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お稲荷様ののんびりVRMMO日和  作者: 野良野兎
WAVE-III そして至る道
56/103

お稲荷様と墓荒らし

あとがきにて、現在のステータス表記があります。

2018/06/18

本文の一部を修正致しました。


 薄暗い洞窟の中に、かつんかつんと足音が木霊する。

 ボクとつくね、そして最後尾に後鬼が続き、入り口付近で拝借した松明をかざせば、剥き出しになった岩盤に三人分の影が浮かび上がった。

 どうやらこの洞窟は王家の谷の地下へと伸びているようで、僅かに傾斜のついた細長い道をボクたちは奥へ奥へと進んでいく。

 閉鎖的で圧迫感のある洞窟の中。一人だけであれば多少なりとも不安感を煽られそうなこの場所において、ボクの心は不思議と穏やかであった。

 それは、ボクの三歩程後ろをちょこちょこと付いてくるハーピー族の少女、つくねの性格に因るところが大きい。

 というのも、彼女は実に自由奔放かつポジティブな性格をしており、無邪気な笑顔を浮かべながらぱたぱたと両翼を振るその姿に、洞窟内の陰鬱とした雰囲気など吹き飛んでしまったのである。

 

「へえー、じゃあやっぱり、タマモがあの噂のお稲荷様なんだねー」


「またそれか。そんな呼び方をされるほど、ボクは偉い人間ではないのだけれど」


 聞くところによると、サーバー内で初めて陰陽師になったのがボクだったりだとか、クズノハさんと親密にしていたりだとか、その辺りが原因であるらしい。

 そしてこれは完全にとばっちりだと思うのだが、最近ではかの大型クラン“暁の騎士団”の団長に一目置かれている、なんて噂が広がっているらしく、一部プレイヤーの間では随分と話題になっているのだとか。

 実にはた迷惑な話ではあるが、自身の名が広く知られる事に僅かながらも快感を覚えている、どうしようもないネトゲプレイヤーとしての自分がいる事に、ボクは内心溜息を吐いた。


「でもそれを言うのなら、つくねだって相当な有名人だろう?」


 何せ彼女はハーピー族の中で初めて飛行スキルを発見、使用したプレイヤーである。

 サービス開始当初から、ハーピー族のプレイヤーたちが血眼になって探し求めていたスキルなだけあって、件の公式イベント以降、彼女もまた、サーバー内ではそれなりに名の知れた人物になっていた。

 これが単純な称賛や、ボクのようにからかい半分で広まったものならばまだマシなのだが、往々にしてネトゲプレイヤーは非常に嫉妬深い。

 レアアイテム一つ手に入れただけで外部掲示板で謂れのない誹謗中傷を受けたりだとか、仲の良いパーティが解散する事になったりだとか、なまじ相手と生身で向き合わない分、人間の汚い部分が表面に現れやすいのかもしれないが。

 ともかく、つくねとこうして話してみて、彼女もそう言った被害に遭わなかったか心配になってしまったのだが、どうやらそれは杞憂であったらしい。

 ボクが単刀直入に尋ねてみると、彼女はその笑顔に一切の陰りを見せずに首を振った。


「いやー、それがハーピー族のプレイヤーってそんなに多くないし、皆良い人だったみたいで、そんなに騒ぎになったりとかはなかったんだよねー」


 まあ、確かにハーピー族を使用するプレイヤーは少ない。

 ちなみに全種族で一番使用人口が多いのはワーキャットで、少ないのはゴブリンである。 妖狐族はワーキャット、魔族についでの第三位で、その下にワーラビットが続く。

 種族としての性能が尖っていたり、可愛らしいアバターが作成しやすい種族であれば人口が多い傾向にある。

 その点でいけばハーピー族も中々魅力的な特徴を持っているかと思われるのだが、どうにも脚部のカギ爪をはじめとした、猛禽類を思わせる外見が原因なのか、その人口はワースト四位。

