取り戻せない女
土曜日一日を無駄にしてしまった私は、予定通りにショッピングに行ったのだが、悪い事は続くもので、散々だった。
気分転換の為なのだからと言って、普段は行かない懐かしい街に出たのが、間違いだったのかもしれない。学生時代によく行った街だ。
暫くプラプラと歩くと、見覚えのあるショウウィンドーが目に止まった。
「ルイヴィトンのバッグ(イミテーション)29800円」
きっと15年前も、こう書いていたのだろうが、当時の私には、この小さく書かれたイミテーションの文字に気が付かなかったのだろう。
懐かしくなりお店に入った。15年前と少しも変わらないおじさんに言って、バッグを見せて貰った。すると驚いた。キズやシミの形や場所が、かなり補修されているとは言え、間違いなく私が持っていた物だ。10年以上愛用してたんだから間違える筈がない。
この時私は、ふと「19800円なら取り戻してもいいか」と思った。
「あんたにゃ売れないよ」
意味が分からなかった。
「に…29800円ですよね」
「だから、売れねーって」
何だか意地になってきた。
「じゃあ、30000円出します」
「あのね、値段じゃないの。あんたって人に売れないの」
少し押し問答が続いて、私は15年前の事や経緯を話した。
「じゃあ、何で手放したの?」
「手放したんじゃなく、無くしたんです」
「結局、大事にしなかったんだろう。15年前は知らないけど今のあんたは、コイツを愛していない。目を見りゃ分かる。オレの仕事は目利きだけど物だけじゃない、人だって見るんだ」
全て見抜かれた気がした。15年前、おじさんが言った「いい目」と言うのは、「目利きの目」じゃなく、私の「輝く目」だったのだろう。
悲しくなってきた。
そうだ!悟だ‼悟なんかに再会したからいけないんだ‼




