兄弟⑤
多治見が獣のような悲鳴を上げる。
それに反応した土岐が、高義に斬り掛かる。
それを素早くシールドを展開して防ぎ、その反作用で宙で跳ね返された土岐に、高義は一突き喰らわす。
土岐もシールドを展開し、高義の一突きを防いだ……ように見えた。
しかし、その槍は、シールドごと土岐を吹き飛ばした。
土岐は、彼らを包囲していた兵士達を超え、ビルの合間に建てられている公民館に突っ込んだ。
体はそのまま木造の壁にめり込み、一種の不法侵入だが、公民館の中の舞台会場の観客席に叩きつけられた。
「グッ……グッグッ……」
痛みで言葉にならない声を上げる。
薬で脳を満たしているアドレナリンでも、紛らわすことが難しい痛みだ。しばらく動くことができなかった。
そんな中、苦痛が占拠している彼の脳内に、声が入り込んできた。
「いやいや、本当に高義さんってすごいですね。連絡通り、ここに土岐さんか多治見さんのどちらかを放り込むなんて」
ステージの上には、銃型ヴァサラを所持した、短い髪、白い肌、凛とした瞳、薄いくちびる、涙ボクロの美少年がいた。
「一応、自己紹介させていただきます。足利家家臣、安田一親と申します。
あなたに恨みはないですが、ぼくの恩人である高義さんのお願いですから……」
一親は、ゆっくりと銃を土岐に向けた。
「文句言わないでくださいね?」
▷▷▷▷
間違いない。今の声は、兄さんのだ。
なんで兄さんがここに? せっかく会いに来た僕たちに顔を見せようとしなかったから、それもできないほどの仕事があると思ったけど……。
でも、それを放棄してまでも、京を守らなければいけない状況ということなのかと、僕は勝手に納得した。
さて、どうしたものか。
何か力になりたいが、待機命令が出た。
自分の勝手で、動くわけにはいかない。
あまり納得せずに、その場に待機していたら……。
「どうも、こんにちは」
振り向くと、下から僕の眉間に銃が向けられた。
目の前の銃口の向こうに、見覚えのある顔があった。
やっぱり近くで見ても、女の子みたいに可愛い顔立ち。
「こんにちは。君には聞きたいことが沢山あったんだ。そっちから来てくれて嬉しいよ……楠木正成くん」
総大将のお出ましか……。
重い緊張感が僕らを包み込んだ。




