~悩みと人となりと(6)
「……か、彼は……シルクハットとステッキを持ってる彼は、まるで僕をこちらの世界に飛ばしたあの虹色のマリオネットとそっくりです。彼は一体……この方は今、どこにいらっしゃるのですか?僕はこの方から話を聞かなければならない」
僕の言葉に、ブリュッセル・ゲーン という老人は、静かに首を振った。
そうか、と頷きながら。
「……彼は、アベル、だよ。彼は、曲芸師であり、一流のパントマイマ―であり、……最後には、詐欺師とののしられてこの世を去った、……私の一番の友人だった男だ。……彼は、若いころ、有名な活動家でね、彼らしい、彼はマリオネットの劇を人々にみせることで共感者や協力者を募ろうとしていた。
彼のマリオネットの劇にみせられて私は彼の協力者になった」
僕の驚愕した顔を目にして、老人は、こうも言った。
「おっと、言い忘れていた。けれど、アベルのマリオネットたちへ向けていた愛は本物さ。彼は生涯認めなかったけれど、彼の創りあげるマリオネットはまるで生きているよう、魂を胸に秘めているようだった。悲劇は人の心を打ち、楽し気な劇は人々の心を明るくした。彼は暗い戦時中も人々の心をともしびのように燈そうとしたんだ。希望という名の幻想と共に。アベルはいつまでもそういったことを忘れない人間だった。彼の創りあげたマリオネットたちは未だに世界中にコレクターが存在しているんだよ。……勿論、私もその一人だ。この部屋にあるマリオネットたちは全てアベルの創り出したものたちだ。私は、たとえ一億積まれようがこの子たちを手放す気はないんだ」




