~片腕のユノ との出会い
僕は、生まれたすぐに、もう、僕でした。……それから、何千年も、僕は、僕のままです。父上も、何千年も王のままです。
僕は、ある日、不思議に思いました。古びた一冊の本を僕は見てしまったからでした。
その本には、僕が聞いたことのない、この国の成り立ちが書かれていました。
その本には、『作られた国』というタイトルが彫られていました。
随分古びた紙のそれを壊さないように慎重に開けた僕は、中に書かれていた内容に驚きました。何故かというと、そこに書かれていたのは、僕らの国『マリオネットの国』が、人というものたちがつくった『人形劇』だって書かれてあったからです。
僕は、とたんに不安な気持ちになりました。
思い返してみれば、何故、僕らは何千年も同じままなのかしら、と、疑問に思ってしまいました。……それは、もしかしたら、疑問に思ってはならない類のものだったのかもしれません。
この本は、周りの人々に見つかったら、混乱を招く類の”タブー”な本だって僕はわかりました。
……僕は本を絶対に見つからないところに隠したけれど、毎日毎日、何故?って思いが消えなくなりました。
何故、僕らは、何千年も同じままなのかしら、何故僕らは、この本に書かれてあるように、腕を切っても、血という液体が流れないのかしら。何故、何故、何故……?
僕は、深く悩みこんで、ふさぎ込んで、そのうち、外出を控えるようになり、その後、完全にお城の僕の部屋から外に出ることもできなくなってしまいました。
……僕は、きっと、怖くなったのだと思います。今まで、なんともなかった、街の人々の様子が、容姿が、様々な、変わらないことを突き付けられることそのものが……怖くなってしまったんです。
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元々、優しい父上ですが、僕の様子にひどく胸を痛められ、ある日、僕の目の前に、ひとりの旅の者を引き合わせました。
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父上は、言いました。
「この者は、様々な国を旅しておる。この者から面白い話や楽しい話を数多く聞いて、また前のような快活なお前にどうか戻っておくれ」
そう言って。
僕の目の前に控えたその旅の者は、片腕がなく、なんともみすぼらしい恰好をしておりました。
へなちょこの魔女のような帽子を半端にかぶって、黒い古びたマントのような服は、至る処がすすけて、破れて擦り切れて薄っぺらくなってしまっていました。ボロボロの細身のズボンは、つぎはぎだらけで、履いている靴は、見たことのない変わった形をしていました。
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明るいオレンジのくせ毛の髪はやたらめったら伸び放題で、鋭い目は見たことのない赤紫色。僕は、目の色はどの宝石よりも立派で美しい輝きをしているけれど、あとはなんだかすすけたやつだぞ。と、すこし、身体を引いたことを覚えています。
その旅の者は、片腕しかありませんでした。
彼は、片手を肩に乗せ、僕に向かって騎士のような礼をすると、
「初めまして。王子様」
と、ニヒルに少し、口端をゆがめたような顔をほんの少しして、
思ったよりもずっと深く美しい声で、僕にそう言いました。




