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お稲荷様ののんびりVRMMO日和  作者: 野良野兎
WAVE-I 始まり
21/103

お稲荷様と鬼退治

パッチ1.20公開!

様々なコンテンツを追加するパッチ1.20を○月15日に公開予定です。

それに伴い、下記日程にて全サーバーを対象にしたメンテナンス作業を予定しております。


予定日時:○月15日9:00~○月15日18:00まで


「鬼退治?」


 正式サービス開始から間もなく一カ月、第二陣のログイン開始日を間近に控えた中、ジパングの甘味処で団子をつまんでいたボクは首を傾げる。

 すると隣で餡蜜を頬張っていたモミジが、スプーンを口にくわえたまま何度も頷き、餡蜜を飲み下した後で、目を輝かせながらこちらへと身を乗り出した。


「そう、鬼退治。冒険者ギルドで見つけたクエストなんだけど、面白そうじゃない?」


 クエストの内容を確認すると、場所は都南部の羅城門。そこに人をさらったり、金品を奪ったりしている鬼族がいるらしく、その鬼族を懲らしめてくれ、といったものであった。

 羅城門の鬼と聞けば、連想されるのはあの鬼の首魁であるが、四人だけで大丈夫なのだろうか。


「大丈夫大丈夫、推奨レベルは満たしてるし、タマモが来てくれたら事故らない限りは安心だし」


「ボクをあてにされても困るのだけど……」


 確かに、陰陽師は支援職(バッファー)であり、様々な支援スキルが揃っているので戦力の底上げはお手の物なのだが。

 ちなみに現在確認されている支援職(バッファー)は陰陽師と、先日解放された王都≪フィーア≫で発見された吟遊詩人の二つのみであり、その支援能力もさるものながら、このゲームでも数少ないMP回復スキルを有しているので、今では人気職業の筆頭とまで言われている。その割に人口は少ないが。

 溜息を吐くボクの心情を察してか、五本(・・)の尻尾もだらりと力なくしな垂れている。

 ともあれ、面白そうという点に関して同意できるのも確かであり、かの大江山の鬼を一目見たいという欲求も、確かにあった。

 ぱちん、と扇子を閉じ、立ち上がる。


「まあ、折角のお誘いだし、ボクも一枚噛ませてもらおう。色々とスキルも試したいしね」

 

「やった!それじゃあ二人も待ってるし、早く行こう!」


 無邪気な笑みを浮かべ、モミジがボクの手を引いて走り出す。 

 しばらくしてボクたちが到着したのは、純和風の街並みに混ざる、赤煉瓦屋根の建物。冒険者ギルド、ジパング支店である。


「お、来た来た」


「久しぶりだな」


 冒険者ギルドの中に入ると、丸テーブルを囲んで座っていたハヤトとコタロウが手を振って出迎えてくれた。同時に申し込まれたパーティ勧誘を受諾し、ハヤト達のパーティへと加入する。

 モミジに案内され件のクエストを受理すると、待ちくたびれたとばかりに立ち上がった二人と合流し、冒険者ギルドを出た。向かうは都の南、鬼の住む羅城門。

 

「そういえばタマモ、クランに勧誘されたんだって?」


 その道すがら、ハヤトが不意にそう言った。

 へえ、と感心した様子のモミジとコタロウを見て、苦笑いを返す。

 確かにクランには勧誘された。それも攻略組である、グラムさんのところに。

 だが、その話にはすでに決着が着いている。ボクは自分がやりたいときに、やりたいことをするスタイルなので、攻略の最前線に出張るつもりは無い、と丁重にお断りさせて頂いたのだ。

 人口が少ない陰陽師であるボクを囲んでおきたい、という下心が透けて見えていたし。

 そうハヤト達に話すと、三人は揃って神妙な顔をした。


「まあ、高レベルの陰陽師、というか支援職(バッファー)が欲しいのはわかるけど」


「もうすぐ第二陣の参戦が始まって、大型アップデートが来るって噂もあるしねー」


 まあ、気持ちはわからなくはないのだが。

 ちらほらと現在のレベルキャップである六十に到達するプレイヤーが出始めた中、第二陣のスタートに合わせた大型アップデートが実施されるという、公式からの発表があったばかりである。

