表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/123

第2話 ソフィの挑戦

 (あい)(さつ)も済ませたことだし、さて、あとは試合を(むか)えるまでに選手のコンディションを()(あく)しないとな――とレポロ側のベンチ前に移動した。

 練習はお(たが)いにフルコートの()(じん)側だけ。つまりハーフコートを使って行う。

 半分に縮まったほうが近い(きよ)()で戦術の(かく)(にん)ができるから、都合がいい。


「――――って、なにしてんだ?」


 ベンチの真後ろにある通路を、大きな台車が通過した。()しているのはソフィだ。


「機材(はん)(にゆう)ね!」


 乗っているのは大きなスピーカーに……増幅器(アンプ)? それからマイクに、(たく)(さん)のつまみが付いた音楽系なんだろうけれど、よくわからない機材(もの)


「なんの?」


 見ただけでは(およ)そサッカーの試合には必要のないものばかりだ。

 声を電気的に増幅させる必要があるとしても、拡声器一つあれば事足りそうなものだが。――というか持ち運びを考えたら、こんな重そうな台車を動かすより拡声器のほうが絶対便利だろう。


「スタジアムDJやるんだよ! ……あれ? そういえば倉並家(くらなみけ)に行ったことも外回りじゃないとか言ってたよね? 監督(ボス)から聞いてなかったの?」

「いやいやいや、何一つ知らされてないんだが」


 いきなりDJ? あの監督(オヤジ)、ほんと同じ家に住んでいるのか疑わしいぐらい情報()()さないな! (おどろ)くわ!


(わたし)、日本では小学生のサッカーでも(じつ)(きよう)があると思ってたよ」

「どうしてそんな(かん)(ちが)いが生まれたんだ。いるわけないだろ」

(まん)()では実況されてた!」


 あー……。うん。確かに漫画ではありがちだよね、それ。

 実況がなかったらコマの中が(たん)(たん)としてしまうだろうし、読んでいても(じよう)(きよう)がわからないのだろう。足を後ろに()()げてシュートモーションでいる間にこの実況は一体どれだけ長く(しやべ)(つづ)けるんだ――みたいなのも定番である。


「でも現実には、(しん)(ぱん)の笛しか鳴らないね。……それはちょっと(さび)しいよ」

「地方の小さな大会だ。どこの国でもそんなもんだろ」


 いくらソフィの出身がサッカーの母国であっても、さすがにね。

 (おれ)だって中学時代をそこで過ごしたわけだけれど、審判の笛とまばらな(はく)(しゆ)程度だった。そのまばらな拍手の()()には、大きな差があると感じているけれど。


「選手は多くの人に見られてこそ成長する――って、パパが言ってた。人が集まらないどころか通行人にも見向きもされないのは、やっぱり寂しいね」


 ソフィの父親は、イングランドの()(ごう)クラブチームでオーナーを務めている。

 そのアカデミーに俺は所属しているわけで、オーナーの性格も少しぐらいは理解しているつもりだ。

 トップチームだけではなくアカデミーにもよく顔を出してくれて、()(へだ)てなく声もかけてくれる。サッカー愛の強い、とても良いオーナー。

 サッカーのクラブチームというのは地域性が強い。地元愛がそのまま(おう)(えん)へと(つな)がる。だからアカデミーでも公式戦となれば少しの見物人ぐらいは(おとず)れるし、カメラが回ることだって特段に(めずら)しいとは言えない。そうして(さつ)(えい)された映像をネット上にアップロードすれば、地元の人間から(かん)(しん)を買うことができる。


 将来有望な選手であれば、より幼い(ころ)から目をつけていたと言い張りたいファン心理も働く。上手(うま)くいけば『俺はあいつの成功をジュニアスクールの頃から確信していた』なんて()(まん)できるのだから、スカウト顔負けで毎試合見に来る固定客の割合も多い。

 もうトップチームよりも育成年代のサッカーを観戦するのが(しゅ)()になっている人もいるぐらいだ。入場料もいらないし。

 だから観客ゼロという状況が寂しく感じることには、ある程度の同意をしたい。

 それでも――。


「寂しいってのは同感なんだが……。いきなりDJは、やりすぎじゃないか?」


 スタジアムDJは試合の展開に合わせて客を乗せる、もしくは(かん)(せい)をリードする仕事だ。そもそも客がいなければ成り立たない。プロの試合でもスタジアムDJがいないことはある。

 加えて、それをソフィがやるとなれば、別の問題も生まれてしまう。


「第一、公平性が保てるのか? ホームアンドアウェイじゃないんだからさ」


 プロの試合ならばホームゲームではホームチームの(かか)えるDJが務めるし、客もホーム側が多数を()めるのだから、それで問題ない。

 地の利を最大限発揮し試合を勝ちきることに、DJと観客も加担するわけだ。これは地域性の話へ(じゆん)(かん)する。

 しかし今日(きょう)(アンダー)15カテゴリの、育成年代の大会。

 ホームもアウェーもないのにどちらかのチームに深く(かん)()しているDJなんてのは、下手(へた)をすると公平性を欠いた害悪にすらなりかねない。


「そこはちゃんと話し合ってるから、(だい)(じよう)()だよ。(わたし)がやるのは、選手の名前を読み上げるのと、ファールの解説、ゴールのコールだけ。公平性はちゃんと保つ。じゃないと、(しゆ)(さい)(しや)と全チームの許可を取り付けるのは難しかったよ」


 ソフィは珍しく苦笑いを()かべた。その表情には苦労の(あと)が感じられる。


「主催者と全チームって……。この短期間で、よく説得できたな」


 この大会の主催者は広く(うす)く色々な地元()(ぎよう)(にな)っているはずだし、決勝トーナメントへ進んだチームも四つあって、所在地はそれなりに分散しているはずだ。

 外回り――なんて一言で表現していたけれど、俺の知らない間にそんなに多くの人から許可をもらってきていたなんて……驚くしかない。


「じゃあDJというより解説――って感じだな」

「うん。ちょっと()ずかしいし、試合中はチームに(かか)われなくなっちゃうのが寂しいけれど……。ごめんね、ケイタ」


 そう口にしたソフィの表情はどこか(うれ)いを帯びていて、言葉に(しん)(じつ)()を乗せた。本当に申し訳なく思っているのだろう。

 確かにソフィがいなくなれば、俺の負担は増す。しかしこんな事情を抱えられたら責め立てる気にもなれない。

 むしろ――


「ソフィはレポロだけじゃなくて、色んなチームの選手が楽しんでくれるほうが『好き』なんだろ? 大切な役割を買って出たんだ。――どうなるか、俺も楽しみにしてるからな。(がん)()れよ」


 (わず)かな強がりを混ぜて伝えると、ソフィは(あお)い目を(かがや)かせて「うんっ。ケイタ大好き!!」と言ってくれた。

 ……同い年の女の子から『大好き』なんて言われて悪い気がするはずもないけれど、こいつの『好き』は人も物も出来事も仕事も色んなことがごちゃ混ぜになってるからなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