真実③
「兄さんが死ぬ……。それに、薬ってどういう……」
正成くんは、声を低くして答えた。
「先ほど、ボクが土岐や多治見に与えた薬。あれは、無理矢理ヴァサラ遺伝子を刺激することで、ヴァサラ支配率を高める薬なんです。
元々は、幕府が軍事用に開発したもので、なぜか最近、闇市場で流通していました。
それも知らなかったでしょう。なぜなら、この薬は、ヴァサラ遺伝子を刺激しすぎて、死滅させる危険性もあるからです。つまり、副作用が強すぎるので、公表しなかったのです」
そんな薬が存在するのか?
そんな疑問を抱くだけ無駄だ。
「そんな薬をなんで兄さんが……?」
「高氏くん、あなたのためですよ」
驚きのあまり、軽い立ちくらみがした。
「あなたが戦うことを嫌う。そのことを知っていた高義さんは、あなたにそうさせないためにどうすればいいかを、考えた。
その結論が、『自分が完全な存在なればいい』というものだった。あなたの父親は、戦になれば、次期当主だからという理由で高義さんではなく、あなたや直義くんを駆り出そうとする。
しかし、自分があなたや直義くんよりも強くなれば、嫌でも自分を使おうとするだろう。
そして、早く足利家当主になれば、誰を駆り出すかは自分の意思で決めることができる。
だから、自分の能力を極限まで上げて、あなたを守ろうとした」
そうか……。
また……僕なのか……。
僕のせいで……僕のせいで……。
また、僕のせいで、人が死ぬ。また、僕のせいで、誰かが不幸の道に進む。また、僕のせいで……僕が弱いせいで……。
壁に手をつく。そうもしなければ、僕は何の抵抗もなく、地面に倒れ込み、体がガラスのように粉々に割れる気がした。
そのまま、立ち上がれる気がしなかった。
そこに差し伸べられる手。それは小さくも力強い手だった。
彼は言った。
「あなたが悪いわけではありません。あなたをそんな状況にした、幕府が元凶なんです。
高氏さん、足利家次期当主としてお願いします。ボクに力を貸してください。
一緒に、幕府を転覆させましょう!」




