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お稲荷様ののんびりVRMMO日和  作者: 野良野兎
WAVE-I 始まり
17/103

お稲荷様と船の旅


「ああ、疲れた」


 あれから三日、風と水の街ツヴァイの傍に広がる草原にて、ボクは指先で眉間をもみほぐし、ぐっと背筋を伸ばす。そうすると、ボクの背後で妖狐族特有の大きな尻尾が四本(・・)、真似をするようにぴーんと伸びた。

 三日三晩、寝る間を惜しんで経験値稼ぎに没頭した結果、ボクのレベルは四十一、追加スキルも三つ手に入れ、あと少しで攻略組とも肩を並べられるレベルに到達する。

 ちなみに尻尾はレベル三十で三本になり、四十を超えた時にまた増えた。

 気のせいか一本ごとのサイズも大きくなって、今ではボクの背中に収まりきらないほどである。

 

「まあ、これだけ上げれば大丈夫だろう」

 

 欲を言えばもう少しレベルを上げておきたいが、流石にそこまでやっている時間は無い。

 貿易都市ドライが解放されてからもう三日。そろそろジパングへ到達するプレイヤーが出てもおかしくはない程度の時間が経っている。

 顔を覆い隠す程の大きな扇を広げ、胸元に風を送りながら貿易都市ドライへと向かう。そこで、モミジ達三人と合流する約束をしているのだ。


 ああ、例の七将軍だが、やはり他のプレイヤーの前にも現れたらしい。

 どうもプレイヤー毎に遭遇するキャラクターが異なるようで、現在は〝傲慢〟以外の全ての七将軍が目撃されている。

 ちなみに掲示板の書き込み曰く、ヤバいのは〝嫉妬〟と〝色欲〟だそうだ。色々な意味で。

 あまり出会いたくはないが、そのうち嫌でも顔を合わせる事になるんだろうなあ。

 

 そうして歩いていくと、かつてボスモンスターが陣取っていた石橋に到着した。

 すっかり見晴らしの良くなったその脇には、菱形の青い水晶が浮かんでいる。

 これはボスモンスターが討伐された後出現するもので、手をかざせば何度でもボスモンスターに挑戦できる仕組みになっている。

 まあ、一度きりのボスモンスターなんて出現させてしまうと、それを撃破して手に入る素材や装備のレアリティがとんでもない事になってしまうし、当然の措置といえるだろう。

 美しく輝く水晶の脇を抜け、橋を渡る。

 やや緑が少なくなった平原を道なりに行けば、そう時間もかけず貿易都市ドライに到着した。


 正面を頑強な防壁で覆い、背後には美しい海原が広がる大都市である。

 港には幾つもの船舶が並び、筋骨隆々の海の男達が巨大な木箱や樽を運び出し、積み込んでいくさまは圧巻の一言に尽きる。

 ボクも装備を一新する為に初めて訪れた際は、呆気にとられたものだ。

 

「あ、いたいた。おーい、タマモー!」


 そんな海の男達に混ざって、見知った顔が飛び跳ねながら手を振っていた。

 手を振り返しそちらへ向かうと、そこにはいつもの三人組の姿が。

 モミジとハヤトは装備が変わっている程度だが、コタロウは少しシャープな姿になっている。

 何というか、冬毛から夏毛に生え変わったような感じだ。


「なんか変な事考えなかったか、おい」


「とんでもない。しかし、久しぶりだね」


 見た目相応の獣じみた直観をかわし、すぐさま話題を変える。


「はは、まあ、あのお祭り以来になるのかな?」


 騎士然とした甲冑姿のハヤトが、苦笑いを浮かべながら言う。

 その横では純白のローブにホットパンツ姿のモミジが、何やら瞳を輝かせてこちらを見つめていた。

 

「凄い、やっぱり妖狐族ってレベルが上がると尻尾が増えるんだね!」


「モミジも、随分と治癒術師(ヒーラー)らしくなってきたじゃないか。カトレアさんのお店で買ったのかい?」


「うん、この間紹介してもらってから、すぐ行ってみたの!」


 満面の笑みを浮かべ、モミジがくるりとその場で一回転する。ふわりとローブの裾が浮かび上がり、どこか甘い香りが鼻先をくすぐった。 

 さてさて、こうしてこの街に三人と集まった理由は他でもない、ジパング解放の条件であるイベントをクリアする為だ。

 攻略組の調査でわかったのだが、今回は今までのようなボスモンスター一体との戦闘ではなく、断続的に出現するモンスターとの連戦になるらしい。

 一体一体はさほど強くはないそうなのだが、問題なのはその数で、かの攻略組でさえ三つのパーティで挑み、抑えきれなかったというのだから相当である。

 しかし、このイベント戦で重要なのは、戦場となる場が大きな船の上で、参加人数に制限が無い事。故に、攻略組はどこのクランにも属さない、所謂野良のプレイヤーも交えての大規模な攻略作戦を提案。ソロ、パーティ問わず参加者を募り、数の力で押し切るつもりなのだ。

