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アヤマリ

四条御所ビル跡地は、血の海と化していた。


六波羅探題軍の前衛と反乱軍が乱戦となり、互いの刃を交えていたのだ。


だが、多勢に無勢。さらには、京という重大拠点の防衛を目的とした精鋭軍が、テロリスト軍団に負けるわけがない。


次々と、反乱軍の屍の山が築かれる。その戦場の中心には、倒れ込む兄を守る弟、そして、その絶対防御の盾にぶち当たる狂人の姿があった。


あれから多治見(たじみ)は跳ね返されても跳ね返されても直義(ただよし)のシールドを破ろうと剣を振るう。既に、彼は、冷静な判断ができないほど、薬に犯されているようだ。


その哀れな姿を眺めながら、直義は、高義(たかよし)に語りかける。


「あに……いや、兄ちゃんさ。何でいつも黙ってるの? 何でいつも隠そうとするの? 何で一人で抱え込もうとするの?


俺たちだって力になれただろ? 相談にのることくらいはできただろ? もっといい決断できたかもしれないだろ?」


その声は、小さく、低く、憤怒が感じとられた。


その怒りは、高義だけに向けたものではない。


人に言えない立場である自分に向けての怒りの灯火(ともしび)も、ボヤから炎へと、直義の心の中で広がっていく。


でも、そんなことは分かっていた。分かっていたけど、自分が言うしかない。


直義は下唇を噛んだ。


「気づかないとでも思ったの? いつもと違うことくらい俺たちでも分かるよ。


きっと、高氏(たかうじ)兄ちゃんだって、気づいてるよ。俺たちに迷惑かけないようにしてたのかもしれないけど、その姿勢が俺たちにとって一番迷惑だ!」


高義はうつむく。これ以上、やつれた兄の姿を見ないように背を向けている弟の姿を、見ることはできない。


自分の胸を傷つけながらも、兄を叱咤(しった)する姿を見たくない。


二人の兄のことを誰よりも心配して、誰よりも愛して、誰よりも尊敬している直義。


高義には、彼が一番の被害者のように思えた。


「お前はもう、そんなに汚れなくていいんだよ」


高義が言葉吐き出す。


「聞いたぞ。高氏にもしものことがあったらいけないから、義貞(よしさだ)登子(とうし)ちゃんに根回ししておいたんだって?


お前も裏でコソコソやってんじゃねぇか」


「うるせぇ、揚げ足取るんじゃねぇよ」


「言っとくが、お前の嘘なんか丸見えだからな。分かりやすいんだよ。


顔に出るし、態度に出るし、声色に出るし、嘘つくの下手すぎるんだよ。


お前のほうが兄弟に心配かけてんじゃねぇか!」


「だから……」


だから……。


直義は少し黙ってから、話直した。



「だから、これからは嘘つかねぇよ。本当のことを兄ちゃんに話す。


絶対に」



その言葉を聞いて、安心したのか、「フッ」と小さく笑ってから、高義はそのまま横になった。



「じゃあ、そろそろ決着つけねぇとな」


直義の目の前で、多治見はシールドを壊そうともがく。


しかし、その力は衰えていき、シールドの攻撃を受ける箇所の厚さも薄れていく。


薬が体をほとんど崩壊させているようだ。


多治見が剣を構え直して、今のフルパワーで、振るったとき、直義は、シールドの強度を数段階上げた。


すると、剣がシールドに当たるや否や、反作用に押され、多治見は地面に仰向け倒れる。


自分より遠くに飛ばされた剣を取ろうと、体を起こそうとしても、立ち上がらない。


視線の先には、南中高度に達しそうな太陽があった。


しかし、直義がそれを遮った。


「たぶん、お前も何かを守ろうとして行動したんだろうな……」


直義はランスをゆっくりと持ち上げる。


蛍のような粒子が、その三角錐の周りを飛んでいく。


「もう、お前は頑張らなくていいんだ。楽になってくれ」


力を込めて、ランスを多治見の胸へ突き刺す。


薬に蝕まれ痙攣していた体が静止する。


ランスから手を離すと、それに纏っていたヴァサラ粒子が空に向かって飛んでいく。


高く、高く、天に向かって舞い上がる。












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