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お稲荷様ののんびりVRMMO日和  作者: 野良野兎
WAVE-I 始まり
7/103

お稲荷様と三人組


 さて、時は経ち、サービス開始日の翌日。

 ゲーム内時間で言えば、日が高く昇り始めた頃である。

 結果だけ言えば、ボクは死に戻りした。

 いや、途中までは順調にレベリングも進んでいたのである。おかげ様でレベルも12まで上がったし、目当てであった新しいスキルも手に入れる事が出来た。

 いやはや、やはり徹夜なんてするものではないと痛感した。

 最大の敵は、眠気だったのである。

 眠気と戦い、ぼんやりとした意識でレベリングを行っていたところを複数の狼型のモンスターにがぶりとやられ、気が付けば始まりの街の、噴水広場に戻ってきていた。

 ペナルティとして、一定時間最大HP、MP、取得経験値が大幅に減少する【衰弱】という状態異常(デバフ)が付与されている。

 それにしても、狼の群れに(たか)られ、首や腹に食いつかれるあの感覚は、いくら痛覚遮断の設定をいじくっているといっても精神的にまいるものがあった。出来ることなら、しばらくは遠慮したいものである。

 しかし、得た物も大きかった。

 メインメニューを開き、ステータスを確認する。



プレイヤー名:タマモ

種族:妖狐族 Lv12

職業:無し


【スキル】


初級妖術【狐火】

初級妖術【鎌鼬(かまいたち)

妖術威力上昇(微)



 スキル覧に追加された、二つのスキル。

 【鎌鼬】はその名の通り、風の刃を相手に放ち、攻撃するスキルである。

 威力的には【狐火】よりも少し高い程度であるが、費用対効果としてはこちらの方が優秀である。

 何より弾速が早く、命中精度が高い。

 妖術威力上昇は常時発動型、パッシブスキルと呼ばれるものである。こちらも効果はその名のまま、使用する妖術の威力を僅かに上昇させる。

 どちらかというと防御系のスキルが欲しかったのだが、そこは魔法攻撃特化の妖狐族である。攻撃スキルが増えていくのは仕方がないのかもしれない。

 さて、本音を言えばもう少しレベルを上げておきたいのだが、【衰弱】の効果が残っている間は、経験値を稼ごうとしても得られるのは雀の涙程度。なら、状態異常が解除されるまで、昨日のようにのんびりと歩き回るのも悪くない。

 可能であれば、装備も更新したいところである。


「と、なると、どこに行こうかな」


 そういえば、若干かさ張ってきた【スライムゼリー(緑)】も整理しなくてはいけないなぁ、と思いながら、足は自然と市場の方へ。

 そこには相も変わらず、人、人、人。まるで祭りだ。

 サービス開始からまだ二日目ではあるものの、まだ現実時間は昼前だというのにこの賑わいぶりである。

 とはいえ、二日目にして店を構えるようなプレイヤーがいるわけもなく、今回は昨日見て回れなかった“鍛冶屋通り”なる、武器防具を主に取り扱う店が立ち並ぶ通りまで足を延ばす事とする。

