?」

「ああ。あの時点でもう勝敗は決まってたんだよ」

「…………むぅ。勝った気が全然しません」


 ムスッと、明らかに機嫌を悪くしてチサが呟いた。


「啓太さんが悪いんですよ! 私のことを子供だなんて、あおるから!」

「……ごめんなさい」

「お兄ちゃんさ、勝敗をイーブンにするために、あのあときっちり十回やったんだと思うよ。大人げないよね」


 狙いを妹に見透かされていた。あのあと十連勝したからこの勝負は引分けってことにしたかったんだ。

 負けたままじゃ気持ちに整理を付けるのが難しい。……まったく、これじゃどっちが子供なんだか。少なくともサッカーにおいてはもう、チサは子供扱いできないな。

 左足を使われてからはこっちも必死だった。点差は開いたけれど、全て紙一重の攻防を続けた結果だ。


「でも、楽しかったです。久しぶりに左足でプレーしました」

「なあ、チサ……ひょっとして、チサが瀬崎の真似をしているのって……」


 対戦しながら、俺は疑問を抱いていた。

 右足のプレーは一つ一つを取れば瀬崎にそっくり似ているのに、左足のプレーは全く似ていない。似せようとした気配もない。


「憧れや目標より、単純に右足の手本……か?」


 人間は目で見たものをコピーするように体を動作させることができる。完成度はともかくとして、成長の過程で様々なこと、例えば言葉だって真似で覚える。

 一から手探りで模索するより上手いプレーを手本にコピーしたほうが成長が早いってこと――かもしれない。


「いえっ、いえいえいえ! そんなわけないじゃないですか!」


 チサは両手を振って、全力で否定する。


「その――、瀬崎さんは、本当に憧れなんです。…………私はサッカーを始めたのが小学校二年生で、そんなに早くはなくて、その頃の背は、幼稚園生ぐらいで……。そんな私に瀬崎さんは、サッカーのことを色々教えてくれたんです」

「瀬崎が……?」

「はい。私には向いてないんじゃないかって、何度も辞めたくなったんですけど。そんな時は必ず瀬崎さんが

『チサには才能がある。絶対できるようになるから、もう少しやってみよう』

 ――って。それが今でも耳に残っていて、上手くいかないときは、その声に励まされているんです」


 瀬崎結衣(ゆい)とチサの関係は、一方的にチサが(した)っているだけかと思っていた。

 けれどこの話を聞くと、憧れるだけの理由を瀬崎が作っていたように感じる。


「結衣は私たちの世代じゃ、リーダーだったからねえ。昔から一番上手かったし。多分……本人は口に出さないけれど、高校に行っても……。ひょっとしたら、プロまで見据えてるかも」

「プロ……か」


 男子選手に比べると、女子のプロ選手というのは圧倒的に少ない。

 日本代表に選ばれるレベルでも、その中のほんの一握りしかプロにはなれないと聞いたことがある。

 つまり、ほとんどは企業に勤める社会人選手だ。


「チサは、目標とかあるのか?」

「私の目標……ですか?」

「ああ。やっぱり瀬崎がプロを目指すなら、チサも目指すのかな――って」


 話の流れとして、この質問が出るのは自然な気がした。だから特に躊躇わず訊けた。実際のところチサのセンスがあれば可能性は十分すぎるほどあるように思える。

 だがチサは、表情に影を落として、暗く俯いてしまった。


「…………それは、きっと……無理です」

「無理?」


 いつもの謙遜かと思ったが、どうも深刻だ。なにか理由でもあるのだろうか。


「私の身長、百四十六センチで止まるって――――。最初からそう、決まってるんですよ」

「……………………え?」


 唐突すぎる告白に、時間が停止したような気がした。

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