 そこで実装されるという高レベルプレイヤー向けのコンテンツに備えて、戦力を増強しようという動きは攻略組としては何も間違ってはいない。

 ただ、トッププレイヤー、廃人と呼ばれる層はなかなか意識が高すぎる。

 流石のボクも、毎日十時間以上このゲームにかけられる程、時間を持て余している訳ではないのだ。


 そんな話をしていると、やがて朱色の立派な建物が見えてきた。羅城門だ。

 門の前には小さな堀があり、橋が三つ、等間隔にかかっている。

 その内の一つ、門の正面にかかる幅の広い橋を渡ったところで、ハヤトが待ったをかけた。

 

「今、システムメッセージで確認が来た。どうやらここで戦闘になるみたいだから、準備を済ませておこう」


――クエスト【羅城門の鬼】のクエストバトルを開始しますか? YES/NO


 直後に表示されたシステムメッセージを一度保留し、各自装備の状態や持ち物を確認していく。

 それが終わり、モミジが【ホーリーヴェール】を発動したのを見て、こちらもバフの詠唱を始める。


――朱雀、玄武、白虎、勾陳(こうちん)……


 目の前に表示された格子状の線を、指定された順番に指先でなぞっていく。

 呪術【九字護身法】という陰陽師のスキルで、範囲内のパーティメンバーに魔法防御力上昇の効果を与える。なお、詠唱はボクの音声データを使った自動再生であるので、実際にボクが行っているのは指でなぞる動作だけだ。

 範囲内の地面が光り、効果が発動したのを確認して、次のスキルを発動させる。


――天蓬(てんぽう)、天内、天衝……


 呪術【禹歩(うほ)】。こちらは範囲内のパーティメンバーに、状態異常を一定確率で無効化する効果を付与する。

 詠唱は同じく自動再生だが、地面に表示された光点を順番に踏んでいく必要があるため、【九字護身法】に比べると少し面倒くさい。さて、次だ。


 胸元が光り、そこから【式盤】と呼ばれる正方形の道具が現れた。

 ボクの周辺を輝く星々が囲み、式盤の中央にある円形の部分がくるくると回転を始める。

 これは占術【六壬神課】という、まあ星占いのようなものだ。

 効果はランダムだが、デバフ系は現在確認されていないので安全、安心である。

 やがて回転していた部分がぴたりと止まると、一瞬ボク達の身体を淡い光が覆った。

 効果を確認すると、どうやら今回は魔法攻撃力上昇を引いたようだ。ううん、構成的には可もなく不可もなく、といったところか。


「何度見ても、陰陽師のスキルは独特だねえ」


 モミジがしみじみとそう言った。

 たしかに、他の魔法職は杖を構えるだけで済むところが、こっちは色々と専用の道具があったり、決められた所作に従わないといけなかったりと、何かと手間ではある。

 禹歩とかは、戦闘中に上書きする時はどうすればいいのだろうかと今から不安で仕方がないぐらいだ。まあ、効果時間が長いので、しっかりと準備をしていれば戦闘中に効果が切れる事は無いだろうが。