 市場通りから少し脇へそれた、裏路地を抜ける。左右には煉瓦造りの壁。

 昼寝の邪魔をしてしまったのか、白と黒のぶち模様をした猫が頭上でにゃあ、と鳴いた。

 そうして、剣や盾、鎧の焼き印を提げた扉が連なる中、そのうちの一つに、何の気なしに手をかける。

 ちりん、と小さく鈴の音。

 クラシカルな雰囲気を漂わせる、カフェのような店内に足を踏み入れる。

 天井から下がったライトが優しく照らし、壁際には数々の衣服が綺麗に陳列されていた。


「あら、いらっしゃい」


 カウンターからそう声をかけてきたのは、妙齢の女性であった。

 綺麗な銀髪を横へ流し、後ろ髪を編み込んで丸く纏めている。

 気の強そうな切れ長の瞳に、赤いルージュ。シンプルな黒いシャツは胸元が大胆に開かれており、なんとも煽情的だ。

 思わずその胸元に視線が行きそうになるのを寸でのところで堪え、頭を下げる。


「どうも、何気なく立ち寄ってみたのだけど、なかなか良いお店ですね」


 そう返すと、女店主はこちらの爪先から頭の天辺まで、まるで品定めするように視線を這わすと、ふぅん、と小さく漏らした。


「元気に剣や槍を振り回すような柄じゃないね。なら、運が良いよお客さん。名前は?」


「タマモ」


「私はカトレア。見ての通り、ここの店主。で、レベルは?」


「12」


「駆け出しから片足抜け出たとこね。予算は?」


「3,300と、後これは買い取れるかな?」


 言って、所持品欄から昨日までの戦闘で手に入れた戦利品をアイテム化する。

 【スライムゼリー(緑)】に、レアドロップであろう【スライムの赤玉(小)】が幾つか。



【スライムの赤玉(小)】

 スライムの核を成す赤玉。

 大きさに応じて価値が変動する。

 とても割れやすい。



「うーん、うちはアイテム屋じゃないんだけどね。ま、全部纏めて1,200で買い取ってあげるわ」


「それで問題ありません。宜しくお願いします」


 という事で、予算は4,500Gとなった。


「任せて。と、いうことで失礼するわよ」


 言うが早いか、カトレアはこちらのすぐ傍まで歩み寄り、身体中の採寸を始めた。

 こそばゆい感覚。ふわりと、甘い香りが鼻先をくすぐる。

 

「ふーん、思ったより痩せてるのね。じゃあこれとこれと、あとこれ、着てみて」


 流石プロ、というべきか。採寸が終わってからの彼女の動きは早かった。

 陳列してある商品に迷いなく手を伸ばし、チュニックやらパンツやらを並べていく。

 どれもワンポイントに刺繍が入っている程度のシンプルなものだ。

 メインメニューを起動し、装備品覧を表示させる。と、そこで、店主から待ったがかかった。


「アンタ達がぱぱっと着替えられるのは知ってるけど、それじゃあ風情が無いでしょう。ほら、試着室はそっち」


 そう言いながら背を押され、試着室へと放り込まれてしまった。

 なんとも解せない事ではあるが、まあ、言わんとしている事はわかる。

 で、あれば、折角なのでこちらもマニュアルで着替えようかと思う。ともあれ、狩衣や袴を適当に脱いでしまった日には目も当てられないほど散らかってしまいそうだったので、こちらは装備品覧から操作して外してしまったが。

