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お稲荷様ののんびりVRMMO日和  作者: 野良野兎
WAVE-III そして至る道
60/103

お稲荷様とホットケーキ

少し短めです。


 パンケーキとホットケーキの違いは何か。

 そんな質問を受けたことがあるが、実際のところは全く同じものだ。

 海外では殆どがパンケーキとして呼ばれており、ホットケーキでは通じない場合が多い。

 かといって和製英語というわけでもなく、sell like (飛ぶように) hotcakes(売れる)、なんていう言葉があるように、ちゃんとした英語である。

 ちなみにその歴史は古く、古代エジプトでは神への捧げ物として作られていたという。

 

 とまあ、そんなうんちくを垂れ流しつつ、ボクは空を舞う丸いホットケーキをキャッチする。

 このゲームの生産であるが、基本的には必要な素材を選択するだけで作成することが出来るようになっている。そうでなければ、人によって難易度が段違いに高くなってしまうからだ。

 尤も、プレイヤーが介入できる要素が全く無い訳ではなく、それぞれ最終的な加工の段階、料理であれば焼く、煮る、炒めるといった部分は手動で行なう事が出来る。


 これらは任意で選択でき、手動で行った方がより品質の高いアイテムを作成し易くなっている。

 自動で行った場合であっても、元々の素材が高品質であれば良いアイテムが作成できるのだがその確率はまちまちの為、効率を重視するプレイヤーは手動で仕上げを行う事が殆どだ。

  

 皿に乗せたホットケーキにバターを乗せ、蜂蜜は別途用意したミルクピッチャーに移す。

 土間のかまどでホットケーキを焼くというのも何だか不思議な感じだが、上手く出来て一安心である。

 甘い香りを漂わせるホットケーキをトレーに乗せて居間へと向かうと、そこには両翼にナイフとフォークを握り、もう待ちきれないといった表情を浮かべたつくねの姿があった。

 翼でどうやって食器を握っているのかと疑問に思うだろうが、どうやら鳥でいう第一指、まあ人間の親指のようなものなのだが、この部分だけが独立して動かせるようになっており、簡単な掴む動作などはそこを動かして行う事が出来る様だ。

 とはいえ、どちらかといえば掴むというよりは挟み込むといった方が近く、掴める物には限りがあるようだが。


「わーい、ホットケーキだー!」


「蜂蜜はどれぐらいかける?」


「いっぱいー!」


 好物を前にはしゃぐその姿は本当に幼い子どものようで、ボクは思わず笑ってしまいそうになるのを堪えながら、ホットケーキに蜂蜜を回しかけていく。

 バターを溶かし、とろりと流れる黄金の蜜を見つめるつくねの瞳はまるで星空のように輝き、その口元からはたらりと涎が一筋。


「本当にホットケーキが好きなんだねえ。 それじゃあ、どうぞ召し上がれ」


「いただきまーす!」


 待ってましたとばかりにつくねはナイフとフォークを構えると、それらを器用に使ってホットケーキを切り分けていく。

 そうして四等分にしたホットケーキにフォークを突き立てると、大きく開かれた口にそれを放り込んだ。もきゅもきゅと咀嚼し、蕩けるよな笑みを浮かべる。

 なんというかもう、本当に雛鳥のようである。

 このゲーム、一応十五才以下はやっちゃいけない規約になっているのだけれど、本当にこの子はその条件を満たしているのだろうか。

 言動を見る限り、小学生ぐらいにしか思えないのだけれど。

 少なくとも、自分と同世代だとはとても見えない。

 そうして眺めているボクの視線に気づいたのか、つくねはフォークを口に咥えたままで、こてんと首を傾げてみせた。 


ほぅひたの(どうしたの)?」


「いや、なんでもないよ。 ジュースも作ってあるから、遠慮せずにどうぞ」


 いや、やめよう。純粋な彼女の顔を見て、ボクは思考を打ち切った。

 リアルの事を詮索するなんて、無粋もいいところだ。 

 ボクはあらかじめ作っておいたジュースを所持品欄から取り出すと、幸せそうな顔でホットケーキを食べるつくねの前に差し出した。

 かなり蜂蜜をかけるであろうと予想して、スイカを使ったさっぱりとした物を用意していたのだが、どうやら正解だったようだ。

 

