深夜の怪異
第一章 真夏の怪異
世界はひとつとは限らない、私たちが知らない世界が沢山存在するのかもしれない。これは二つの世界の運命と繋がりの物語………………。
真夏の蒸し暑い日の夜12時位のことだった。俺、春野 ハルは家からしのびでて静まり返った商店街をとぼとぼと歩いていた。昼間も閑静な商店街だが真夜中となると不気味な静けさに包まれている。
「はあ~腹減って死にそー……」
夏休みだからといって俺はなんと昨日の午前2時から今日の午後11時までこんこんと眠り続けていたのだ。昨日の昼飯を食べてからなにも口にしていない。
ふと視界に掲示板の大きなポスターが入る、近頃この近くの公園に得たいの知れない塔のようなものが置かれていたらしい。他にもこの地球には存在しない木のようなものが空から落ちて来たらしい、幸い怪我人は出なかったがその事件は謎のままらしい。
ハルは登り坂に差し掛かった。
商店街の窓に俺の姿が映った、寝過ぎで目がしょぼしょぼしている。髪の毛は寝癖で跳ねまくりパラダイスしている。予想以上のみっともなさに恥ずかしさが込み上げる。少し整えてから行くことにした。ぐううっとお腹が鳴った。
「うおお……早くコンビニ……いかねぇと、マジで死ぬ……」
ハルが窓から目をそらした時、窓の景色がグニャリと波打つ水面のように歪んだ
「…………なんか揺れたか?」
目を凝らして窓を凝視するが、なにも起こらない。ハルはほっと息をついて
「…………………………気のせいか。」
と再び歩き出した。
そして歩いて10分、コンビニで大好きなナポリタン、鮭いくらむすび、チーズケーキ、ミルクコーヒーを買って帰ることにした。
行って来た道を通るので不気味な商店街を通る。
商店街は帰りは下り坂になっているので小学生の頃からこの坂をかけ降りていたのを思い出した。
中学生になってからは子供っぽいからという理由でやっていないのだ。
「今なら、誰も見てないよな…………よし」
クラウチングスタートのポーズをする。よーい、どんっ
「うひょぉおおおおおおお!!」
ハルは風を切るように坂をかけ降りる。風の音、虫の鳴く声、寂しい商店街の屋根に吊られた風鈴の音が混ざり合う、今なら空を飛べるんじゃないかと思うほどに速度が出ている。
しかし、すぐに失速してしまった。
「…………ぜぇ、はあ。俺、歳とったかな………はあ…?」
だかしかし、すぐにスタミナ切れ。ろくにご飯を食べていないうえ、最近は全く体を動かしていないくせに調子にのって走ったため、足がガッタガタに震え、地べたに這いつくばるので精一杯だ。
「……あーー調子に乗りすぎた…………くらくらする。」
「見つけた…………………………!」
声がしてふと窓が目に入る。普通だったらただの俺が映るはずなのだが………………
「…………は?」
窓に映っているのは白銀の長い髪をたなびかせている美少女だった。
「え?何で……君は一体……?……」
ハルは訳がわからず窓に触れようとした…………
「うわぁあっ!?」
窓は液体のようにグニャリと歪み、ハルの体を引きずり込もうとする。ハルは激しく抵抗して後ろ向きに倒れかけた。
「あっ……………………!」
そしてとっさに鏡の向こうから差し出された手を掴んだ。
そして……
「…………ひゃっ!?」
か細く小さな悲鳴が聞こえた。
ドサリ……と音をたて倒れこむ。
恐る恐る顔を上げると先程の美少女がハルの上にに覆い被さっている。つまり、ハルは今、美少女に床ドンなるものをされてしまっているのだ。
美少女の長く白い髪がさらりと顔にかかる。
美少女は鴬色に輝く瞳を震わせている。
「……やっと、やっと見つけた…………!」
「え、み、見つけたって……?」
「お願い、どうしてもあなたの力が必要なの!ついてきて‼」
美少女はハルの腕を掴んで立たせ窓に向かって勢いよく走り出した。
「え、あ、ちよっ…………ぶ、ぶつかるっーー!」
ゴツンっと鈍い音がして美少女がひっくり返る
「いっった…………う、うそ?なんで入れないの……?」
美少女は鏡の表面をコンコンと叩く、先程のように窓は歪まない、ただの窓のようだ。
「ど、どうしたら…………帰れないなんて、そんな………うそ…」
美少女は小刻みに震え、ぼそぼそと呟いている。
「ね、ねぇ大丈夫?帰れないって一体…………あっ」
美少女はフラリと膝から崩れ倒れた。間一髪でキャッチ。
「え!?大丈夫!?ねぇ!?」
返事はない、混乱しすぎて気を失ってしまったようだ、すぐに起きる気配はない。
「……うーん、どうするか……。心配だしな……」
ここに美少女を放置するにはいかないのでとりあえずうちに連れて帰ることにした。
気を失った美少女を引きずるわけにはいかないのでお姫様抱っこする。不本意だが、ふわりと揺れる髪から甘い香りがする…………。
現在午前1時15分、青年は坂道を美少女と共に降りていった。
読んでくださりありがとうございました!まだまだ続きます!