兄弟
「さてと……」
正成くんは、僕たちに挨拶を済ますと、崩れたビルに向かって歩き始めた。
後ろに手を組み、ゆっくりと歩く。
「構え!」
後ろから、佐々木さんの命令が聞こえる。
それに従い、ビルに侵入せずに外に残っていた兵士たちが銃を持ち、構えた。
「放て!」
その刹那、親指ほどの大きさの光弾がいくつも正成くんに向かって放たれた。
僕は、局さんの目を覆い隠し、僕も目をつぶる。
まぶたの裏からも感じる光。
それがだんだんと薄くなっていき、ついには消えた。
恐る恐る、ゆっくりとまぶたを開ける。
そこには……。
目を閉じる前と変わらずに、ゆっくりと歩く正成くんの姿があった。
「えっ……? 何が起こったんだ……」
「シールドだよ……」
「シールド? でも、直義、シールドは360°展開できることはできないから、全部防げるはずが……」
「兄ちゃん……。それが……展開しやがったんだ。360°全部に」
え? 嘘だろ?
そんな常人離れのことをして、防いだのか。
シールドは、180°展開が一般的で、日ノ本一の鉄壁を持つ直義ですら、270°が限界である。それすらも凌駕するなんて……。
ん? ちょっと待て。
「でも、彼はヴァサラを持っているようには見えなかった。どうやってシールドを?」
「もしかして……あれじゃない?」
僕の質問に答えた局さんは、上空に向かって指をさす。
上空には、一本の剣が浮かんでいた。
それには、どこか見覚えが……。
僕はすぐにビルの中で奪ったヴァサラを探す。
しかし、あたりにはどこにもない。
ということは……あれこそが探している剣ってことか。
その現象に、そこまで驚くことはない。僕も剣舞大会においてやってのけたことだ。
でも、それをやってのける人間がもう一人いたことに驚いた。
ということは、彼も支配率が100%を超えたということか?
支配率100%の武士は見たことない?
ちゃんと調べたのかと、研究者たちを疑った。
彼は、宙を舞う剣を手元に引き寄せて、掴まえると、それを振るって、瓦礫を吹き飛ばした。
すると、中から土岐と多治見の姿があった。
見つけるなり、正成くんは、胸元から怪しげな注射器を出した。
「動けなくなった味方は見捨てる主義なのですが……。今回は特別です。チャンスを与えましょう」
と言うと、彼は持っていた注射器を土岐、多治見にそれぞれ刺した。
すると、二人の体が不気味に痙攣し始めた。
そして、二人は立ち上がった。自らのヴァサラを握りしめ、狂気に満ちた眼で睨みつけ、怨念のような奇声を発しながら。




