兄弟②
「大丈夫か? 義貞?」
僕は、六波羅探題軍が交戦している間に、義貞救出のために、彼のもとに駆け寄った。
局さんは、軍の兵士に頼んで、安全な場所まで連れて行ってもらっている。
「おう、高氏……。なんとから生きてるぜ……。で、今、どんな状況だ……?」
「見ての通りだよ……」
僕の顔は自然と悔しさを表現する。
うつ伏せで倒れていた義貞の前には、修羅場が存在していた。
土岐と多治見……いまや、狂人と化した二人が、六波羅探題軍と互角にやりやっている。
いくら味方軍の兵士が切りかかっても、シールドで守り、味方軍のシールドをあの人たちはたやすく破る。
人が多くて、見えないが、何回か『赤い何か』が噴水のように飛び散るのが見えた。
昨日に引き続き、トラウマが植え付けられたが、今は吐いている余裕もない。
早く、義貞の救出を考えなければ……。
直義も義貞救出するときに、敵が襲って来ても守れるように、シールドを貼っている。
「義貞、今すぐ救護班に」
「バカか高氏、俺はまだ……」
「バカはお前だ! そんな体して無理言ってるんじゃねぇ!
お前が死んだら、誰が新田家、継ぐんだよ!?
自分が死んだときに、友達がどう思うか、考えてんのかよ!?」
僕の罵倒に義貞は驚いた顔をした。
よくよく考えてみたら、それが初めての義貞への反抗であった。
僕はあまり人のことを否定しない。
だから、罵倒、悪口をあまり言った覚えがない。
でも、今回は使わせてもらった。
だって、仲間を叱るためだから。
「すまねぇ、お前にそんなこと言わせてよぉ……。肩借りるぞ」
「借りろよ。好きなだけ」
僕は義貞を担いで、救護班のいるところまで、走る。
阿鼻叫喚を背にして。
義貞のヴァサラを使い、パワーとスピードを少しあげていたので、早く着いた。
「お願いします!」
彼らは緊迫した表情で、「分かりました!」と応答してくれた。
どうにか義貞は助かりそうで一安心した。
イヤホンからは、軍で局さんを保護したことが連絡された。
よし、これで二安心ってところかな?
さてと……。義貞の近くで見守りたいとも思うが、今はそれどころではない。
あの狂人たちを倒さなければいけない。
人が殺されるのを、人が苦しむのを見るのは、もうコリゴリだ。
僕が強く義貞の剣を握った。
そのとき、イヤホンから指示が聞こえてきた。
「足利高氏は、その場で待機せよ」
意思を固めた矢先に、その指示出たことに、落胆しそうになったが、それより先に気になることがあった。
その声は決して佐々木さんのものではない。
そして、その声には、聞き覚えがあった。
それは、生まれたときから、僕と一緒にいた人の声であった。
「高義兄さん……?」