 その下にリザードマン、オーク、ゴブリンが続くことを考えれば、どれだけハーピー族を選ぶプレイヤーが少ないかがよくわかる。

 故に、街中ならばともかく、こうしてダンジョン内で偶然顔を合わせるのは珍しい種族であり、つくねの場合は、その人口の少なさに救われたとも言えるだろう。

 尤も、その人懐っこいまっすぐな性格からして、彼女をやっかむ事が出来る人間なんてそうそういないように思われるが。


 跳ねるような彼女の姿を眺めながらそんな事を考えていると、やがてボクたちは大きく開けたドーム状の空間へと辿り着いた。

 野球のスタジアム程はある広場の壁沿いにずうっと松明が並び、その中央には巨大な石造りの建築物が一つ、ぽつんと佇んでいる。

 松明の火に照らされて浮き上がったその威容を見やり、ボクは思わず頭を抱えた。


「おおー、当たりだねー……どうしたのー、タマモ?」


「いや、なんでもない、ああ、なんでもないさ」


 ここがかつての王たちが眠る、墓荒らしが狙っている王墓だなんて、これは何の冗談だろうか。

 黄金色をした、三角形の建物。

 誰もが知る巨大な王墓、ピラミッドによく似たそれを見て、これが女王の話していた王墓なのだと、

疑う者はそういないだろう。

 だが、注目すべきはその土台である。

 ピラミッドとは土台部分が四角形――クフ王のピラミッドは八角形だったりするのだが――になった、所謂四角錘と呼ばれる形の物が殆どであるが、これはなんと六角錐のピラミッドなのだ。

 そして形状としては、古代エジプトのものよりも、かのマヤ文明のものに近い。

 特徴としてはその頂上、古代エジプトが綺麗な三角形になっているのに対し、マヤ文明のピラミッドは頂点が平らで、神殿が置かれている場合が多い。

 しかしこの、目の前に佇むピラミッドには神殿が無く、見たこともない文字のようなものが刻まれた、台座のようなものだけが置かれているように見える。

 

 そう、“六角形の台座”なのだ。

 

 ボクの額に、冷たい汗が浮かぶ。

 なんの前振りも無ければ、ここをただの王墓だと断じれただろう。

 しかし、ボクたちがこの国を訪れた時、いったい“ナニを”通ってきたのか、よく思い出してほしい。

 ボクの記憶が確かであれば、案内人であるボスモンスターを倒し、第一の門をくぐってきたのではなかったか。

 そして、これが神話の通りであれば、第一の門をくぐった後、“窮極の門”へと導く存在。

 それこそが、六角形の台座にて、輝く球体にて身体を揺らし眠る異形のもの。


 ここまで言えば察していただけるだろう。

 あくまでボクの勘ではあるが、恐らくはこのピラミッドの頂上に、その異形のものが眠っているのではないだろうか。

 流石に、現段階で“次の段階”へと至れる可能性は低いだろうが、まさしく触らぬ神に祟りなし、である。厄介な事になる前に、さっさと来た道を引き返すのが吉であろう。


「ぐあっ!」


 と、その時である。

 ぎぎっと唸り声がしたかと思えば、ボクたちの背後で何者かの声が響く。

 はっとしてそちらの方へ振り向けば、そこには短剣を握り、胸に切り傷を付けた男が蒼い顔をして膝を着いていた。

 どうやら背後を警戒していた後鬼に攻撃されたようだが、明らかに堅気の人間には見えないし、もしかして墓荒らしの一人なのだろうか。


「やれやれ、ようやく当たりだと思ったら、よりにもよって来訪者とはな。あのアバズレ女王が、厄介な連中を差し向けてくれやがる」


 低い、獣の様な声。

 蹲る男の背後、ボクたちが進んできた暗闇の中から現れたのは、大柄な人間族の男であった。

 見たところ四十代、岩のような顔には大きな刺青が入り、腰巻一枚だけを身に着け、筋骨隆々の逞しい身体を惜しげもなくさらけ出している。

 男は丸く剃り上げられた頭をがりがりと掻き毟り、腰に差したタルワールを引き抜いた。

 それを合図に、男の背後からぞろぞろと同じような格好をした、手下らしい者達が現れる。


「おや、件の盗賊は逃げ足だけは早いと女王様から聞いていたのだけれど」


 ステレオタイプの、如何にもならず者らしい身なりをしているものだから、早々に逃げの一手を打ってくるものだと身構えていただけに、なにやら肩透かしを食らった気分である。

 ボクがそう言うと、男は苛立ちを隠そうともせずに地へ唾を吐き捨てると、手下の者達を怒鳴りつけた。


「獣野郎が生意気な口を利きやがる……。野郎共ォ、気合入れろや! 来訪者とはいえ相手は二人だ、囲んで身ぐるみ剥いじまいなァ!」


 野郎ではなく、二人とも女であるし、後鬼を入れると二人ではなく二人と一体になるのだけれど、まあそれは置いておこう。

 それぞれ手に短剣や弓を握った男たちがぐるりとボクたちを囲み、野犬のように吠えたてる。

 数は親分も入れて六。

 タンク職がいない今の構成であれば、少しばかり厳しい戦いになるかもしれない。

 

