お稲荷様と地下迷宮②
お待たせしました。
気が付けば、ボクたちは洞窟の入り口の前で立ち尽くしていた。
どうやらあの男、七将軍インウィディアが何かしらの仕掛けを作動させたらしい。恐らくはワープ装置のようなものだと思われるが、突然現れたボクたちを見て、洞窟前で休憩していたらしいプレイヤーたちが何事かと目を丸くしている。
戦闘にならなかったのは幸運だったが、まさかまともに会話すらできず追い出されてしまうとは思っていなかった。
随分と急いでいたようだが、他のプレイヤーと何かあったのだろうか。
「とりあえずどうしようか。まだダンジョン内にあの二人が残っている可能性は低いと思うけど、もう一度探してみるかい?」
「うーん、いや、ここは他のプレイヤーが戻ってくるのを待った方がいいと思う」
ハヤトが言うには、現在地下迷宮には攻略クラン【暁の騎士団】のパーティも潜っているらしい。
【暁の騎士団】といえば、かつてジパングを開放する為に挑んだボスバトルで共に戦った大型クランであり、プロ団体を除けば全鯖中でもトップクラスの実力を誇る。
聞けばあのメカムート君三号を撤退させる事に成功した立役者も、彼ら【暁の騎士団】なのだという。
「もしかしたら、インウィディアがダメージを受けていたのも、騎士団のパーティと戦闘になったからかもしれない。今後のイベントに関係してくる可能性が高いし、一度合流してこれまで得た情報を共有した方がいい」
確かに、こういった団体行動を行う際、報告・連絡・相談は何より大事だ。
ネット上の掲示板でも情報の交換は可能だが、そちらはどうしても書き込む手間がかかってしまう分時間がかかるし、何よりリアルタイムでの話し合いには不向きだ。
他の方法もあるにはあるが、どうせ相手方もじき地上に戻ってくるのだから、そう急くこともないだろう。
「それじゃあ、ボクはこの辺で失礼するよ」
だが帰る。
イベントの内容も別に興味はないし、本格的なダンジョンの攻略に胸躍ったことは確かだが、逆に言えばダンジョンの攻略が終わった以上、この場にボクがいる必要性もなくなったと言えるだろう。
「あ、ちょっと待って!」
すっと片手をあげて踵を返し、とりあえずアインの町へと戻ろうかと一歩踏み出したところで、後ろからモミジの慌てた声が響いた。それと同時に、僅かに袖を引かれる感覚。
何事かと背後へ目をやると、そこには両手でひしと袖を掴んだモミジの姿が。
「ご、ごめんなさい。でもでも、せっかく一緒に来たんだし、もう少しお話しようよ」
「うーん、でも正直言って、ボクはこのイベント自体にさほど興味が無いのだけれど……」
「うー、じゃあ私も一緒に行く!」
どうしてそうなるのか。
モミジがいなくなってしまうと、パーティに必要不可欠な回復役がいなくなってしまうだろうに。
ボクがそう言うと彼女は頬を膨らませ、袖を掴む手にさらに力を籠めた。気のせいか、目尻には涙さえ浮かんでいるように見える。
さてはて、困った。年齢はモミジの方が上の筈なのだが、まるで手のかかる妹でも相手にしているような感覚にボクが苦笑いを浮かべていると、背後からこちらへ向かってくる一団があった。
そのうちの一人、ハヤトと同じ鎧を着込んだ男がこちらに気が付き、小さく頭を下げる。
件のボス戦でも活躍した、【暁の騎士団】に所属しているチャーハンさんだ。いつだったか、ボクをクランに勧誘してきた張本人でもあるが、会うのはあれ以来だろうか。
彼に会釈を返し、あとでちゃんと相手をする事を頭を撫でながらモミジに伝えると、何とか納得してくれたようで、彼女は掴んでいた袖を離し、何度か振り返りながらハヤトたちの方へと戻っていった。
それと入れ替わるような形で、チャーハンさんが手を振りながら声をかけてくる。
「これはタマモさん、お久しぶりです」
「久しぶり。 騎士団のメンバーが攻略に参加しているとは聞いていたけど、チャーハンさんのパーティだったんだね」
