~大事なもの
僕は、ぴきっと固まってしまった。……僕が、会ったばかりの彼女に、名前を付ける……彼女は、そう言ったのか……?
僕は、途端に嫌な気持ちになって彼女からふいっと顔を背けた。脳裏には、片腕のユノが、自らの製造者だというものの名前を見つけた時の映像がぐるぐるぐるぐると繰り返し繰り返し、リピートされている。自らの腕に彫り込まれた製造者の名前を愛しそうに見ていた様子だ。彼の様子を見て、僕は本当に名前って大事なものなんだな、って思った。
……自らの名前なんて……そんな大事なもの、会ったばかりの他人に乞おうとするなんて……何故か解らないけれど、いやな気持ちが心中に広がって、僕は彼女から顔を背けてしまったんだ。
彼女は、透けるような肌の手を僕の肩にのせて、さらさらの金髪の髪を揺らして悲しそうに俯きながらお願いしようとする。けれど、僕が、ずっと相手にしないでそっぽを向いていると、突然にむっとした顔でぱっと立ち上がって、僕と距離をとり蹲る。
「……あなたって、ひどいマリオネットね!私がこんなに頼んでいるのに!さっき助けてあげたのに!」
怒ってしまっているようで、僕は途端に動揺して……。マリオネットの国では、どんなに小さな国だといっても僕は王子様で……、僕はどのようなものからも理不尽に貶されたことも、ましてや、怒られたことなんて一度だってなかったし、……ましてや、理不尽なことを言われて、……泣かれたことなんてない、初めての経験だったからだ。
先ほどは、僕の目から見ても解る程にふりだったくせに、今度は本当に、彼女は肩を震わせて、さらさらの金の髪を垂らして、蹲りながら、泣き出してしまった。
僕は、おろおろしながらも、もごもごと、反論らしきものを口端にのぼらせてみる。
「……君は、初めて会った僕のようなマリオネットに自分の大事な名前を考えてくれって言ったんだ……僕は、それは、あまりよくないことだと思うんだよ……」