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お稲荷様ののんびりVRMMO日和  作者: 野良野兎
WAVE-IV たまにはこんな時間を
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お稲荷様とメイドさん

大変お待たせ致しました。

言い訳は活動報告にて。

台風、地震と大変な災害が続いておりますが、皆様も体調にはくれぐれもお気を付け下さい。

今回は少し短めです。


「それでは、こちらでしばらくお待ちください」


 王都フィーア。大瀑布に囲まれ、断崖絶壁を背後にして悠々と佇むグロリオサ城の一室。

 カグヤ姫からの親書を渡した後、ボクをここまで案内した女性はそう告げて小さく頭を下げ、扉を閉める。クラシカルなメイド服のフリルがふわりと揺れ、ドアの奥へと消えていくのを見届けた後、ボクは部屋の中をぐるりと見回した。

 真っ白な壁。壁面中央には暖炉が備え付けられ、天井からはいかにも高級そうなシャンデリアが下がっている。中央には小さな丸いテーブルが佇み、鋲が打たれたアンティーク調の赤い椅子が、それをぐるりと囲んでいた。

 壁にかけられているのは、王族の肖像画だろうか。

 王冠を被り、腰に手を添えた背の高い男性に、椅子に座った美女。そして、その二人の間に立ち、柔らかく微笑む幼い少女の姿。

 王冠の男性はフンダート国王、美女はその妻であり、今は亡き女王陛下だろう。となると、真ん中の少女は幼い日のカメリア王女か。幼いながらも、その貌にはすでに王家の人間足りえる気品が伺える。

 豪華絢爛な衣装に身を包み、肖像画でありながら、どこか人心を惹きつける不思議な魅力を放つそれを見上げていると、背後から扉が開く音が響いた。


「お待たせ致しました。お茶を用意しましたので、どうぞ掛けてお待ち下さいませ」


 振り向くと、そこには先程の女性と同じような、白いメイド服を着た少女がふんわりと微笑みながら立っていた。手にしたトレーには茶器一式が置かれ、花の模様があしらわれた陶器製のティーポットの先からは、うっすらと湯気が立ち昇っている。

 どうやら、王女様が到着するまでの間、この少女がボクの相手をしてくれるようだ。


「ああ、お気遣い感謝します。では、お言葉に甘えて」


 用意した茶器を手際よく丸テーブルに広げていく少女にそう返し、ほのかに紅茶の香りが広がり始めた席に腰を下ろす。

 そうして手持無沙汰に七本の尻尾をゆらゆらさせながら、何の気なしにボクは少女の方へと目をやった。

 ボクが言うのもなんだが、可愛らしい、美しい少女である。

 雪のような白い肌に、大きな青い瞳はまるで雲一つない青空のようで、後頭部で編み込むようにして纏められた金の髪が、日の光を受けてきらきらと輝いている。

 しかし、なぜだろうか。その端正な顔立ちに僅かな既視感を感じ、ボクは首を首を傾げた。

 いや、それよりも目を引くのは、その胸元である。


「メロン……いや、スイカでも仕込んでるのかな」


「はい、お待たせ致しました。焼き菓子も用意しましたので、こちらも宜しければ召し上がって下さいませね」


 二つのスイカ、それも大玉のものをゆっさゆっさとさせながら、紅茶が淹れられたティーカップを差し出す少女にボクは誤魔化すように咳ばらいを一つし、短く礼を言う。

 いや、別に現実での己のそれに不満がある訳でも、コンプレックスを抱いているということもないのだけれど、あそこまで反則級だと興味も沸こうというものだ。それは勿論、同性であっても。

 メイド服の上からではあるが、二の腕や腰はきゅっと引き締まっているし、なんだろうか、本来あるべき贅肉やらなんやらの余分なものを、ぎゅっとあそこに集めたような、そんな感じだ。

 なんというか、下世話な話にはなるが、肩こりだとか下着のサイズだとか、色々と大変そうだなあ。

 

 ともあれ、今は紅茶と焼き菓子である。折角用意してもらったのだから、冷めないうちに頂くとしよう。

 心中から煩悩を追い出すように、ボクはティーカップをつまみ、口へと運ぶ。

 ふわりと鼻先をくすぐる香りはダージリンに近いが、味自体は渋みが少なく、ほんのりと甘い。

 

「美味しい。紅茶には余り詳しくないのだけれど、これは良い物ですね」


「王国の特産品でもある、フンダートティーの春摘み(ファーストフラッシュ)です。焼き菓子と良く合うんですよ。妖狐族の方に振る舞ったのは初めてだったのですが、お口に合ったようでよかったです」

 

 ぱちんと手を合わせ、少女が笑う。

 しかし、もうすっかり寛いでしまっているのだが、いまだ王女様が現れる気配はない。

 まあ、ただでさえここの王女様は聖女と呼ばれ、頻繁に王都にある教会や孤児院へ顔を出していると聞く。来訪者(プレイヤー)とはいえ、一介の冒険者に過ぎない人間にそんな貴重な時間を割いて貰える分、ありがたいと思わなくてはならないのだろう。

