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兄弟④

「いつから分かっていたのですか?」


呼吸を乱しながら、高義は加賀を見つめた。


「あれ? 隠そうとしないんだ?」


「高義さんに嘘をついても無駄です。そんな相手に見え透いたことを話すほど、あたしはバカじゃありませんよ」


「過剰評価もいいところだね。


そうだね。初めてあったときから、かな?」


それを聞いて、加賀は深いため息をついた。


「謙虚しておきながら、最初からバレバレじゃないですか」


かすかに笑みを見せながら、高義は続けた。


「だって、不自然に思ったからね。君の動きは、中学生とは思えないほど無駄がなかった。


一介の武士の家の娘があんなスキルを覚えるなんて思えない。


なら、そのスキルをそんなときから覚えているのは……忍くらいしか俺の頭に思い浮かばなかっただけのことだよ」


「そうですか……。まだまだ修行が足りないですね、あたし。


それで、それを打ち明けた、ということは、あたしはもう用済みということですか?」


高義は、頭の上に疑問符を描いたような表情をする。


「用済み? 残念ながら、これからも、君にやって欲しいことがあるんだよ」


「やって欲しいこと……? それは何ですか?」


その返答まで、少し間があった。


この言葉はちゃんと彼女に伝えたい。


そういう思いがあった。だから、彼は息を吸ってから、言葉を吐き出した。



「これからも高氏を守って欲しい……」


その言葉の衝撃で、加賀は一瞬言葉を失い、呼吸することを忘れた。


「何言ってるんですか!? あたしは長崎様からあいつをあわよくば殺害するように頼まれた者ですよ? そんなやつに、殺害対象を守れって頼むなんて……」


「君だから頼んだんだよ。だって、加賀ちゃんは、高氏を殺すつもりなんてないでしょ?」



加賀は、高義から目をそらす。視界は、何もない床。黒目が数ミリ左右に泳いでいる。



「いや、殺したくないと言うのが正確か。加賀ちゃんは、今、高氏とこれからも一緒にいたいという願望と、高氏を殺すという命令のジレンマに悩んでいる……そうでしょう?」


加賀は、呼吸を整えてから、もう一度しっかり高義の目を見つめる。


「なんで分かるんですか?」


冷たい声を作って、問い詰める。


「やっぱ、君は似てるんだよ、高氏に。


高氏が小さい頃さ。あいつ、母親に怒られてたんだよ。


それもほとんど当てつけ。きっと、日頃のストレス発散っていう目的も潜んでただろう。


プライドの高い女性だったからね。「優秀な息子がいる」っていうステータスのために、必要以上に厳しく育てられたんだ。


そんな高氏に、問いただしたんだ。今の状況をどう思っているのか。


外から見たら異常そのものだけど、もしかしたら、内からは分からなかったんじゃないか。だから、この悪夢が続いているんじゃないかって思ったんだよ。


でも、違った。高氏も、それが異常であるって分かってたんだよ。それでも、あいつは受け入れた。


なんでか聞いたらあいつ言いやがったんだ。


『仕方ない』って」


蛙の子は蛙。異常の子は異常。


親の(あやま)ちを「仕方ない」という一言で、収める子どもがどこにいる?


それじゃあ、子どものほうが大人じゃないか?


その異常さは、恐怖を覚えるほどだ。


だけど、加賀も同じようなものだ。


伊賀の里にいたとき、彼女も上からの指示や無理難題に抵抗なく答えていたのだから、人のことは言えない。


そう、加賀には、高氏が過去の自分のように見えてるからこそ、放っておけないのだ。


「きっと、高氏も君と同じような立場だったら、『仕方ない』ってことで、君を殺してしまうかもしれない……泣きながら、ね。


でも、それであいつは幸せになったか? 近くで見ていたから分かると思うけど……あいつは苦しんで、辛くなって、悲しんだ。


君には、そうなって欲しくない。



そして、高氏がまた自らの首を絞めるような道に行こうとするなら……叱って止めて欲しい」


高義は、机の上に置いてある注射器を手に取った。それを手首に刺す。


また、これを使うとはね……。


高義の呼吸が少しずつ一定に落ち着いてくる。冷や汗も段々と引いてきた。


来ていたTシャツを脱ぎ、ベッドの上にある防具を装着する。下半身は、ここに来る前に、既に装着していた。


加賀がベッドの下に置いてあったケースから、一本の槍を取り出し、高義に差し出す。


それを受け取った高義は、窓側に移動し、窓を開ける。


そこに片足をつくと、振り向きざまに、加賀に念を押した。


「……本当に、頼んだよ」


その寂しげな顔に、加賀は確信をもって返事することはできなかった。


でも、「はい」と受諾の意は述べた。


「ありがとう」


高義は、窓から飛び出した。


その斜め下には、交戦中の狂人がいた。


目には目を。


歯には歯を。


狂人には狂人を。


(あいつらを討つのは、同じく『薬』に頼った俺がふさわしい)


高義は、シールドを蹴って、空中で態勢、移動を制御する。


狙いは決めた。動きが比較的鈍い多治見のほうだ。


あちら側が気づかない内に高義は、槍にパワーを込める。


そして、高義が地面に着地する。


同時に、炎より熱い刃が振り下ろされ、多治見の左腕が切断された。












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