 尤も、参加するにあたって、最低限の条件は付けられたが。

 それが、レベル四十以上である事。レベル四十一のボクはぎりぎりセーフ、他の三人もレベルは四十三と、十分に条件をクリアしている。

 

「皆、本日はよく集まってくれた!」


 港の方から男性の声が響く。

 見れば、そこには大勢のプレイヤー達が集まっており、その視線の先には一人の男が立っていた。

 ハヤトが装備している物よりもずっと重厚な鎧を身に纏い、背には身の丈程ある巨大な剣を背負っている。顔立ちは二十代半ば程で、右頬には大きな傷跡が走っていた。


「攻略クラン【暁の騎士団】の副団長、グラムだ」


「グラム? それはまた、仰々しい名前にしたものだ」


 確か北欧神話に登場する剣の名前だったか。

 それはともかく、グラムは集まったプレイヤーをぐるりと見回すと、うむ、と一度頷いた。


「これより、イベント参加者の受付を始める。すまないが、各々我がクランのメンバーにステータスの開示をお願いしたい。参加条件は事前に告知した通り、レベル四十以上である事、この一点だけだ」


「どもどもー、暁の騎士団のチャーハンといいます。受付はこちらで行いますので、参加希望の方は順番に並んでくださいねー」


 グラムの横に控えていたプレイヤー数人が手をあげ、参加者達の誘導を開始する。

 思っていたよりも人数はそう多くなく、ぱっと見た感じだと三十人前後といったところだろうか。

 まあ、王都≪フィーア≫方面を攻略しているプレイヤーも多いだろうし、レベル四十以上という縛りも含めて考えると、まあこんなものだろう。

 ハヤト達と共に受付を済ませると、ジパングへと向かう船へと乗り込む。

 随分と大きな船で、形はガレー船に近い。

 

「わあ、私こんなに大きな船に乗ったの初めてだよ!」


「おいモミジ、邪魔になるから走り回るんじゃねえよ」


 甲板をはしゃぎ回るモミジを、がしがしと頭をかきながらコタロウが追う。

 船には受付を済ませたプレイヤー達が次々と乗り込んできており、なにごとか、とNPCの船員達が目を丸くしている。

 ボクはといえば、手早く船の後部に移動し、手すりにもたれ掛かりながら美しく揺れる波間をぼうっと眺めていた。

 

「いよいよジパングか。何だかあっという間だな」


「ホントだよにゃー。あー、早く新職業見つけたいにゃー」


 その時、ぽつりと漏らした声に返す者があった。

 びくりとしてそちらに目を向けると、ボクと同じように水面を見つめる、ワーキャット族の女性が。

 ショートカットの亜麻色の髪の上に三角の大きな耳を乗せて、くりくりとした金色の瞳がこちらを見つめている。

 服装は動きやすそうな半袖短パンで、腰には短剣を二振り提げており、恐らく職業は盗賊(シーフ)

 そして、ふと感じた既視感にボクは目を細めた。

 どこだろうか、最近見かけたような気がするが……。

 そうして数秒記憶を探った後、ああ、と手を叩いた。


「このあいだ、ギガントスライムに食われてた人か」


 そう、ボクが七将軍の二人と遭遇したあの日に、橋の上でボスモンスターと戦っていたパーティの一人である。

 ボクがそう言うと、彼女はしなやかな尻尾をぴんと立たせながら、顔を青くした。


「う゛っ、まさか見られてたのかにゃ」


「まあね。結構近くで見てたんだけど、気付かなかった?」


「や、あの時はボス戦に必死で、それどころじゃなかったのよねー……あ、にゃー」


 言い直した。ロールプレイも色々大変そうである。


「そういえば、君達がボスを倒した時、あそこに七将軍が二人出たんだけど大丈夫だったかい?」


「それって、七つの大罪ってNPCの事だっけ? んー、私達がボスを倒した後は何もなかったけどにゃー」


 ふむ、ということは、アワリティア達はボクをキルした後、他のプレイヤーには手を出さずに帰ったのか。

 戦力調査、なんて事を言っていたし、直接接触する事は極力避けているのだろう。

 その割には多数のプレイヤーに目撃されているのだが、まあそこはゲームなのだから仕方がない。

 