 さて、それじゃあ次は餡蜜でも作ってみようか。

 割烹着の腰紐を締め直すと、ボクは再び土間へと戻る。

 ああ、言い忘れていたが、料理をする際は調理師に職業を変更しているので、当然装備もそれに則した物へと変わっている。

 故に、今のボクは真っ白な割烹着に三角巾姿なのだが、なんと割烹着には尻尾カバーがセットで着いているのだ。

 まあ、尻尾の毛が舞わないように、という設定でそうなっているのだろうけれど、これがまた面白いデザインで、狐の尻尾を模したプリントが施されている。

 テンプレートな先が白くなったきつね色のもので、過去にはこれを見たモミジが顔を真っ赤にして身悶える、なんて一幕があったりなかったり。

 こればっかりは、モミジの気持ちもわかる気がする。いや、これは可愛い。


 さてさて、頭を切り替えて餡蜜作りである。

 本来であれば寒天を水で戻して煮たりとか、白玉粉を捏ねたりだとか、色々と準備が必要なのだが、調理師のスキル【下準備】を使えばあら不思議、材料の指定をするだけで各種材料の出来上がりである。

 まあ、流石にあとは盛り付けるだけとはいかず、寒天を切ったりだとか、白玉を茹でたりするところは手動で進めていくのだが、それでもかなりの手間を省くことが出来る。

 寒天は賽の目状に切り分け、白玉は小さく丸め、指で軽く潰してお湯の中へ。

 茹でている間にイチゴ、キウイを切り分け、茹で上がった白玉を氷水で冷やす。

 あとはそれぞれを容器に盛り付け、上から作り置きしていた餡子、白蜜をかけて出来上がりである。

 

「おー、次はなにを作ってるのー?」


 と、そうしたところでボクの脇からにょっと顔を出したのは、先程まで居間でホットケーキを食べていたつくねであった。

 結構な量を食べたばかりだというのに、その目は新たな獲物を見つけたとばかりに爛々と輝き、何を言わんとしているかを雄弁に物語っている。

 ガラス玉のような大きな瞳と見つめ合う事数秒。


「えーっと、食べるかい?」


「食べるー!」


 間髪入れない、まさしく即答であった。

 いや、まだ材料は残っているし、これはあくまで試作品であるから問題はないのだけれど。

 そんなこんなで、とりあえず同じ物を二人分作成したのち、ようやく居間で一息つく事となった。

 職業、装備も変更し、今は着慣れた陰陽師用の着物に袖を通している。

 ちゃぶ台の上には餡蜜が二つ。

 硝子の容器に飾り付けられたそれはまるで宝石のように輝き、果実の甘い香りが鼻先をくすぐる。

 うむ、我ながら中々の出来栄えである。


「おー、美味しそうー」


「リアルでは何度か作ってるんだけど、こっちでは初めてだから味の保証はしないよ?」


 とは言っても失敗していた場合は焦げたり煙をあげたり、場合によって爆発したりするので、最低限食べられるようにはなっているとは思うのだが。

 とりあえず白玉を一つ掬い上げて口に入れると、もちもちとした食感に続き、爽やかな甘さが口内に広がった。

 ふむ、これはなかなか。


「んー、美味しー!」


 同じように一口含んだつくねが満面の笑みを浮かべ、緑の翼をはためかせた。

 次はイチゴ。こちらは甘さの中にほど良い酸味を含み、白蜜の甘さをより引き立てている。

 さっぱりしているし、喉ごしも滑らか。これなら暑い夏場でも食べやすい。

 作成時の経験値もそれなりだし、またモミジたちにもご馳走してみようかな。


 そうして甘味に舌鼓を打ちながら、夏の穏やかな時間は流れていく。

 心躍る冒険や、手に汗握る強敵との戦闘も良いものだが、やはりこういった穏やかな時間も捨てがたい。

 ゆらりゆらりと尻尾を揺らしつつ、そんな事を考える。

 窓辺に下がった風鈴が、風と共に涼やかな音を奏でていた。

 

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