~本の墓場
自称毒蜘蛛のターニー婦人に即されるまま穴の出口まで僕が顔をほんの少しだけ出すと、向こう側の部屋の様子が見えた。
そこには、天井付近まで本棚が作られている場所で、たったひとりこの部屋の管理人だろうか?厚めのエプロンを纏った白髪の老人が、滑車に載せた台の上に本を乗せていく。僕らは、天井付近の(倉木誠一郎(暗いねずみ)が掘り出した穴の)通路に居るため、その白髪の老人と目線が近いということは、すなわち、この老人は、老体に鞭打ってこんな高い場所に上がり、本を滑車に載せた台に積んでいることになる。僕は、言葉を失った。やがて、老人が滑車の紐を引くと、滑車は、本を乗せた台を下にするすると降ろしていく。
僕の様子を見て、自称毒蜘蛛のターニー婦人は口を開く。
「……坊やが驚くのも無理ないわ。この部屋を私は、本の墓場と呼んでいるの。信じられるかしら?この蔵書量にも関わらず、ここは一般に解放されていない場所なの。完全に、一個人が楽しむ為だけに集められた本の部屋。あのご老人は、ブリュッセル・ゲーンという資産家で、趣味人よ。自らが集めたこの最高の本が集まる場所で過ごすことが彼の最高の老後の?過ごし方なの」