「まあ、無事だったのなら何よりだ」


「うむ! まあ、昨日エンカウントしてキルされたけどにゃ!」


 ああ、遭遇はしていたらしい。

 話を聞いた感じだと、ボクの時と左程変わらないイベントだったようだ。

 ただ違う部分としては、後からやってきた七将軍が〝色欲〟ではなく、〝暴食〟だった点だ。

 名前はグラ、獣の皮や骨で作った服を着た、大柄のオーク族らしい。

 彼女はパーティメンバー達とレベリングをしているところで遭遇し、何とか抵抗を試みたが五分と持たなかったそうだ。


「あんなのムリムリムリムリ、かたつむりにゃ。うちのタンクが一発で蒸発するとか、絶対レベルキャップ以上の強さはあるにゃ」


 攻略組のタンク職でも一撃とは、恐れ入った。

 やはり双方のレベルに、倍近い差が開いていると思った方がいいだろう。

 

「それはそうと、狐の人、一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかにゃ?」


「ふむ、質問の内容によるね」


 あー、うー、と随分畏まった様子に、首を傾げる。

 第一印象から彼女もモミジと同じように、思ったことは素直に口に出すタイプだと思ったが、なにごとだろうか。


 いや、待て。

 確か、サービス開始から数日後に、モミジもこんな感じで何かを訊ねてきたことがあった。

 そう、確か始まりの街アインで、彼女達と初めてパーティを組んだ時の頃だったような。 

 そこまで思い至り、成程、と納得すると、ボクは苦笑を一つ、彼女の大きな猫耳にそっと耳打ちする。

 そうすると、彼女はくりくりとした目をいっぱいに見開き、はー、と息を吐いた。


「やっぱりそうなんだにゃー」


「できれば他言無用で頼むよ。オンラインゲームだと、そっちの方が色々と都合がいいんだ」


「まあそれはいいんだけど、たぶんばれるのも時間の問題だと思うにゃー」


「はは、まあ、それはそうだろうさ。さてと、ボクはもうパーティメンバーのところへ戻るよ」


 よっこらせ、と手すりから身体を離すと、ひと際賑やかになった船の前方部に目をやる。

 どうやら全員の受付が終わったようで、先程のグラムとかいうプレイヤーを中心に、他のプレイヤー達が集まっていた。

 まあ、これからの段取りなどを説明するのだろう。


「うーん、じゃあ私も戻ろうかにゃー。あ、最後になっちゃったけど、私はムギ、見ての通りのワーキャットで、職業は盗賊(シーフ)にゃ。宜しくにゃ!」


「宜しく、ムギ。ボクは妖狐族のタマモ、職業は陰陽師、の予定」


 今は無職だけどね。

 そう言うと、案の定ワーキャットの少女は不思議そうに首を傾げた。

 いいじゃないか、どうせジパングについたら陰陽師になれるのだから。


「出港するぞお、野郎共、錨をあげろー!」


 丁度その時、船員の良く通る声が船内に響き渡った。

 がりがり、がりがりと錨が引き上げられ、巨大な帆がマストの上から広がり、風を受け大きく膨らむ。

 プレイヤー数人がその様子におお、と声を漏らす中、船はゆっくり、ゆっくりと新天地へと進み始める。

 

「さて、待ちに待った国への旅路だ。さくっとボス戦をクリアして、ゆっくりと楽しむとしよう」


 ゆらゆら、ゆらゆら。

 四つの尻尾を振りつつ、元気に手を振る仲間の元へと歩を進める。

 

 プレイヤー達の旅路を見送るように、頭上を美しい海鳥達が飛び去っていった。

プレイヤー名:タマモ

種族:妖狐族 Lv41

職業:無し


【装備】

武器:妖扇(ようせん)青鷺火(あおさぎのひ)

頭:小さな烏帽子

胴:妖術士の狩衣

脚:妖術士の袴

足:革の浅沓

装飾品:赤石のネックレス


【スキル】

初級妖術【狐火】

初級妖術【鎌鼬】

初級妖術【塗壁】

初級妖術【水虎】

中級妖術【雷獣】

妖術威力上昇(小)


2018/08/13 一部修正

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[気になる点] 最大レベルがいくつかは知らないけど、レベルが随分と簡単に上がるな。
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