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~ブリュッセル・ゲーン
「彼は、一体何をしているのですか?」と、僕が尋ねると、自称毒蜘蛛のターニー婦人は、丁寧に教えてくれる。彼女は、とても軽い調子で、「本の選別よ……」と、言った後に僕の表情を目にして、「彼が、完璧に記憶してしまった本は、ここにあっても仕方ないでしょう?ああして選別して、慈善団体に寄付するの。丁寧に修理した後にね」と、言った。
「慈善団体……偉い方なのですね……」
僕が思わず声を漏らすと、彼女は軽く首を振った。
「彼の蔵書は、貴重なものだけれど、……子供たちが好むような本は少ないわ。だから、ああして選別して修理しても殆ど返されてしまうのよ。あの本たちは、彼と共にひっそりと静かにここで過ごすことにきっとなるわ。だから、ここは本の墓場」
僕は、彼女の話を聞く内に、ブリュッセル・ゲーンというあのご老人は、とても優しい方に思えて、ただ、ほんの少し寂しい話にも思えてしまった。