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お稲荷様ののんびりVRMMO日和  作者: 野良野兎
WAVE-I 始まり
16/103

お稲荷様と一休み

今回は日常回です。VRゲーム要素はありません。




―ログアウト処理を行っています。しばらくお待ちください。


―ログアウト処理が正常に終了致しました。


―またのご利用をお待ちしております。



 顔の上半分を覆っているデバイスを外すと、目の前には見慣れた天井が広がっていた。

 身体を起こし、ぐっと伸びをして首を回せば、ぽきぽきと気持ちの良い音が響く。長時間ログインしていたせいか、仰向けに寝ていたにも関わらず随分と肩が重い感じがする。

 

「ああ、やられたなあ」


 ばたりとまた仰向けに倒れながら、思い出すのはあの二人組。〝強欲〟のアワリティアと、〝色欲〟のルクスリア。彼女ら七将軍、そして魔王と呼ばれる存在が、ボク達プレイヤーにとってどういった脅威となるのか。

 運営の公式ホームページにも公開されていない、誰も知り得なかった存在。

 柄にもなく、胸が高鳴る。

 運営も、随分と素晴らしいサプライズを用意していたものだ。

 思わず緩んだ頬を撫で、指先に張り付いた髪を見てむっとする。空調はしっかりと管理されていた筈だが、どうやら寝汗でもかいてしまったようだ。

 

「ミズハー、ミズハー」


『はい、お呼びでしょうか?』


 もはやボクの生活とは切っても切れなくなった名を呼べば、すぐさま枕元に設置してあった小型のデバイスから凛とした女性の声が返ってきた。

 ベッドから降り、肌に張り付いた髪を振り払う。


「汗を流したいから、入浴の準備を」


『畏まりました。ご昼食は如何いたしますか?』


「それは自分で作るから、いい」


『畏まりました。では着替えをご用意致します』


 ぷつん、と通話の切れる音。

 まるで人間のようなやり取りであるが、彼女の正体は機械、人工知能と呼ばれるものだ。

 生活補助プログラムと呼ばれる彼女が登場したのは、今から数十年程前の事。科学技術の発展により、掃除や洗濯、果てには料理まで、家事の殆どをネットワークで管理し、ロボットが人間の代わりにそれらを行うようになっていった。

 そんな中で、暮らしをさらに快適にしようと誕生したのが、彼女たち生活補助プログラムだ。

 彼女たちの登場で、ボクたち人間はとうとうロボットの電源ボタンを押す事さえしなくなった。


 ぬるめのお湯につかりながら、ボクは思考を巡らせる。

 身体を一切動かさないまま、意識だけを別世界へと送るフルダイブVR技術。

 医療、軍事、そして娯楽へと進出してきたこの技術がさらに発展すれば、ついに人間は、身体を一切動かさないまま、意識だけで生活するようになるのではないか。


「なんてね。SF映画じゃあるまいし、馬鹿馬鹿しい」


 尤も、昔の人から見れば、今の世の中も十分SF映画じみているのだろうけれど。


「ミズハ、〝TheAnotherWorld〟の公式ホームページを開いて」


『畏まりました』


 水が滴る髪を指先で弄りながら声をかけると、寝室にあった物と同様のデバイスから立体映像が投影される。

 表示されたホームページを指先でスクロールすると、新しい街が解放された旨がサイトの下の方に記載されていた。沿岸部に半円形に広がった大きな街、貿易都市≪ドライ≫である。

 どうやらボスモンスターを撃破したあのパーティは、無事に次の街まで辿り着いたようだ。

 

「ふむ、やはり主な貿易先はジパングか」


 βテストの時にはドライまで進む事が出来なかったし、NPCの人数も今よりずっと少なかった。

 ここに来て新職業や他国の情報が続出し出したのは、その辺りが原因だろう。

 ユーザーID、パスワードを入力し、ユーザー限定ページへとアクセスする。ここでは公式掲示板の利用や、フレンドとのメッセージのやり取りなどを行う事が出来る。

 そこからフレンドメッセージを編集、送信。宛先はいつもの三人組だ。

 内容は七将軍の二人から聞き取った情報全て。あの三人は全員がレベル三十以上で、ボクなんかとは違いあっさりとやられる事はないだろうが、恐らく七将軍のレベルは六十を超えていると思われるので、油断は禁物である。

 ちなみに六十とは現在のプレイヤーが到達できるレベルの上限であり、現段階で、これ以上プレイヤーのレベルが上がる事は無い。すなわち現時点では、プレイヤー達に勝ち目はないという事だ。

