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お稲荷様ののんびりVRMMO日和  作者: 野良野兎
WAVE-III そして至る道
52/103

お稲荷様と赤い砂漠

今更のご報告となりますが、順次改稿作業も進めております。

改稿を終えたものに関しては、後書き内に記載させて頂きます。


 目を開けば、どうやら転移した先は洞窟の中らしかった。

 開けたドーム状の空間には幾つも松明が置かれ、少し離れた所には出入り口らしき木製の扉も見える。

 振り向いてみればあの白銀の門の姿は無く、代わりに【来訪者の石碑】がひっそりと佇んでいた。

 

「お待たせ。先程ぶりだね」


「はは、まああれから一分も経ってないけどね。モミジたちは先に外の様子を見に行ったよ」


 ボクの到着を待っていたハヤトたちに手を振って応える。

 彼の後ろではボクと同じく無事に転移を終えたムギさんが、革製の水筒を手に一息ついているところだった。 ハヤトの言葉通り、他のメンバーは外に出ているらしい。

 ひとまず【来訪者の石碑】へ登録を済ませると、ようやくボクたちも洞窟の外へと出る事となった。

 はめ込んだだけの簡素な扉を開けば、強烈な日光が目を焼かんばかりに洞窟内へと差し込み、思わずボクは目を細める。

 真っ白に染まる視界から浮かび上がる様に現れたのは、地平線の向こうまで赤茶色の砂漠が広がる幻想的な光景であった。


 【耐熱のお守り】のおかげで照りつける日差しとは裏腹にさほど暑くは無く、だいたい二十五度から三十度といったところだろうか。実に快適である。


「あ、来た来た」


「タマモー、こっちだにゃー」


 声がする方へと振り向いて見れば、すぐ傍にある砂丘の上に三人の姿はあった。

 いつモンスターが襲い掛かってくるかもわからない新エリアで、なんとも大胆なことである。

 そうして若干の呆れと共に三人の元へと向かうと、どうやらこの砂丘は辺りでも一番大きなものであったらしく、ぐるりと辺り一面を見渡す事が出来た。


「やれやれ。 三人とも、少し迂闊すぎやしないかな?」


「まあいいじゃねえか。見たところ襲ってきそうなモブもいねえし」


「それよりもタマモ、あれ見てあれ!」


 まあ仮にモンスターに襲われて死に戻りしても、登録した【来訪者の石碑】を利用すればそう時間をかけずに戻ってくる事が出来るのだけれど。

 目を輝かせるモミジが指さす方を見れば、その先には砂と同じ色をした建物の群れがあった。 中には青色の丸い屋根を持った物や、巨大な宮殿らしき建物まで見える。


「あれってもしかしなくても、街だよね?」


「どうやらそうみたいだね。あんまり歩かずに済みそうで助かったよ」


 どうやら街は大きなオアシスを中心に広がっているらしく、砂漠の赤と湖の青、そして周囲を囲む木々の緑がなんとも美しいコントラストを生み出していた。

 

「この辺はアクティブのモンスターもいないようだし、今のうちに街まで向かおうか」


 周囲の探索を済ませ砂丘へと戻ってきたハヤトが、件のボスから入手した大剣を背中に納めながら言った。幸いにして街以外には砂丘しか見当たらない場所であるので、徒歩でもそう時間はかからないだろう。


「しかしまあ、なんというか」

 

 そうしてじゃりじゃりと砂を踏み鳴らしながら街への道を進んでいると、不意に前を歩いていたコタロウが振り返り、何とも言えぬ苦い顔をした。


「見てるだけで暑くなる面子だよなあ」


 それ、完全にブーメランだと思うのだけれど。

 目の前の毛玉、もといワーウルフ族に抗議の視線を送りつつそんな事を思う。

 言ったところでせんなきことであるので口には出さないが、気のせいか背後の七尾がいつもより荒々しく振られている気がする。


「えー、それを言うならコタロウも充分暑苦しいよー」


 そんな風に気を使っていたボクの努力を、隣を歩いていたモミジが見事に打ち砕いた。

 なんだろう、心なしか周囲の気温が少し下がった気がする。

 すぐ後ろを歩いていたイナバさんが、慌ててモミジの袖を引いた。


「も、モミジさん、それは言っちゃダメ!」


 イナバさん、見事な自爆である。

 それは、実は自分もそう思っていたけれど言うのを自重していました、という自白に他ならない。

 しかし身内以外の、それも年上に言われたのが効いたのか、コタロウはうっと声を詰まらせるとやがて気まずそうに咳ばらいを一つ、再び街の方へと身体を向けた。

 

