第6話 決着
試合終了の笛が鳴ると、結衣はそのまま青々しい芝生の上でゴロンと寝転がった。
レポロの選手たちはじっくり優勝の味を噛みしめているようであったり、大はしゃぎで喜んだり、何にせよしっかりとした満足感を得て充足した表情を見せている。
一人の選手の圧倒的な力で勝てば、例えそれが味方であっても、他の選手は力の差に打ちひしがれたり、自分が勝利に貢献していない不完全燃焼感で満足できなくなることがある。
前半にチサが見せたプレーが、正にそれだ。
だが結衣のプレースタイルは、チームの中で常に力を循環させることで、個の力をどんどん膨らませていくものだった。仲間の力を引き出すことで自分が更に輝くわけだ。
それは俺の目指す、一つの理想像でもある。
自分の理想像を年下の女の子に見せつけられて、その力にはただただ感嘆するしかない。
「…………負けた」
急に横で弱々しい声がして、服の裾をツンツンと引っ張られる。
何かと思って視線を向けると、梨原深冬ことみふたんが、ものす――――っごい悔しそうに、今にも泣きそうな顔をしていた。
泣くようなキャラだったかな……。
「ど……どうした? 腹でも痛いのか……?」
「違うわよ! 負けた負けた負けました!! 天才の力に屈服しました!! …………こんなのって、ある? 絶対うちが勝てる試合だったのに。秘策まで用意してみんなで練習したのに。……一人の力でボコボコにされて、そんなの、戦術でどうこうできるものじゃないでしょ……。酷すぎるよ……」
「お、おう……」
いきなりしおらしい性格になられても、調子が狂うだけなんだけど……。
「頑張って泣かないようにしてたのに……。相手に三人も天才がいたって、工夫すれば勝てるんだ、って、みんなに伝えたかったのに……っ」
「本気で泣いてんじゃねえか――」
不貞不貞しい奴だとばかり思っていたけれど。こっちが素ってことなのだろうか。
落差が激しすぎて演技にすら感じる。
「工夫すれば勝てるんだって、みんなに伝えたかった――か。それがお前の本心か?」
「ぐずぅっ、ふぅ――っ、ふぐっ」
嗚咽するほど泣きながら、深冬は縦に一回頷いた。
……演技じゃ、ここまで本気で泣けないか。
それに泣くほど悔しがるということは、こいつが監督の役目に、本気で臨んでいた――ってことだ。
俺は深冬の頭に手を置いて、妹を慰めるような気持ちで言葉を紡ぐ。
「俺たちの勝負なら、俺の負けだ。戦術じゃ負けていた。どうやっても勝てないとさえ思わされたよ。…………あと、お前のことを卑屈だとか言って、悪かった。チームを勝たせたいって気持ちに違いはないって、よくわかったよ。だから――――な? っておいおい、そんなにくっつくなよ。…………だからくっつくな! 人の服に鼻水付けるのやめろ!」
深冬は俺のジャケットに鼻を擦りつけて、更に手をジャケットの下から侵入させてくる。そのままズビュブワァーーーーと鼻をかんだ。
「きったね!!」
「ふんっ。ジャケット無しで帰るがいいわ。ぷぷっ、いい気味ーっ」
今日は昼間こそ暖かいものの、夕方から気温が下がり、五月としてはかなり冷え込むそうだ。こいつめ……っ。
「……次、選手権で借りは返すから」
「おう。じゃあまた選手権で――――って、なんだそれ?」
「――は?」
俺が『いきなり何言ってるんだこいつ』と思いながら次の言葉を待っていると、みふたんは本気で驚いたように、顎が外れたんじゃないかってぐらい口をがっぽり開けた。
なにその反応? ちょっと面白いんですけど。ぷぷっ。
「この大会の一位と二位は九州選手権に出られるんだけど……。あえっ、ひょっとして、知らないで戦ってた?」
は……?
「聞いてない聞いてない。地方で終わりの大会だから気軽に――って」
「うわぁー。……えー。嘘でしょ……、うちら、このチームに負けたの? ――って、テンションダダ下がりになるわよ!!」
「知らねえんだよマジで!!」
「はぁ……。監督、お父さんなんでしょ? さすがレポロと言うかなんと言うか……。敵を騙すにはまず味方からとは言うけれど、一緒に暮らしてる息子を騙して使いこなすなんて、相当な策士よ。あのディフェンスの子だって自分の娘でしょ? はぁ……。ほんと予想外……」
ついでに言うとチサも一緒に暮らしているのだが、ここは黙っておこう。
「ええっと、じゃあ、深冬さん……」
俺は改まって、彼女に申し出る。
「気持ち悪ーっ。みふたんとか馴れ馴れしく呼んでたクセに」
お前が勝手にその選択肢出してきたんだろうが! 女の子に気持ち悪いとか馴れ馴れしいとか言われたら、凹む……。
それでも俺は低姿勢を貫いて、改めて申し出た。
「もしよろしければ、その選手権とやらの日程を教えて頂ければ……。あと大会要項とかもついでに……」
「――ああー、そーいえば、辞退が出たら三位以下から繰り上げ出場だったかしらー。……ぷぷぷっ、そのままエントリーできずに散ればいいのよ。いい気味」
それから俺は、優勝チームの監督(代行)でありながら準優勝チームの監督(代行)に縋りながら、どうにか『U15九州女子選手権』の情報を引き出した。