 

「そういえば、狐様は此度はどのようなご用件でここへ?」


 僅かに首を傾げ、少女の頭に乗っかったヘッドドレスが揺れる。

 さて、今回は他でもない、先日カグヤ姫から依頼された品物の件でカメリア姫を訪ねてきたのだが、ただの侍女らしき少女にその事をぺらぺらと喋ってしまっていいものか。

 顎に指を添え、しばらく思考を巡らせた後、ボクは少しばかりぼかして話をする事にした。


「ええ、実はある品物について、カメリア姫にお尋ねしたい事がありまして」


 言って、また紅茶を一口。すると少女は頬に指を当て、その目尻をほんの少し下げながら、唸るような声を漏らす。

 

「うーん、それってもしかして、ヨトゥン雪原で見つけたあれの事かしら。申し訳ありません、先にカグヤちゃんからのお手紙に目を通しておくべきでしたね」 


 焼き菓子に伸ばしていた指が、ぴたりと止まる。

 あらあらまあまあと可愛らしく困ったように笑う少女を改めて見やり、ボクはほんの少し前に感じた既視感の正体に、ようやく気が付く事が出来た。

 いや、しかし、まさかそんな――。

 唖然とするボクを見て、小首を傾げる少女。その向こうで、勢いよく扉が開け放たれた。

 現れたのは、ボクをここまで案内してくれた、あの女性であった。


「姫様、また勝手にお部屋からいなくなって、危うく近衛兵全員で城中を探し回るところでしたよ! ああ、またそんな、侍女みたいな物をお召しになって! カグヤ様からのお手紙もお預かりしておりますので、さあ、こちらでお召し替えをなさって下さい!」


 顔を真っ赤にし、心なしか熱気で丸眼鏡のレンズを曇らせながら、半ば叫ぶような声であった。

 しかしそうしてめいっぱい叱られている筈の当の本人は、小首を傾げたままきょとんと目を丸くして何度か(しばたた)かせた後、ふわりと柔らかく微笑んだ。ボクは頭を抱えた。


「あらマリア、丁度今、こちらの狐様とお茶をしていたところなの。殿方にお茶を淹れる時は、これ(メイド服)が一番適した服装だと聞いたのだけれど、もしかして違っていたかしら?」


「タマモ様は、女性でございます! そのような着物姿の殿方など、いるはずがないでしょう!」


「あら? あらあら、まあまあ、ごめんなさい私ったら、ずっとお顔ばかり見ていたものだから。 タマモ様、で宜しかったですか? 素敵なお召し物ですね、カグヤちゃんもよく似たものを着ていたけれど、ジパングの着物は本当に美しいわ」


「お・召・し・替・え、を! 申し訳ありませんタマモ様、しばらくお時間を下さいませ」


 マリアと呼ばれた女性に首根っこを捕まれ、ずるずると退室していく少女――カメリア姫はそれでも微笑みを絶やさず、小さくこちらに手まで振って見せた。


「マリア、私はこの服のままでいいのだけれど。 いつものドレスは胸も腰も窮屈で、動き難い事この上ないのよ? そうだわ、せっかくだから、タマモ様も一着いかがかしら? 実はこの服、良い素材を使っているので肌触りがとても良いの」


「姫様、いい加減その世間知らずなお口にチャックをなさって下さい」


 あらあら、困ったわあ。

 カメリア姫のその言葉を最後に、ぱたりと、静かに扉が閉じる。

 残ったのは、なんとも言えぬ微妙な空気と、静寂。鼻先をくすぐる紅茶の芳香。

 ばたばたと足音が去っていくのを確認し、ボクは大きくため息を吐いた。

 ぎしりと、椅子の背もたれが音を立てる。


「なるほど、たしかにカグヤ姫とは別種のお転婆娘だ」


 カグヤ姫はどちらかといえば、意図して場を乱すタイプの性質をしているが、カメリア姫は完全に無自覚のまま周囲を振り回すタイプなのだろう。正直に言って、行動が予測できない分、カグヤ姫より厄介だ。

 ちらりと、背後を見やる。そこには先程まで眺めていた、王族たちの肖像画があった。

 その真ん中で微笑む少女を見て、思わず苦笑いが漏れる。

 たしかに、面影はある。しかし、まさかこの純粋無垢を絵に描いたような少女が、まさか身分も明かさずメイド服を着こみ、茶器片手にやってくるなど、誰が予想できるだろうか。

 もう一度、溜息。その音は、しんと静まり返った部屋の中に染み入るように響く。

 

 結局、カメリア姫が肖像画とよく似た髪型と服装をして現れたのは、それから十分程後の事であった。 

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