「ああ、交代で攻略にあたってて、今はちょうど俺が担当の時間なんですよ」
いやあ、ラッキーでしたわ。
愛想のいい笑みを浮かべながら、チャーハンさんは頭をかいた。
訳を聞いてみれば、何とダンジョンの最深部で七将軍の撃退に成功したという。とはいえ、味方側の消耗も激しく、薄氷の勝利であったそうだが。
「アイテムも湯水のように使って、何とか三割削ったところで撤退していきましたよ。倒したわけじゃないんで戦利品もないし、全員カンストしてるんで経験値も入らないもんだから、実質こっちは大損っすよ」
「まったくだ」
「せめてアイテムぐらい何か寄こせって話だよねー」
背後で話を聞いていた他のパーティメンバーも口々にそう言い、苦い顔をした。
「ところで、タマモさんが来てるってことは、ハヤト君たちもいるんでしょう? ダンジョンにはもう潜りました?」
「ああ、今しがた戻ったところでね。 色々と共有しておきたい情報もあるんだけど、詳しくはハヤトから聞いてくれると助かるかな」
そう言ってちらりと三人の方に視線を送ると、ハヤトが頷き、ボクと入れ替わるようにチャーハンさんの前に出た。
「実はダンジョンの最深部にある部屋で、嫉妬以外の七将軍と遭遇しまして」
「ほほう。詳しく聞かせてもらいましょうか」
パーティメンバーを交え、今回の出来事について話し始めた二人を見つつ、ボクは少し離れた場所で待機していたコタロウとモミジの元へと戻る。
「悪いなタマモ。コイツが無理言ったみたいで」
「いや、問題ないよ。実際、たいした用事がある訳でもないからね」
それにそろそろ夕飯の時間である。街に戻ったところで何かする時間も無いし、ならばここでモミジたちと世間話に花を咲かせるのも悪くはないだろう。
「言われてみれば、もうそんな時間かあ」
「ハヤトの話が終わったら、俺らもぼちぼち落ちるか。早いとこ寝ないと、また寝坊して遅刻する羽目になりそうだしな、お前が」
「寝坊なんてしないわよ!」
ふしゃーと威嚇するモミジをよそに、ボクは殆どが木々で覆われた空を仰ぎ見る。
さて、ボクの予想ではあるが、恐らくはこのイベントはここで終了となるだろう。
アインの町周辺に徘徊するイベントモンスターは期間いっぱいまで残るだろうが、少なくとも七将軍関係のイベントがこれ以上発展することはない。
七将軍を撃退したことに対しての報酬がない事は気になるが、まあイベント中もしくはイベントが終わったあとにでも配布される手はずになっているのだろう。そのうち公式ホームページにでも詳細がアップされる可能性だってある。
ついつい忘れがちではあるが、このイベント自体、本来は新規プレイヤーに向けたものであるので、さほど良い報酬は配られないと思うが。
「ごめん、待たせちゃったかな」
しばらくすると、チャーハンさんたちと話を終えたハヤトが、申し訳なさそうに片手を上げて戻ってきた。
どうやらチャーハンさんのパーティは少し休憩を入れたあと、例の七将軍、怠惰のアケディアを確認する為にもう一度地下迷宮へ潜るそうだ。ハヤトも一緒に来ないかと誘われたが、時間も時間であるし、流石に断ったのだとか。
「しかし、チャーハンさんに随分と買われているようだね。何をしたのさ?」
「いや、ボクは何もしてない筈なんだけど……」
困り顔で頬をかくハヤト。もしかすれば、常に最前線を行くトッププレイヤーをして、何か光るものを
感じたのかもしれない。
そうしてしばらく四人で他愛のない話をし、この日はお開きとなった。
余談であるが、再度地下迷宮に潜ったチャーハンさんたちであったが、例の部屋は既にもぬけの殻で、そこにはもう誰もいなかったという。
後日、悔しそうにそう語るチャーハンさんを眺めながら、ボクは苦笑いを浮かべるのだった。
良いオチが思いつかず、申し訳ありませんがイベント編はこれにて終了です。
次回からはまたのんびりだらだらしたお話になるかと思います。
2018/08/13 一部変更