 何はともあれ着替えが終わり、装備品覧を開いて確認する。



【装備】

武器:初心者用の呪符

頭:無し

胴:若草のチュニック

脚:若草のパンツ

足:若草のサンダル

装飾品:無し



 詳細を確認すると、いずれも製作者の部分にカトレアの名前が刻まれ、防御力も以前までの装備と比べると段違いである。

 不満があるとするならば、好みだった和風テイストが薄れてしまった事ぐらいだろうか。

 まあ、そこは最悪、普段使いと分けて着ていけばいいだろう。

 とはいえボクもずぼらなところがあるから、どうせそのうち面倒になってしまうのだろうけれど。

 試着室から出てきたボクの姿を見ると、カトレアは満足げに一度頷いてみせた。


「似合ってるじゃない。まあ、わかってたけどね。はい、全部で4,200Gね」


 予算ギリギリまでぶち込んでくる辺り、なんとも強かである。まあ、構わないが。

 ちゃりん、と音がして、所持金が一気に300Gまで減少する。

 心なしか、袖も軽くなった気がする。

 まあ、今着ている服に物を入れられるような袖など着いてはいないのだが。

 二、三度生地を触ってみて、漏らす。


「これは、とても良いですね」


「当然よ、誰が仕立てたと思ってるの。値段以上の価値はあるわよ」


 自信たっぷりに腕を組むその姿に、ふっと笑みが漏れる。

 想定していたより大きな買い物にはなったが、結果的には満足である。

 この店とも長い付き合いになりそうな、そんな予感があった。


「それじゃあ、そろそろお暇させて頂きます」


「はいはい、またのご利用をお待ちしてるわ」


 カウンターからひらひらと手を振る彼女に礼をして、また路地裏へ。

 今朝まで着ていた物が物だっただけに、随分と身体が軽くなった気がする。

 これならば、今まで以上に戦闘も楽になるだろう。

 さて、とメインメニューを起動する。【衰弱】の効果時間は残り七分になっていた。

 これならば、適当に冒険者ギルドでクエストボードでも覗いていれば程よく時間も潰せるだろう。

 そう思い立てば、いざ冒険者ギルドである。

 大賑わいの大通りを歩みながら、目的地へと向かう。耳に届くのは、プレイヤーやNPC達の声。

 あのクエストは美味しかった、不味かった。あの敵はこうで、この攻撃には気を付けろ。こないだ見かけたプレイヤーなんだが、これがまた。寄ってらっしゃい見てらっしゃい。

 そんな喧騒をBGMにして歩いていれば、冒険者ギルドにはすぐ着いた。

 スイングドアを押して中に入れば、丁度ピークなのか、中は昨日とは比べ物にならないほど賑わっていた。余りの熱気に、そのまま退散しようかと思ったほどである。

 しかしこうして見ると、本当に多種多様である。

 人間族、小人族、エルフ、ドワーフ、ワーキャット、ワーウルフ、翼のような腕を持つハーピー族、一見モンスターのような外見をしている彼は、リザードマンだろうか。

 それらが一か所に集まり、ひしめき合っている光景は、なかなかに混沌としていた。


「あ、昨日の妖狐族の人!」


 と、そんな闇鍋の中から、自分呼ぶ声がする。

 よいしょよいしょと、大柄なリザードマンを押しのけて出てきたのは、昨日草原で見たあの少女だった。その背後にはワーウルフと人間族の少年の姿もあり、こちらが会釈すると、少し困った様子で頭を下げた。

 

「おい、モミジ、いきなり失礼だろ。すみません、コイツちょっとアレなんで……」


「むー、アレとはなんだアレとは!」


 人間族の少年が申し訳なさそうにそう言うと、モミジと呼ばれた少女は頬をぷっくりと膨らませて少年を睨み付けた。

 溜息が一つ。

 

「お前は黙ってろ、話がややこしくなる」


 びしり、と少女の頭に手刀を落としたのは、ワーウルフの男性であった。

 声色から察するに、年齢は少女と同じぐらいだろうか。

 きゃん、と声を上げ、頭頂部を押さえながら蹲った少女を見て、やれやれと彼は頭を振った。

 近くで見れば、ますます狼そのものである。ぎらりと鋭い眼光に、逞しい体躯。鋭い爪。

 装備も軽装であるし、昨夜の戦闘を見る限り、職業は拳闘士(グラップラー)だろう。

 

「俺はコタロウ。スンマセン、ツレが迷惑かけて。コイツ、いっつもこんな感じなんスよ」


「いや、構わないよ。こちらこそ、昨日はありがとう」


 あの時かけてもらった支援魔法(バフ)のおかげで、あの後のレベリングはかなりスムーズに行う事が出来た。

 涙目になりうずくまる彼女に軽く頭を下げると、よく日に焼けた少女はまるで弾かれた様に立ち上がると、僅かに頬を朱に染めながら、顔の前で勢いよく両手を振った。


「そ、そんな、お礼を言われるような事じゃないですよ!」


「そうそう、どうせ何も考えずにやってるんスから、コイツに頭を下げるだけ損ッスよ」


 溜息交じりにそう続けるワーウルフの少年の向う脛を、眉間に皺を寄せた少女が蹴り上げる。しかし少年は毛ほども痛がる様子を見せず、地団太を踏む少女の頭をぐりぐりと撫でまわしていた。

 まるで猫のような声で威嚇する少女を剣士風の少年が嗜め、ワーウルフの少年がふんと鼻を鳴らす。

 見たところ随分と気心が知れた間柄の様だが、リアルの方でも友人同士だったりするのだろうか。


「ところで、ボクに何か用かな?」


 どこか微笑ましいそんな光景を眺めながらボクが言うと、剣士風の少年がはっとして、少女に声をかけた。


「すみません、騒がしくしてしまって。ほらモミジ、この人に話があるんだろう?」


 少年に背を押され、少女がたたらを踏みながらボクの前に出る。そうして大きな瞳を左右へ行ったり来たりさせると、意を決したようにこちらを見上げ、言った。


「あの、今からパーティどうですか!?」


 大勢のプレイヤーたちがひしめく冒険者ギルドの中に、少女の声が響く。

 余りに大きな声に、何事かとこちらを見やる数人のプレイヤーたちの視線を感じながら、ボクはなんとも初々しい少女の姿に、ふっと笑みを漏らすのだった。

やっと他のプレイヤーを出せました。

脳内のイメージをうまく書き出すって難しいですね。


2018/08/13 一部修正

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