――まあ、折角譲り受けたものであるし、早速使ってみるとしようか。

 

 バフをかけ終わった後、懐に手を入れ、取り出したるは一枚の呪符。

 刻まれた文字は騰蛇(とうだ)

 ジパング城でセイメイから受け取った、十二天将の札である。


「つくねは近付いてくる敵の相手を。遠隔攻撃をしてくる連中はボクが片づけよう」


「まっかせてー! いっちょいいとこ見せちゃうよー!」


 鼻息も荒く、つくねがひと際力強く地面を踏みつければ、膝から足首辺りまでを覆っていたグリーブが音を立ててその形を変えた。膝を覆っていた部分からは鋭い刃が伸び、足首部分は彼女の爪先までも覆い、より鋭く、力強い白銀の爪と変える。

 初めて目にするギミック付きの装備に、ボクは思わず声を漏らした。


「へえ、面白い装備だね。プレイヤーメイド?」


「そーだよー。私、まだ迷宮の装備は取れてないんだけど、これも結構使い易いんだー」


 がちゃりとグリーブを鳴らし、つくねが片足で地面を一度引っかいてみせると、綺麗な裂け目が三つ出来上がった。

 お気に入りの品だけあって、それなりの破壊力を秘めているようだ。これは中々心強い。

 ふすーとドヤ顔を決める彼女の姿にふっと笑い、後鬼を札に戻す。そしてそれと入れ替わる形で、ボクは騰蛇の札を投げ放った。札を中心に六芒星が浮かび上がり、梵字がその周りをぐるりと囲む。

 これは、今までの式神召喚では発生しなかったエフェクトである。

 おお、とつくねの驚く声。 

 そうして札が一層激しく輝きを放ち、薄暗い洞窟内を真っ白に染め上げていく。

 光が収まった時、そこには一匹の大蛇の姿があった。

 大人一人を軽々と丸呑みに出来そうなほどの巨体を紅蓮の炎が包み、三対六つの瞳がぎらぎらと赤い光を放っている。

 突然出現した大蛇に盗賊たちが怯み、言葉を失う。

 だが、そんな中でただ一人、それに動じていない人物があった。


「おおー、なんか凄いの出たー!」


 ボクの隣でそんな風に黄色い声をあげ、丸太のような騰蛇の胴へ飛びかかっていったのは、言わずもがな、つくねである。

 

「おー、なんかひんやりしてるー!」


 ボクが咄嗟にそのチューブトップの背中側を引っ張れば、彼女はぐえ、と蛙が潰れたような声をあげた。


「つくね、流石にちょっと空気を読もうか」


「えー、だってー」


 だってもへちまもありません。

 溜息を一つ、改めて騰蛇を見上げれば、彼――もしかすれば彼女かもしれないが――はその口先から長い舌をちろちろと覗かせながら呻き声をあげると、まるでこちらの命令を待つかのようにボクの前にその大きな頭を垂れた。

 よかった。暴れ馬――実際には暴れ蛇なのだが――とは聞いていたけれど、きちんとこちらの言う事には従うようである。

 では、仕切り直すとしよう。

 五芒星が描かれた扇を手に、ボクはその切っ先を墓荒らしたちに向ける。


「じゃあ、まあ、とりあえず、誅滅せよ」


 さてさて、早々に終わらせて、この物騒な場所から退散するとしよう。


 主人の命に従い、炎を纏う大蛇はその巨大な牙を剥き出しにして、未だ呆気にとられたままの盗賊たちへと飛びかかった。

プレイヤー名:タマモ

種族:妖狐族 Lv70

職業:陰陽師 Lv70

   剣士 Lv20


【装備】

武器:五芒星の妖扇

頭:妖狐族の(かんざし)

胴:妖狐妃(ようこひ)の打掛

脚:妖狐妃(ようこひ)の袴

足:赤足の浅沓

装飾品:夜雀の耳飾り


【スキル】

初級妖術【狐火】

初級妖術【鎌鼬】

初級妖術【塗壁】

初級妖術【水虎】

中級妖術【雷獣】

中級妖術【煙々羅】

上級妖術【禍獣(かも)

上級妖術【土蜘蛛】

呪術【九字護身法】

呪術【禹歩】

占術【六壬神課】

祓いの儀

式神召喚【前鬼】

式神召喚【後鬼】

式神召喚【騰蛇】

言霊【縛】


知力上昇(中)

妖術威力上昇(中)


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