01.プロローグ
僕が最後に見た光景は、涙を流す白衣を着た女性だった。
彼女の周りには死に絶えた人間だったもの、崩れ落ちた瓦礫の山、そして燃え盛る炎がその場所を包んでいた。地獄のような空間で彼女は、機械を操作し何かをしている。あの時の僕は何も出来ず意識だけがそこにあった。
炎はその空間にある物を燃やし、彼女から酸素と体力を奪い、煤だらけの顔は諦めてはいない顔をしていた。だが、時間はまってはくれない。そして、その時は来たのだ。
大きな爆発音が響き、彼女は顔を青くした。もはや、タイムリミットがそこまできていたのだ。壁に亀裂が入り、ついには崩れ落ち穴が開き、そこから酸素が抜けていく。
その先は暗い空間に続く。
その場にある物が浮かび上がり穴へと向かうが、彼女にも襲う。呻き声を上げ、額から赤い血が流れ、涙が落ちる。そして、彼女は言った。
「まだ、まだよ・・・もう少しなのに!」
天を仰いで悔し泣く彼女は叫ぶ。もはや、この場に彼女の声が届く者はいない。僕はその光景がゆっくりとゆっくりと流れていた。彼女は、まだ諦めていない、まだやれる、という表情している。
しかし、時間はもうない。
「擬似感情、身体機能、中枢神経ネットワーク構築完了・・・はぁはぁ、もう意識が・・・くぅ、もう少し、もう少し・・・転送システムインストール完了・・・よしこれで・・・・・・きど・・・う・・・おき・・・て・・・・」
彼女はブツブツと呟きながら機械を弄り、意識が途切れそうになった瞬間、彼女の近くで爆発は起きた。体は宙に浮き体中を打ち付けた彼女は暗い空間へと飛ばされる。この時、彼女と目が合い、涙溢れて口元が動く「おはよう」と聞こえた気がした。
そして、僕もまた暗い空間へと飛び、意識はそこで途絶えた。
「・・・・・・・・・ここは?」
目が覚めると推定数キロになる、大きなクレーターの真ん中にいた。
僕は搭乗している機体から外を見つめる。背の高い木々押し倒されて、燃えて灰になっていた。どうやら、森に落ちたようだ。なぜ、こうなったかはわからない。彼女が最後に言った“転送システム”が関係しているかもしれないが、正直解らない。
辺りには機体の破損した物も散らばっているが、原型を留めていない。この機体の機体名が映る。
―――遠距離砲撃戦専用機 TERUSA。
「確か、人型兵器で遠距離砲撃武装と超長距離転移可能とする機体、膨大な宇宙ネットワーク経由して物と人を転移可能、機体形成はナノマシンの物質化にて構築、動力源はエーテル・・・・」
起きたばかり・・・生まれたての僕には多くの知識が溢れているようだ。普通の人間では不可能であろう知識量がある。しかし、それらを補う力はない。僕は余りにも知らないからだ、僕を、人間を。
「・・・あ・・・TERUSAの理論提唱者はカイン・フェブリエ博士・・・・・・・僕を・・・・・創った人?・・・・・あれ?・・・・涙?・・・僕を創った人物、あの地獄の中で最後まで諦めなかった人・・・・もういない人・・・・僕の・・・お母さん」
ポタポタと大粒の涙が落ちる。この感情は、悲しい?苦しい?痛み?よく解らない・・・ただ、僕の中にある何かが壊れているのだろう、とそこに蓋をした。すると、涙は引いて、若干顔が引きつる自分の顔がホログラフィックモニタに映る。
「酷い顔・・・・あ、僕って女の子なのか・・・・」
髪型はショートボブで色はパステルブルー、瞳は真紅色で真っ白な肌。そして体型は膨らみの暗示さえない少女の平たい胸に小さい身長。
服と言えるか解らないが、ナノマシンで出来た服を着ている。ありていに言えばピッチリと体の線の出る宇宙服。
