第2話 後悔
親父とチサのお父さんが病院に入ってきて、すぐにチサのお父さんが同意書にサインをする運びとなった。
俺とソフィはチサの怪我に気付くのが遅れたことを謝り、揃って頭を下げる。
しかしチサのお父さんは、そんな俺たちに低い声で、優しく応えてくれた。
「君たちが気にすることじゃないよ。応急処置は適切だったと聞いているし、競技スポーツをさせている時点で、親として多少の覚悟はしているからね」
チサのお父さんも、大学までサッカーをしていたと聞く。親父とライバル関係だった――と。
スポーツと怪我は切っても切れない関係にあって、娘が同じ競技スポーツに打ち込むということは、自分が見聞きしてきた、もしくは自分が経験したのと同じような怪我を娘も経験する可能性があるということを、覚悟していたのだろう。
父親として、娘の心配をしないなんてこと、あるはずがない。
すぐに準備室から手術用のベッドが出てきて、チサのお父さんは娘の傍へ駆け寄った。
手術前には俺ももう一度顔を見せようと思っていたのだが、駆け寄った瞬間にチサのお父さんが見せた悲痛な面持ちに、現実を見る。
「気にしなくていい、なんて、嘘に決まってるよな……」
ソフィもその表情を見てしまったのだろう。
「嘘ではないよ……。でも、全部が本当の気持ちと言えるほど、簡単じゃないんだと思う……ね。――――私が『日本へ行く』って伝えたときのパパの顔、思い出しちゃった」
「オーナーの……?」
「パパ、初めて真剣な顔で言ったよ。……うん。怖いぐらい、真剣だった。
『親元を離れるなら、これを覚えておきなさい。パパに何かあっても、ソフィは傍にいることができない。そしてソフィに何かあっても、パパは傍にいない。これだけはちゃんと理解して、行ってくるんだよ』
…………パパが心配する気持ち、初めてわかったよ」
「――俺も、母さんの死に目に会えなかったからな」
多分、長い人生の中でもトップ10に入るんじゃないかと思えるほど重たい話をしていると、ずっと隣で黙っていた結衣が不意に口を開いた。
「あなたたち、親のいない人間がここにいるってこと、忘れてない? そういう話って結構、気を遣われることが多いのだけれど」
ぐうの音も出なかった。




