プロローグ
時は2019年12月31日。私達は、戦った。必死に、必死に戦った。それでも、守れなかった。家族も仲間も、愛するものも。全て。この結末を迎えてはならない。絶対に…
戻れるならば、E・・・。
そう書かれた紙の文章は、そこで途切れてしまっている。
「課長。課長聴いてますか?一般の方から通報がありまして市街地で殺人事件が起きたそうです。今現場近くの警官を向かわしてます。って、また、それですか。誰かのイタズラでしょうどうせ」
そう口を開くのは、今年、俺と同じ課に配属された工藤だ。少々抜けているが、悪い奴ではない。
「だと、いいがな。おいっ、ボケっとしてないで現場行くぞ」
その紙を引き出しに閉まった。その中には、娘の写真が入っている。今日は娘の誕生日だ。
こう見えても、家族サービスは欠かせない良い親父をしているつもりだ。
俺たちは、パトカーの助手席に座り現場に急行した。現場には、近くを偶々パトロールしていた警官から連絡が来た。現場で、倒れているのは20前後の小柄な女性。背中には抉られたような杜撰な傷痕が残っているらしい。
「これで、3回目ですよ。被害者がまた、失踪したみたいです。今回は目撃者もいるみたいで、どうもこれが、犯人を見たと証言しているらしいんですよ」
「犯人を見ただと?で、どんな奴なんだ」
前の信号が、赤に変わる。工藤は、一度開けた口を閉じて、ゆっくりと話した。
「人間か分からない」
人間か分からない?俺は一瞬此奴が馬鹿にしているのかと思ったが、こんな時に冗談を言うような奴ではない。
「だとしたら、あれか猪とか熊とか動物だって言うのか?市街地だぞ」
「いえ、目撃者が言うには、確かに人間だった。だが、豹変して姿が変わったと言うんですよ」
「話を聞くしかなさそうだな。だが、それ以上に、被害者が失踪したと言うのが、不自然だ。何にせよ、1回目と2回目と現場で警察官が通報を受けて駆けつけた時には確かに死体はあった。だが少し目を離した間に、死体ごと消えてしまったなんてことがありえるか?」
「1回目は商店街、2回目はデパート、そして今回は、市街地。どれも人通りの多い場所ですよ。それなのに立て続けに死体が消えるなんて」
「まだ、今回の被害者が消えるとは断定出来ない」
俺たちは10分程で現場に到着した。現場はあちこちで悲鳴が聞こえる。
そこに映った景色は今でも忘れる事が出来ない。
最初に目に入ったのは、倒れている警官服の人だった。だがそれは、目を疑った。倒れている人の体は、首から上が抜け落ちていた。 警官の本来頭があるであろう位置に″ヤツ″はいた。
それを言葉で表すならば、化け物。だが俺たちはこう呼ぶ。
【死怪】