表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/111

兄弟③

「なんですか、今の声は……!?」


佐々木の拳は震えていた。想定の限り、最悪の展開。佐々木にとって、一番あって欲しくない事象。


「大変です! 誰かに音声システムを乗っ取られました!」


「高氏くん、聞こえるますか? 聞こえるなら、応答してください!」


佐々木は必死に目の前のマイクに向かって叫ぶ。しかし、それは、高氏に届くことなく、車両の中で反響するだけである。


(まだ、体を動かせる状態じゃなかったはず! まだ、微かだが、生き延びる可能性が存在していたはず! まだ、兄弟たちと楽しい日常を過ごしたかったはず!)


でも、彼は、それらよりも、自分の手で兄弟を守ることを選んだ。自分の手で高氏を戦わせないことを選んだ。そして、武士らしく、戦って死ぬことを選んだのだ。


「佐々木様!」


突然開いた、車両の扉。血相をかいた兵士が呼吸を荒くしていた。


「どうしましたか?」


「六波羅探題軍で管理していた、佐々木様の槍型ヴァサラと防具の軽量式具足の一式が、何者かに盗まれました!」


「軽量式……あの近距離用ヴァサラのために作らせたものですか……」


(近距離……ということは、やはり高義さんか……)


高義も近距離で戦う武士であり、佐々木と高義は、戦い方が似ているため、特注で作ってもらうヴァサラや防具が似てくる。


きっと、自宅にある自分用のヴァサラと防具を持ってくると、時間がかかるから、佐々木のを借りたのだろう。


しかし。



(でも、どうやって、厳重な管理をくぐり抜けて、持ち運ぶことができたんだ?)


▷▷▷▷


「ゴホッゴホッ」


高義は咳き込む。先ほどのアナウンスの途中で、咳き込むことが心配の種だったが、咳をしないで喋り通すことができた。


しかし、それは前哨に過ぎない。今から、その病体で、狂人二名と戦わなければいけないのだから。


一瞬、気がゆるみ、彼は座っている椅子の背もたれにもたれかかる。


場所は、現場近くのホテルの一室。


人がいないことをいいことに、利用させてもらっているのだ。


ギィーと、扉が開く音がする。


「お疲れ様です」


一人、部屋に入ってきた。そして、高義に話しかける。


「本当に、お疲れ……。とりあえず、最初のノルマはクリアだ。早く次に行かないと……」


椅子から立ち上がろうとして、高義はよろけて膝を地面についた。


「そんな体で無理しないでください!」


心配して駆け寄る少女。


それを右手で静止する高義。


「今さら、心配したところで、意味無いだろ? 俺は覚悟を決めたんだよ……」



それに……。



「ここで僕が死んだほうが君にとって都合がいいだろ? スパイさん?」



『加賀』は、差し伸べようとした手を止めた。



「やはりバレていましたか」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