表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/123

第16話 結果

 結局勝敗を分けたのは、ゴールキーパーの差だったように思う。

 Bチームにはゴールキーパーを本職とする手島てしま和歌わかがいて、一方のAチームは三年生の中から二人が交代で務める急造ゴールキーパーとなった。

 フットサルのゴールはサッカーよりずっと小さいけれど、シュートを打たれる距離は近くなる。至近距離のシュートに対する恐怖は、かなりのものがあるはずだ。

 急造のゴールキーパーがそれを乗り越えるのは難しいだろう。誤魔化しが利かない。


 一方、本職の手島和歌は、普段の温和な表情から想像も付かない勇敢なプレーでAチームの攻撃を凌ぎ続けた。もちろんその中には至近距離のシュートが大量にある。

 ――全く、感心させられるというか、その勇気は手放しで褒め称えたい。


 結果、スコアは0対6でBチームがクリーンシート(無失点)し、Aチームを完璧に封じた。

 この極端なスコアはゴールキーパーの違いだけでなく、Aチームに――一昨日の紅白戦で最も多くのゴールを生んだ――一枝いちえだ果林かりんがいない、ということもあったのかもしれない。

 けれど今日の試合内容だけを見ていると、その可能性は低い。


「結局、最多得点は瀬崎せざきか」


 というのも、瀬崎結衣(ゆい)は一枝果林に対してただの一度もパスを出さなかった。どんだけ一年生嫌ってるんだこいつ。

 しかし狭いコートで少人数という点にフットサルの醍醐味がある。サッカーに比べるととにかくボールに触れる機会が多いんだ。ぶっちゃけ、立ってるだけでも足元付近に転がってくる。

 だからまあ、瀬崎からのパスは来なくても、一枝果林にボールは何度も回ってきた。その度に瀬崎は『良いパスが来ないなら自分でドリブルすればいいじゃない』とマリーアントワネットばりの無茶でも言いたげな顔でじっくり後輩の腕前を観察。

 ……いやまあ、その中で堂々と最前線に居座り続けた一枝も中々のものだけどね。点取り屋にも色んなタイプがいて、彼女はワンタッチゴーラーと呼ばれる部類だ。うまくフリーになって良いパスを受け、ワンタッチでゴールに流し込む。このタイプはドリブルがそれほど上手くなくても成立する。

 だからと言うかやはりと言うか、結局一枝果林には、狭いコートで上級生の守備を単騎突破できるドリブル技術が無かった。


 瀬崎結衣の一年生に対する対抗意識、一枝果林の技術不足――。

 大敗を喫したAチームの中にあっては釘屋くぎやかなでの素早いカバーリングに目立つものがあった。終始劣勢で守備機会が多かったということもあるし、特にボールを扱う技術に秀でている様子はない。しかし展開の先を読み、相手に食らいつく。ボールを『奪う技術』は高く、中々面白い選手だ。

 自己紹介で瀬崎が「奏は上手いわ」と言っていた理由も、わかるような気がする。攻撃側の選手としては相手にしたくないだろう。


 そして心乃美このみと同じくセンターバックを希望する三年生、守内もりうち真奈まなは、後ろに手島和歌という守護神がいたとは言え寺本千智に自由を与えず完璧に封じて見せた。彼女はザ・体育系の活発な印象で、完璧に守りながらも敵である寺本が落ち込まないよう、いや、力をより引き出そうとしているかのように声をかけて鼓舞していた。良い先輩だ。

 逆に言えば寺本千智は、高次元の技術を持ちながら余裕を持って封じられたことになる。パスを受ける動作で左足を使う場面はあったが、それ以外はほとんど右足のみでプレーし、利き足に頼りすぎたと言えるだろう。そうなると守備側は動きを読みやすい。


 心乃美と守内真奈は高いボール奪取能力のみならず、時にドリブルを仕掛け、効果的なパスを出し、視野の広さやボールを扱う足元の技術も高く評価出来ると感じた。

 守備の要であるセンターバックがドリブルやパスの技術に長けているというのは、現代的なサッカーにおいて大きな長所となる。ひょっとしたら攻撃的なポジションのほうが技術が活きる可能性も出てくるし、チームの幅は確実に大きくなる。

 ディフェンダーからフォワードへの転向も珍しくない。良い意味で考えることが増えた。


「一年生に対する瀬崎の対抗心には困ってしまうが……。少しだけ、このチームの方向性が見えてきた気がするな」


 まだ雨音が響く市営体育館で、得点ボードを片付けながらソフィに言った。

 するとソフィも、三角コーンを重ねながら――、


「そうだね。たった一回のフットサルでこんなに一杯のことが見えてくるなんて、ちょっとビックリしたよ。でも、全員が練習に来てくれたのがいち――っばん、嬉しかった!」


 飛び回るような調子の声で、にこにこと楽しそうに返してくる。

 ソフィはオーナーの娘で、サッカー経験が無い。

 俺はそのオーナーが所有するチームの、アカデミーに所属する選手。

 きっと違う立場の違う視点から彼女達の姿を見ている。けれど、想いには似たものがあるのかもしれない。なんだかんだ、一人でコーチをやるよりもこうして発見や出来事を一緒に喜んで分かち合える存在というのは、いてくれて良かったように思える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