第5話 試合はもう始まっている
レノヴァSCはDF四人、MF四人、FW二人のスタメン構成のようだ。
ならば典型的な4-4-2か、それに近い形だと予想できる。
先週負かされたFCオルフェスはレポロに比べると体格に優れている印象があった。
レポロにも背の高い選手はいるものの、最高身長の手島和歌はゴールキーパーで常にフィールドの端っこにいる。
他で特別高身長と呼べるのはキャプテンの守内真奈と伊計汐の二人だけれど、センターバックとウィングだからやはりフィールドの端のほう。
一方で中央にはチサや果林、奏がいる。彼女たちは一際小さいから、全体的に見るとレポロというチームは小さい主力選手に大きな選手が数人混じっているという印象だ。
対してオルフェスは、全体のバランスが整っていた。和歌より大きな選手はいないが、チサより小さな選手もいない。
――――改めてフィールドに散らばったレノヴァSCの選手を見ると、それほど体格が優れているようには見えなかった。
ウォーミングアップでは大人数でのパス練習をしていたから、パスサッカーを主体とする連携重視のチームのように見受けられる。
俺はオルフェス戦の反省も込めて、監督やコーチから対戦相手のチームカラーのようなものを訊いて回った。相手の情報を得ずにぶっつけ本番、出たとこ勝負を挑んだ結果、徹底的に攻略してきたオルフェスに完敗した。
二度と同じ轍は踏みたくない。
まずレノヴァSCは遠い山間部のほうで女子選手を一手に引き受けている女子専門のチームで、規模もそれなり。歴史も十分にあり、今は指導者の代替わりをして若い女性が監督を務めている。戦績も上昇傾向にあって評判は良いようだ。
以前はドリブル主体のチームだったそうだが、代替わりでパスワークのチームに変わった――と、まあ、集まった情報はザッとこのぐらい。
俺をロリコン扱いして止まない多湖コーチは結構な情報通のようで、訊ねると嬉々として情報を伝えてくれた。そこに相手監督が美人だという話がなかったというのは意外だったけれど、あの人のサッカーに向ける情熱を物語っているのだろう。案外、真面目な人である。
会場がフィールドを一面しか有していないということは、レポロの試合中は審判役として同席したコーチの手が空くことになる。
そこで多湖コーチはデカい三脚に一眼レフカメラを乗せて、試合を動画撮影してくれているのだが…………。一眼レフカメラってのは写真撮影に使うものだとばかり思っていたから、あれで動画を撮られているのはどうにも違和感がある。
4Kで綺麗に撮れるとか言っていたけれど、それであの512GBもあるメモリーカードが必要だったのだろうか。試合映像、やたら精細だったし。
うちのチーム、そのうちドローン撮影も取り入れそうだな……。
しかし今大会におけるレノヴァの試合内容に関しては多湖コーチも、『口止めはされてないけど、なんかスパイのために審判をやったみたいで嫌だ』と口を塞いでしまった。確かに、審判役を務めることで利益を得るというのは、目的に反するだろう。やはり根は真面目だ。
だから最も新しく的確な情報に関しては、一つも教えてもらっていない状況である。
過去を遡っても、レポロの中学生チームが純粋な女子チームであるレノヴァと対戦した経験はないそうだ。活動地域も、沿岸部のレポロと山間部のレノヴァでは、全く重ならない。
それでも情報収集を怠らなかった成果はあるだろう。
選手たちには『女子専門のチームだから、小学生の頃から同じチームで連携を深めていると思う。恐らく、パスを主体としたサッカーをしてくるだろう』と伝えることができた。
いきなりポンポンとパスを繋がれてしまって主導権を握られると、苦しい試合展開になってしまうだろう。
何より怖いのは、相手もこちらを研究している可能性があるということだ。
オルフェス戦でわかりやすく弱点を晒してしまったわけだから、あれを見られていたとすれば…………。
試合開始の笛が鳴り、レノヴァの選手がボールを蹴った。




