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ハードモードに疲れた天才落第生、のんびりコーチで成り上がる。【連載版】U15ガールズ!  作者: 本山葵
地方大会編7 『才能なんて、生きかた一つでいくらでも変わる』
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第3話 白い欠片

 チサの手術が終わったのは夜の二十時(ごろ)だったけれど、それはあくまで全身()(すい)から目を覚ます時間だ。

 それより三十分以上早く、手術着にマスク姿の(しつ)(とう)()(ましろ先生)が出てきて、結果を伝えてくれた。

 さすがに俺を相手にするのと保護者を相手にするのとでは、(こと)()(づか)いが(ちが)う。


「無事に終わりました。軟骨の剥離(はくり)が複数あり、一部は除去、一部は生体吸収性のピンで固定してあります。明日から松葉(づえ)での歩行を開始し、(じよう)(きよう)を見て足への加重を増やしていきます。退院後はより(せい)(かつ)(けん)に近い私のクリニックへ通うこともできるのですが――。お父様は、遠方に住まわれているのですよね?」

「……ええ。私に転勤があって、娘はそこの――啓太くんの家に、預かってもらっています。サッカーを続けるために。……ですが、治るまでは自宅で、と」


 それがいい。今の(かん)(きよう)よりも自宅のほうが、チサは何にも気を遣うことなくゆっくり休めるはずだ。

 しかし、ましろ先生は(まゆ)(ひそ)める。


「それは()(さと)さんを(おも)っての判断ですか? それとも、お父様の希望ですか?」


 ――(いつ)(しゆん)、先生が何を言っているのか、わからなかった。

 チサのお父さんは難しい顔をして(うつむ)く。


「術前に、千智さんと少し会話をさせて頂きました。早く学校へ通いたいという希望もあり、リハビリにも前向きです。――何より千智さんは、怪我の痛みと手術の恐怖に()えながら、心配してくれる人たちのことを想える、優しくて強い子です。そして……良い仲間にも囲まれています」

「…………わかっています。娘のことを想えば……」

(かの)(じよ)はまだ幼いですから、決断するのはあくまで保護者です。完全な正解というものは無いでしょう。医師としては、千智さんが()(りよう)を受けることができる環境にあれば、他に言えることはありません」


 言い終えると先生はマスクを外し、更に言を()いだ。


「――――しかし一個人の意見を言わせて頂くと、逆境にあって前を向く人間を過保護にするというのは、成長の機会を(うば)う可能性があります。専門医がこんなことを言うのは(はばか)るべきかもしれませんが、大事なことは競技でのパフォーマンスよりも、長い人生を生きる強さです。退院まで時間はありますので、どうか(しん)(ちよう)な判断をして頂けたらと願います」


 言い終えると、今度は小さな(ふくろ)を取り出した。中には(とう)(めい)の液体と、一センチ四方ぐらいの白い何かが入っている。


「千智さんの(ひざ)関節をロックしていた軟骨です。専門的には(ゆう)()(こつ)(なん)(こつ)(へん)と言います」

「こんなものが、膝の中に(はさ)まって……?」

「お持ち帰りになりますか?」


 チサのお父さんはゆっくり(うなず)いて、「ありがとうございます」と何秒も頭を下げ続けた。

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