 それに、手間をかけた分の効果は見込めるのだし、これぐらいが丁度いいのではないだろうか。

 最後にモミジの【シールドオブイージス】が発動し、準備完了となる。

 ちなみにこれは、一定量のダメージをカットする補助魔法だ。

 頷き合うボク達。満を持してハヤトがイベントを進めると、辺りに不気味な笑い声が響いた。


「かかっ。来訪者共よ、妾の首でも獲りに来たか?」


 羅城門の屋根から、影が躍り出る。

 それは土煙をあげながらボク達の前に降り立つと、赤い瞳をぎらぎらとさせながらこちらを睨み付けた。

 反応は様々。ほう、と感心するボクに、呆気にとられるモミジ。

 ハヤトはやや頬を赤らめ、コタロウは実にめんどくさそうに溜息を吐いた。

 ボク達の前に現れたのは、鬼族の女性であった。

 クズノハさんのように着物を肩まで肌蹴させ、大胆に開いた裾からはすらりとした白い脚が覗いている。

 二十歳前後に見えるが、鬼族はある時期から外見が変わらないという設定なので、見た目通りの年齢ではないだろう。

 ジパングでは珍しい金の髪をかき分けて、額からは二本の立派な角が伸びている。

 女性がまた呵々と笑うと、弾かれた様に各々が武器を構えた。


「ほほう、これはまた威勢が良いな。しかし、ふむ、見ればなかなか美しい者達ではないか……獣は要らぬが」


 その言葉に、思わず吹き出してしまう。

 咄嗟に口元を袖で隠したのだが、どうやらワーウルフ族の耳は欺けなかったようで、コタロウはたいそう不機嫌そうにこちらを睨み付けていた。

 いや、まあ、見た目は完全に二足歩行の狼なのだから、仕方がない。

 顎を撫でて何やら思考していたらしい鬼族の女性、イバラキがうむ、と手を打った。


「よし、女子は妾のそばめ(・・・)にしてやろう。光栄に思うがよい」

 

 ふんぞり返って言うイバラキ。

 そばめとは何か、とモミジが尋ねてきたのでその意味を教えてやると、モミジは困ったように笑った。

 そばめとは側の女と書き、正妻以外に囲う女性の事であり、つまりはお妾さん、愛人である。

 しかし、クズノハさんから始まり、この国に来てからは何かと女として扱われているので、なにやらむず痒い感じがする。いつもように、もっとさっぱりとした扱いで構わないのだがなあ。

 というかクズノハさんもそうなのだが、このゲーム一応十五才以上対象にはなっているが、その格好はセーフなのだろうか。


「さて、それでは力づくで連れて行くが、構わんな? なに、痛いのは最初だけだ」


 そしてその発言もセーフなのだろうか。

 どこから取り出したのか、身の丈程ある金棒を担ぎ、イバラキが駆けだした。

 

「こっちだ!」


 我先に前に出たハヤトが、手にしたタワーシールドを打ち鳴らす。

 裂けるような笑みを張り付け、イバラキが首元に食らいつかん勢いでハヤトへと迫る。

 振り上げられた金棒が光を放ち、スキルの発動を知らせた。

 

「耐えてみよ! 【阿形の一撃】!」


 雄叫びと共に、巨大な鬼の金棒が振り下ろされる。

 衝突。耳をつんざく轟音が響き、地を震わせる程の衝撃が辺りへと走った。

 大技の直後である。必ず隙が出来ると読んだコタロウが素早く背後へと回り、ボクも扇を取り出して真横へと移動を開始する。

 そして鬼の一撃を受けきったハヤトのHPバーは大きく削れ、削れ――


 削れきって、ハヤトの身体は光になった。


「「「……はあ!?」」」


 残された三人の気持ちが一つになった瞬間であった。


 激戦が、始まる。

プレイヤー名:タマモ

種族:妖狐族 Lv52

職業:陰陽師 Lv45


【装備】

武器:妖扇(ようせん)【金色姫】

頭:陰陽師の烏帽子

胴:陰陽師の狩衣

脚:陰陽師の袴

足:陰陽師の浅沓

装飾品:赤石のネックレス


【スキル】

初級妖術【狐火】

初級妖術【鎌鼬】

初級妖術【塗壁】

初級妖術【水虎】

中級妖術【雷獣】

中級妖術【煙々羅】

呪術【九字護身法】

呪術【禹歩】

占術【六壬神課】

祓いの儀

式神召喚【前鬼】

式神召喚【後鬼】


知力上昇(小)

妖術威力上昇(中)


2018/08/13 一部修正

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