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~暗さの理由


 『暗いねずみ』の名前は、倉木誠一郎くらきせいいちろうと……言うらしかった。聴きなれない音と

文字の綴りに僕はびっくりした。立派な名前ですね。と僕が思わず口元から漏らすと、倉木誠一郎氏(暗いねずみ)は、「……なんでぇい、立派なものですかいな……旦那……」と、どこか悲しそうに言った。


 僕も薄々思っていたのだが、倉木誠一郎氏(暗いねずみ)は、ひどく毛並みが良いねずみだった。彼特有の暗さも、言葉がどこか荒っぽいのを抜きにすれば、仕草や感情表現の繊細さなど、どこか文学青年のインテリが醸し出す暗さに似ていた。僕のマリオネットの国には、勿論吟遊詩人を生業にしているマリオネットもいる。醸し出す空気が彼らと同じだったから。


 倉木誠一郎氏は、飼いねずみだった。ある倉木という詩人の家に飼われたねずみだったという。今から1年も前の話だ。ワシの口癖は、倉木氏の口癖と同じや。とは、倉木誠一郎(暗いねずみ)の言。彼は、かつての主人のことをそう表現した。


 倉木誠一郎(暗いねずみ)が、飼いねずみから、流れねずみに流れ着いたのは、彼(主人)の気まぐれが原因だったという。


 すなわち、ふっと詩人の気まぐれか否か、主人が家に帰ってこなくなったのだった。ああ、だから、倉木誠一郎(暗いねずみ)は、こんなに暗い目をするのか……と、僕は悲しくなった。


 「——そう、だったんですか……」


 僕にそれ以上、何が言えるだろう……。倉木誠一郎(暗いねずみ)は、それでも立派だ。主人のことを責めたりはしていないどころか、彼自身も詩を書いているようだった。


 「同志の君もワシの詩を読んでみるかね?」

 大事に彼がしまってあったのだろう、どこから持ってきたのか知らないがブランデーを炭酸割してブランデーハイボールを飲み、よい気分になったらしい倉木誠一郎(暗いねずみ)は、僕にそう持ち掛けた。


 いつの間にか、同士が同志という意味になっている。僕は、少し目線を落として、「……いえ、僕には解らないので……」と、口にすると、彼にまたブランデーハイボールの二杯目を彼の見様見真似でつくってあげた。


 そのまま眠ってしまった倉木誠一郎(暗いねずみ)に毛布を掛けてあげると、僕はそこを離れようとしたが、彼の瞼が濡れているのを見て、少し悲しい気持ちになった。


 


 

いえ、この間テレビで主人と共に朝カレーを食し、午後に自家製の茶葉でつくった自家製ミルクティをたしなむ猫(衝撃映像)を見たものですから、ブランデーハイボールをたしなむねずみが居ても良いのではと……珈琲をねずみが飲むらしいということは何かで読んだことがあります(お酒系はニホンザルがお供え物の日本酒を飲んで酔っ払っている映像しか生憎みたことはありませんが……)

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