真実④
幕府……転覆……。
その言葉に、僕の心が震えた。
魔女に心臓を掴まれる感覚に陥る。
幕府に逆らうことは悪いこと。そう心のどこかで思っていた。
でも、僕の目の見えないところで、苦しんでいる人たちがいる。
なのに、幕府は、彼らを助けようとしない。自分たちの利益だけを考え、自分たちのやりたいことをする。
私利私欲の塊。
それが僕の幕府へのイメージだ。
そう、私利私欲で、僕をいつも利用している。
だから、それを妨げようと兄さんは行動し、寿命を縮めた。
幕府がいなければ、幕府いなければ、幕府がいなければ。
僕の身の回りの何もかもが改善されただろう。
玲さんのことだって……。
僕は右手を前に出す。ゆっくりと、震えながら、怯えながら、前に出す。
あとちょっと前に出せば、その小さな手を握ることができる。
そうすれば、僕は楽に……。
「………………」
パシッ!
僕は軽く正成くんの右手を払った。
その行動に彼は目を疑った。
「これはどういう……?」
「君の提案には断るよ」
「ほう、どうしてですか?」
「この手を握ることは『逃げ』だ。
すべてを幕府のせいにすれば僕の気持ちは楽になる。
不幸な人たちを幸せになるだろう。幕府の悪事もなくなるだろう。
でも、そんなことより、先に思いついたことは、『僕が楽になる』ということだった。
結局、僕は僕のことしか考えてないんだ。
だから、都合の悪いことには、目をそらしてきた」
兄さんのことだって、前兆のなかったことではない。
仕事人間の兄さんが長期休暇をとっていたこと。いつも以上に僕たちとおしゃべりしていたこと。なのに、自分の部屋にいる時間が増えたこと。
きっと、死を悟って、最後まで僕たちと会話したかったんだろう。だから、仕事を休んで僕たちと多く関わろうとした。
だけど、病んでいる自分を見せたくなかった。だから、明るい姿を演じられないくらい辛いときは、部屋で、人目につかないように苦しんでいたのだろう。
それは今となって分かることだが、前でも気づくことができたことだっ
貧困に悩む人たちのことも、世間知らずという言い訳をして、知ろうとしなかっただけだ。
それを僕は目を塞いで、見ないようにしていただけだ。そうやって、逃げていたんだ。
だけど、だけどもう……。
「もう、僕は逃げたくない……。傷つくのは僕だけでいいんだ」
僕は彼の隣を通って、外に出る。
「どこに行くんですか?」
歩を止めずに僕は言った。
「敵と『戦い』に行く」
僕は足を速めて、外に飛び出す。
▷▷▷▷
その後ろ姿を見送ってから、ボクは声を漏らした……。
「強がっちゃって……。本当に、クマさんみたいな人ですね」
でも、まだ諦めませんからね。
あなたを、その間違った道から、救い出してみせます。