気づくとホログラフィックモニタにTERUSAの動力源エーテルが尽きかけていると忠告が出ている。生命維持装置もエーテルで補っているらしく、このままだと非常に危険だ。なぜなら見たことのない巨大な生物が飛んでいるのだ。
私の中にある記憶に該当ある。“失われし故郷”の創作に登場する生物には似ている、確か、ドラゴンと云われるものだ。しかし、想像上の生物がこうして、そこにいることは現実みたいだ。
「ぶ、武器は!?」
『危険生物です』
「あぴぁっ?!」
女の子の機械音声がカプセル内に響く。ホログラフィックモニタに目を向けると私と同じ顔をした女の子の立体映像が現れていた。いきなりのことに、体をビクッと震わせて変な声が出てしまった。
『危険生物です・・・・排除します』
私と同じ顔をした女の子がそう言うと、キュンと音がしレーザーがドラゴンの翼を打ち抜いた。悲鳴を上げると同時に大空を飛んでいたドラゴンはクレーター内に落ち、体をジタバタとし動かし悲鳴を上げている。再びキュンと音がして、レーザーがドラゴンの頭を打ち抜くと生命活動を停止した。
「・・・・うわぁ」
『サンプルを採取してください、大気中酸素異常なし、気候良好、周囲危険度異常なしです』
淡々と話す彼女の口調は人間に似ていても、やはり機械だ。どのようなA.Iでもそこは変わらないのかもしれない。しかしこの機体は、カイン・フェブリエ博士が創ったものだ。多分、可能性がある、心を持ち、感情を育みいつか彼女の笑顔が見れるだろう、と僕は確信している。
「あの・・あなたは、えっと・・・テルサ?・・・僕はえっと・・・あれ名前なんだっけ?・・・・・ここは一体どこ・・・・?」
『私は遠距離砲撃戦専用機 TERUSAです。あなたは―――接触・観測型人工生命体、イヴ。』
「イヴ、僕はイヴ・・・」
僕はテルサから名前を聞き、ニンマリしなが何度も自分の名前を呟く。僕はイヴ、うへへ、博士がつけてくれたのかな。ふへへ。
『ここは不明です・・・宇宙座標不明・・・星団連邦のデータベース―――該当しません。未開惑星です・・・・わたしの話し聞いていませんね?』
「うへへ・・・・あ」
僕は苦笑いを浮かべて「ごめんなさい」をするとテルサからため息が聞こえた気がした。
『あなたは、人間ではありません。・・・・神は人を創り、人はあなたを創った。理解していますか?』
「う、うん?」
『あなたは、星団連邦、約何万の惑星によって構成される星間統合国家の最先端の技術が総動員された完成形、10000番目のイヴ。イヴとは人工生命の総称です。あなたは、全てのイヴの頂点です』
「・・・・・・・・・・ん」
“イヴとは人工生命の総称”と言われた瞬間、大粒の涙がポトポト落ちた。博士は名前つけてくれなかったのかな、と思うと多くの涙が溢れる。俯き小さく体を縮めせて涙を流しているとふと暖かな何かが僕を包んだ。
手のような感触が僕の頬に触れて涙を拭う。
「あなたは、イヴ、わたしはテルサ。あなたの妹、大丈夫、一人じゃないから」
立体映像だったテルサが実体化して僕の膝に座り笑みを浮かべている。僕の容姿と変わらないが右目は前髪で隠れている。暖かな温もりが僕を包んでいて安心したのか、僕は再び涙を流す。苦笑いを浮かべるテルサは「弱虫ね」と言い涙を拭い、抱きしめる。
僕も抱きしめて、目を瞑り、テルサの鼓動を感じた。
「テルサ」
「なあに、イヴ」
「ん」
「なあに、イヴ・・・・あ、また泣いてる!もう!」
名前を呼ばれ嬉しくて、嬉しくて涙が溢れる。
「・・・・・てるさ、ありがとう」