表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/111

真実④

幕府……転覆……。


その言葉に、僕の心が震えた。


魔女に心臓を掴まれる感覚に陥る。


幕府に逆らうことは悪いこと。そう心のどこかで思っていた。


でも、僕の目の見えないところで、苦しんでいる人たちがいる。


なのに、幕府は、彼らを助けようとしない。自分たちの利益だけを考え、自分たちのやりたいことをする。


私利私欲の(かたまり)


それが僕の幕府へのイメージだ。


そう、私利私欲で、僕をいつも利用している。


だから、それを妨げようと兄さんは行動し、寿命を縮めた。


幕府がいなければ、幕府いなければ、幕府がいなければ。


僕の身の回りの何もかもが改善されただろう。



玲さんのことだって……。



僕は右手を前に出す。ゆっくりと、震えながら、怯えながら、前に出す。


あとちょっと前に出せば、その小さな手を握ることができる。


そうすれば、僕は楽に……。


「………………」



パシッ!



僕は軽く正成くんの右手を払った。


その行動に彼は目を疑った。


「これはどういう……?」


「君の提案には断るよ」


「ほう、どうしてですか?」


「この手を握ることは『逃げ』だ。


すべてを幕府のせいにすれば僕の気持ちは楽になる。


不幸な人たちを幸せになるだろう。幕府の悪事もなくなるだろう。


でも、そんなことより、先に思いついたことは、『僕が楽になる』ということだった。


結局、僕は僕のことしか考えてないんだ。


だから、都合の悪いことには、目をそらしてきた」


兄さんのことだって、前兆のなかったことではない。


仕事人間の兄さんが長期休暇をとっていたこと。いつも以上に僕たちとおしゃべりしていたこと。なのに、自分の部屋にいる時間が増えたこと。


きっと、死を悟って、最後まで僕たちと会話したかったんだろう。だから、仕事を休んで僕たちと多く関わろうとした。


だけど、病んでいる自分を見せたくなかった。だから、明るい姿を演じられないくらい辛いときは、部屋で、人目につかないように苦しんでいたのだろう。


それは今となって分かることだが、前でも気づくことができたことだっ


貧困に悩む人たちのことも、世間知らずという言い訳をして、知ろうとしなかっただけだ。


それを僕は目を塞いで、見ないようにしていただけだ。そうやって、逃げていたんだ。


だけど、だけどもう……。


「もう、僕は逃げたくない……。傷つくのは僕だけでいいんだ」


僕は彼の隣を通って、外に出る。


「どこに行くんですか?」


歩を止めずに僕は言った。


「敵と『戦い』に行く」


僕は足を速めて、外に飛び出す。


▷▷▷▷


その後ろ姿を見送ってから、ボクは声を漏らした……。


「強がっちゃって……。本当に、クマさんみたいな人ですね」


でも、まだ諦めませんからね。


あなたを、その間違った道から、救い出してみせます。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