 まあ、もし勝てるとしても大規模イベントを交えた、一時的なものになるだろう。

 つまり、今は運良く遭遇しても負けイベント確定。ある程度は情報を引き出せるだろうが、最終的には例外なく全滅、死に戻りが濃厚。故に、その忠告も交えたメッセージを送信する。

 

「遭遇した場合は可能な限り、情報収集に努められたし。相手が〝強欲〟ならば難易度低し、と」


 メッセージを送り終え、濡れた髪をタオルで拭い、くるりとまとめて頭の上へ。用意されていたシャツ、パンツに着替え、キッチンへと足を進める。

 ぺたぺた、ぺたぺた。スリッパが床を叩く音が響く。

 冷蔵庫を開け、中身を確認。ああ、卵の期限が近いな。お昼はオムレツにしよう。

 

『レシピを検索、表示します』


「ありがとう。あと、今日のニュースを一覧で出して」


『畏まりました』


 ボウルに卵を落とし、手早くかき混ぜながら目の前に開いた画面に目を通す。

 政治、経済、スポーツ。綺麗なものから汚いものまで、数多く並んだそれらの中から一つを選び、指先で弾いて拡大した。

 

――話題作〝TheAnotherWorld〟特集! その魅力に迫る!


 開いた記事の中には現在発見されている街や職業、モンスターの情報が詳しく記載されており、そこには運営陣のインタビューから得た新情報までが載せられていた。


「へえ、第二陣のスタートは来月か。また賑やかになるな」


 パンをトースターに放り込み、焼き上がったオムレツを皿に盛りつける。

 初回予約抽選にも引けを取らない、とんでもない数の応募の中から選ばれたプレイヤー達。来月の半ば、先陣とそう変わらない人数の彼らが、始まりの街へと流れ込んでくる。

 サービス開始初期とは違い、今は経験値稼ぎに最適なモンスターもレベル毎にまとめられ、おススメ装備と共に有志の攻略ページでいつでも確認することが出来る為、試行錯誤する手間が無い分、ボク達よりもスムーズにレベルを上げて、追いついてくるだろう。


「まあ、その試行錯誤の楽しみが味わえないのは、少し気の毒に思うけれど」


 尤も、それを苦痛と感じる人にとっては、さくさく進める第二陣の方が向いているのかもしれないが。ちなみに、ボクはそういった試行錯誤、手間暇が大好きな人間だ。

 香ばしいトーストに噛り付き、ふわふわのオムレツに舌鼓を打つ。量は少ないが、小食なボクはこれぐらいでお腹がいっぱいになってしまう。

 ごちそうさま、と手を合わせ、温かいコーヒーを飲んで一息吐くと、ボクはぼんやりと真っ白な天井を見上げた。

 

「さて、後はドライからジパング行きの船に乗り込むだけだけど、まあすんなりとはいかないだろうな」


 頭の上に乗せていたタオルを取ると、僅かに水分を含んだ長い黒髪が背中を軽く叩いた。まだ乾ききってはいないが、まあこのぐらいならすぐに乾くだろう。

 それよりも心配なのは、十中八九ボスモンスターが待ち受けているであろう、ジパングまでの旅路である。これまでのように、他のパーティが撃破するまで待つ、という方法もあるが、ジパングには待ちに待った陰陽師の拠点がある。

 一日でも早く攻略して、かの国へ渡りたいというのが、正直なところだった。

 

「これは、久しぶりに頑張ってみようかな」


 とりあえずは、経験値増加イベント中に出来る限り経験値を集め、レベルを上げる。

 そして装備の強化。これはドライで買い揃えれば十分だろう。

 後は、最も重要な情報収集。

 これらを行ない、尚且つ攻略組との差を少しでも縮めるとなると、二徹か、三徹か。


「出来れば早めに済ませたいけど、やれやれ、今から頭が痛い」


 自室に戻り、ベッドに腰を掛けてため息を吐く。

 まあ、精々体調を崩さない程度に頑張ろうか。


「ミズハ、夕飯もボクが作るから、洗濯物とかは宜しくね」


『畏まりました』


 そうしてぐっと伸びを一つ、ヘッドギアを被り、ベッドに横になる。

 頭に響く、ヘッドギアの駆動音。意識を吸い込まれるようなこの感覚は、やはり慣れない。

 さて、それでは、再び異世界へと旅立つとしよう。


「ソフト選択、TheAnotherWorld、起動」


 そしてボクの意識は、電子の海へと沈んでいった。

2081/07/26 改稿

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