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ハードモードに疲れた天才落第生、のんびりコーチで成り上がる。【連載版】U15ガールズ!  作者: 本山葵
立ち上げ編2 『家に帰ると、妹とJCがいる』
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第7話 BENTO②

「……ところでそのリンゴ、私の梅干しと交換しない?」

「何だよ、急に」


 突然のアンフェアな申し出に、感傷的になりかけていた気分が吹き飛ぶ。


「日本風弁当、ちょっと寂しいよ。フルーツも食べたい……」


 ほぼ日の丸弁当だからな。

 というかそれ、今の日本で食ってる奴はそういないと思うぞ。


「チサが気を遣って作ってくれたんだ。人にあげる気はねえよ」

「…………この、ロリコン」

「なっ、ぬぁ……、それは言っちゃ駄目だろ!?」


 大体、チサは恩義で作ってくれたんであって。


「屋上から言いふらしてやる。この男子、十二歳の女の子から愛妻弁当もらってますよーっ! って、全力で、大声で言ってやるよ!!」

「やめろ、マジで。中等部には本人がいるんだ」

「だからこそ、私はやる」

「悪魔かお前は!?」


 遠慮なく突っ込むと、ソフィは急にシュンとして下を向いた。


「私だって……だって……ケイタの弁当……ケイタの弁当ぐらい、私だって……」

「ん、ひょっとして作ってくれるのか?」

「こんな酸っぱいフルーツとサーモンとライスだけの弁当より、チサトの愛妻弁当が食べたかったよ!」

「ひでえ! お前は日本人に謝れ! 主に梅農家に謝れ! っていうか、日本食好きなんじゃなかったのかよ!?」

「ケイタのそれのほうが日本食っぽい!」


 ああ、気付いていたのか。

 俺はソフィの言葉をじっくり咀嚼して、不敵に笑って見せた。

 そのままの表情を保って言葉を紡ぐ。


「ふふ……。そうか、やはり気付いていたか。――そう、この日本らしい卵焼き! 肉団子とも呼べるミートボール! 青森のりんご! そして可愛らしい飾り付け! これこそが日本のBENTOだッッ!!」


 指を差してドーン。

 ソフィは崩れるように項垂れた。……このりんご、青森産だったかな。日本のりんごは大抵青森産か。


「日本食、奥が深いよ……」


 日の丸プラス鮭の弁当がちょっと古式ゆかし過ぎたということもあるし、ここまで可愛く飾られた弁当はむしろ珍しいだろう。

 こうも極端な二つで日本式BENTOの幅を見せ付けられちゃ、そりゃそういう感想にもなる。


「そういや、昨日のフットサルがどうのこうのって言ってなかったか」


 落ち込む姿を見て、俺は思い出したかのように言って話題を変えた。

 ちなみに弁当を譲る気は一切ない。

 梅干しと鮭と米が織り成す古き良き日本の世界に浸るがよい。


「あっ! そう、この動画!」


 言ってソフィは俺にスマホを差し出した。


「どれどれ……、って、おい、コラ」


 差し出されたスマホの下で、俺のうさちゃんリンゴが盗まれた。透かさずソフィは頬張ってしまう。


「やっぱり、こっちのほうが美味しー♪」


 言いながら自分の弁当にある梅干しを器用に箸で摘まんで、俺の弁当箱へそっと入れる。

 さようなら、うさちゃん。こんにちは、梅干しさん。

 ソフィはボソボソと「梅干しとワサビは日本人専用だよ」などと呟いている。

 じゃあ弁当に入れてくるな。日本人だって梅干しとワサビがユニオンジャックの人間にすんなり受け入れられるとは思ってねえよ。


「チサトの料理姿、きっと可愛いんだろうなあ」

「ああ、可愛かった」

「……やっぱりロリコンね」


 うーん。実際に可愛いと思ったからそのままを言っただけなんだけれど。

 ロリコン扱いは困る。可愛いものを可愛いと言っただけで誰も傷付かないのに、変な話だ。


「ねえ、ケイタ。チサトがどっちの手で包丁を握っていたか、覚えてる?」


 包丁……?


「確か、玉葱を右手で抑えていたから…………」


 ――チサは包丁を、左手で使っていた。


「ボールは右足で蹴ってるよ」

「え、…………ちょ、待て。ソフィ、それ、マジで言ってるのか?」


 チサは、左利き……?


