~製造者名
「……お前が旅をする理由のようなこと、僕も、ここ最近、ずっと……、ずっと、なやんでいたんだ。……お前のそれと同じ。……僕の存在理由のそれを……なやんで……」
……僕は、涙が知らずにじんでくることに気づいて、止めようとするのだけれども、目の奥が熱くなって、喉の奥が焼けつくような気がしました。泣いてしまうことを恐れて、僕が唇をきつくかみしめると、不意に片腕のユノが立ち上がり、僕を擦り切れたマントで覆うように隠してくれました。
一気に暗くなった視界に僕は、我慢できなくなって、嗚咽をこぼしながら泣きだしてしまいました。
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この国の王子にあるまじき振る舞いを、見せてしまったのだけれども、見せてしまった相手は、気楽な旅人の片腕のユノ。僕は、片腕のユノに対して、気安さを感じ始めていました。
彼のマントの下で、恥も外聞もなく泣いてしまうという情けない姿をさらしてしまった後では、取り繕っても意味がないようなきがしていたし、不思議と、片腕のユノには、すべてを打ち明けても、彼は動じないだろうという思いがあることが不思議でした。
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僕は、誰にも見つからないようにと隠していた『作られた国』とタイトルに掘られた本を、片腕のユノに差し出しました。片腕のユノは古びた紙を壊さぬように慎重に器用に片腕で本の紙を一枚めくり、そうして、息を呑みました。
僕は、息を呑んだ、片腕のユノのことが理解出来ずに思わず彼の近くに駆け寄ります。だって、片腕のユノは、まだ本の内容すら目にしていないのです。不可解に思うのは当然だと思います。僕は、不思議に思って、片腕のユノに近寄り、尋ねました。
どうしたんだ?って、
……すると、片腕のユノは、震える声で、口にしたのです。
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「……この本の著者、『アルベ』と……書かれていますね。このアルファベットの綴り方の癖……間違いない……これは、この本の著者は、……私の”製造者”です」
片腕のユノは、最上の幸福に出会ったようななんとも言えない顔をして、涙を一筋こぼしました。片腕のユノの口端が震えているのが僕にもわかりました。きっと叫びだしそうになる気持ちを我慢しているのだと僕にもわかりました。
聞きなれない”製造者”という言葉に内心、首を傾げていると、片腕のユノは、自らの腕の関節をくるくると回し外すと、カチッと腕のカバーを取り外して、僕にそれを見せてくれました。
……その腕のカバーの下には、はっきりと、その本の著者の名前と同じ筆跡で『アルベ』と。彫り付けてあったのです。
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