 これは好機である。


「まあ、一番暑苦しいのはボクだろうけれどね。 申し訳ないね、毛皮が多くて」


 尻尾を一つ抱えながらそんな事を言ってみれば、面白いようにコタロウの肩が跳ね、冷や汗でも流しそうな表情を浮かべながら横目でこちらの様子を伺ってきた。 

 そんな、まさしく恐る恐るといった彼の様子に、ボクは思わず吹き出してしまう。

 咄嗟に袖で口元を隠しくつくつと笑っていると、どうやらからかわれていた事に気が付いたようで、コタロウは大きくため息を吐き、肩を落とした。


「もう勘弁してくれよ。タマモの冗談は冗談に聞こえねえんだって」


「はは、それは申し訳ない。しかし、確かにこの服装でうろうろしていては、街の人に不審がられてしまうかもしれないね」


 まあ来訪者、プレイヤーという時点である程度目立ってはしまうのだが、郷にいては郷に従えともいうし、街に着いたらこの地方に合わせた服装に変えてみるのも一興かもしれない。

 尤も、性能が伴うとは考えにくいので、戦闘時には今の装備に変更しなくてはならないが。

 

「あ、それいいですね。ジャラベーヤとかアバヤとか、私着てみたかったんです」


 どうやらイナバさんは民族衣装に興味があるようである。

 服装の話をしてみれば、彼女はぐっと拳を握って嬉しそうに言った。確か、どちらもアラブの方の民族衣装だったか。

 ジャラベーヤは装飾が施されたロングドレス、アバヤの方はフードが付いたローブのようなデザインの衣装である。


「今のご時世、その気になればVRでヴァーチャル旅行も出来るし、民族衣装なんてネットで注文すればすぐ手に入るだろうに」


 何せゲームの世界にだってダイブ出来る世の中である。

 ヴァーチャル空間内にある、現実とほぼ変わらない精度で作られた観光地に自宅から遊びに行くなんて事も、今ではデバイス一つで可能なのだ。勿論サービス利用料は払わなければならないし、本来人が立ち入れない場所や、防犯上撮影禁止になっている場所などは流石に見る事は出来ないが。

 

「まあそれもいいんですけどね。でもやっぱり、このゲームで、この世界で皆と一緒に楽しみたいじゃないですか」


 まあ、言わんとしている事はわかる。

 リアルでも面識のある人物となら、日程を調整してVRサービスを利用するという手もあるのだが、まさかイナバさんまでご近所さんという事もあるまいし、ゲーム内でリアルの話をするのも憚られる。

 もしそういった機会があれば、程度に考えておこう。


「まあボクは服装以前に、この間受注したクエストの情報を集めないといけないのだけれど」


 和気あいあいと話をする女子組を後ろで長めながら、ぽつりとそんな事を呟く。

 あの日、件のお姫様から承ったクエストの達成。

 それこそが、ボクがあの難敵を打倒してまで新エリアへと足を伸ばした目的であった。


 そのクエストの名前は【カグヤ姫の難題】といって、指定された物品をお姫様へ届けるという、かの有名な竹取物語をなぞった内容のものである。

 恐らくは連続して発生するであろうこのクエストの最初のお題は、【仏の御石の鉢】をもってくるという物。 これはお釈迦様が使っていたとされている品で、天竺にあるといわれている。

 天竺、つまりインドの事なのだが、このゲーム内でそれに類似したエリアはこの砂漠地帯以外にない。

 品物の名前だけ告げて、あとは何のヒントも寄越さないお姫様も中々いい性格をしているものだと思う。この調子だと、残り四つの品々も取ってくるように言われるのだろうなあ。

 

 さてさて、そんな事を考えているうちに、ボクたちは街のすぐ傍までやって来ていた。

 始まりの街アインや王都フィーアのように防壁らしきものは見当たらず、中央の宮殿だけがぐるりと煉瓦造りの壁で囲まれている。

 道行く人々は頭にターバンを巻いていたり、ラクダのようなコブのある動物にまたがっていたりと、やはり文化からしてこれまでの国とは全く異なるようであった。


「さて、それじゃあここで一旦解散かな?」


「まあ、みんな目的も違うし、それでいいんじゃないかな」


「あ、私ちょっと落ちるにゃー」


 街中に設置された【来訪者の石碑】に登録を済ませると、ここからは各々好きなように動く運びとなった。ハヤトたち三人は一度王都へと戻り、ムギは一旦ログアウトするようだ。 イナバさんはこれから色々と露店を見て回るらしい。

 ボクも件のアイテムに関する情報を集めなくてはならないので、ここからはいつも通りぶらぶらと散策させてもらおう。

 別れの言葉と共に方々へ散っていくメンバーへと手を振り、砂と同じ色をした建物の間をのんべんだらりと歩いていく。


 とりあえずの目的地は情報集めのお約束、酒場であろうか。

 

「余り荒っぽい人がいなければいいのだけれど」


 手に入れたばかりの扇で風を送りながら、一人そんな事を呟く。

 じりじりと地を焦がす太陽に照らされながら、一匹の蜥蜴が足元を走り去っていった。

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