「私も左利き。手が左で足が右かもしれないけれど、だとすると珍しいかな。サッカーするなら損だよ。でも、チサトはユイに憧れてる。ユイは右利き――。利き足じゃないなら、アウトサイドで蹴るのが難しいのも納得できるね」

「…………そんな、いくらなんでも馬鹿げてる。俺は左足でも蹴れるようにってアホみたいに練習したけど……左利きにはなれなかった」


 そんな人間はごまんといる。サッカーをやっているなら尚更だ。

 そもそも両足を器用に使えるように――というのは誰もが通る道だろう。そして殆どは、挫折する。

 実際、逆足でのキックが上手いプロサッカー選手というのは多くいるけれど、本当に『両利き』とまで呼べる選手は、一般的に思われているよりも遙かに少ないんだ。

 軸足と蹴り足を入れ替えて同じ強さと精度で蹴るなんてことは、プレーのレベルが上がれば上がるほど難しくなっていく。利き足と逆足では感覚も、筋肉の付き方すらも違うのだから。


「まさか。憧れているからって、そんな……」


 急に弁当が喉を通らなくなった。

 憧れているから利き足を変えた? そんなことありえない。

 ――いや、できない。不可能だ。


「私も(にわか)には信じられないかな。だからケイタに訊きたかった。あとは動画を見てどう思うか……。ううん、家にチサトがいるなら、直接訊いてみてほしい。……そうじゃないと、チサトは――」


 ソフィの言いたいことは理解出来る。逆足だけ(・・)練習をし続けても、成長に歯止めをかけるだけだ。チサは右足でばかりボールを蹴っている。

 むしろ『利き足で上手くなれ』という指導法もあると聞く。成長の難しい逆足を並のレベルまで引き上げる時間があるなら、利き足を最大限高いレベルへ引き上げたほうが絶対的な武器になるということだろう。

 そのほうが足の踏ん張りが効いて、体をぶつけられても倒れないようになるという話すらもある。


 そもそもチサや瀬崎結衣が多用するアウトサイドキックは、利き足の前にボールを置きながら逆足と同じ回転でパスやシュートを蹴れるということに大きな意味がある。左利きならば右足のアウトサイドを多用する必要はない。


「ちょっと、スマホ借りるぞ」


 ソフィが差し出していたスマートフォンを受け取ると、すぐに動画を再生させた。

 見逃しがないか『疑い』をかけて、チサのプレーに注目する。

 ――――最中、一つだけ違和感を得た。

 それは以前、アウトサイドキックに顔を(しか)める映像を見たときよりも、ずっと小さなものだ。しかし疑いを持って見ると、見逃すには大きすぎるものでもあった。


「難しいボールのトラップが、全て左足だな……」


 トラップは、パスなど自分へ向かってきたボールを『受ける動作』だ。

 ボールという相手がいる以上、自分のタイミングで実行出来ないこともある。

 特に走りながらギリギリ追いつけるボールをトラップしようとすると、中々思い通りにいかないことも多い。その時にだけ、つい利き足が出てしまう……。可能性は十分にあるだろう。


「確信は持てる?」

「――いや、動画だけでは無理だ。――でも、もしソフィの疑惑が真実なら…………この動画は、ちょっとしたスペクタクルだな」


 疑いが事実であるならば、動画はチサの恐ろしい才能と努力量を示していることになる。

 憧れだけで逆足を……それだけでプレーが成立するようになるまで鍛えに鍛え抜いたなんて、考えるだけでもゾッとする。


 しかし同時に、俺はチサの作った弁当を食べながら、心に灯った好奇心を隠しきれなくなってきていた。

 逆足であれだけのプレーをしているなら、利き足ではどうなる?

 誰かのプレーを見てワクワクするなんて久しぶりの感覚だ。


「もし本当なら、とんでもなく最高で、バカらしい。――ははっ。ほんと、最高だ」


 ひょっとして俺は、とんでもない選手と出会ってしまったのではないだろうか。


「ケイタは、その表情(かお)が似合うね」


 しかし憧れを胸に一人で親元を離れたチサに対して「瀬崎のプレーを真似するな」なんて言えるのか――と、不安にも襲われる。

 それでも、チサの成長を考えれば……。

 俺は不安を胸の奥深くへ、隠すようにグッと押し込んだ。

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